第30話

 ひとしきり騒いだ朔良は、なんとか気持ちを落ち着け、今では精神安定剤として美波を膝の上に座らせて抱きついていた。


「……はい、落ち着かせます。騒いですみませんでした」


「気にしないでいいわよ。ちょっとイタズラが過ぎたわね」


「すいません朔良さん」


 魔王と元一国の姫が頭を下げた。朔良は慌てそうになるところを慌てて美波を強く抱きしめたことにより、なんとか耐えた。


「い、いえ!大丈夫でしゅーーーす!」


 やはり完全には落ち着けていないようだった。


 しかし、オスクロルとエーテルは素晴らしいスルースキルを発動させて、朔良が噛んだことは全く気にしない体で話を進めた。


 オスクロルとエーテルはアイコンタクトし、オスクロルは目をつぶった。どうやらエーテルが進行をするらしい。


「今回、朔良さんを呼んだ理由は、どうするかを選択させるためです」


「選択……です、か?」


「はい、選択です」


 エーテルは頷き、真剣な表情で朔良を見つめた。


「朔良さんは珠希様と同郷ーーーつまり異世界人で、戦争もない平和な国から来たとお伺いしてます。私たち魔王軍が提示するのは二つ。それは、私たちとともに、私が治めさせてもらっている人間領で戦争が終わり、元の世界に戻るのを待つか、私たちと一緒に戦場へ出るか、です」


「戦場………」


 朔良は顔を伏せた。


「そこら辺はミリーナが上手くやってくれたようだけど、貴方は助けるまで、人間たちに酷い目に合わされているわ……きっと、戦場に出れば、覚えてはいなくとも、きっと心が、魂が否定をする………無理にとは言わないわ。出来れば私個人としては戦場には出ないでしっかりと心を療養して欲しい……ってのが魔王の意見」


「はい。私としてもそちらをおすすめします」


 朔良は、膝の上に座っている美波の背中に顔を押し付ける。


「……美波は、どうするの?」


「……私は、珠希くんに救われたから、珠希くんのそばにいる。だから、珠希くんが戦場に出るなら、私も追いかけるよ」


 美波はお腹に回されている朔良の腕に手を置いた。


「神楽くんは?」


「……俺は、クラスメートを助けなければならない。それに、友達を助けてやらなければいけないしーーー何より俺が魔王軍の役にたちたいんだ」


 ミリーナ、リリア、ルシフェラ、そしてオスクロルやベルセルク。大事な人や戦友が戦っているのなら珠希はその力になりたい。


「……そっか、魔王様、エーテルさん、私ーーーーーー」













「……本当に良かったのか?神田」


「うん。私も、神楽くんに助けてもらった恩があるからね」


 朔良が選んだ選択は、この城で戦場に行く人のサポート……つまり、ミリーナの所で預かることとなる。


 エルフは戦闘には向いていないが、回復魔法や弓などの後方でのサポート系が向いているため、そういうことをしたい、と朔良はオスクロルへ行った。


「神楽くん達が怪我したら言ってね!いの一番に飛んでくるから!」


「いや、俺は回復魔法使えるから……」


「私、魔眼持ってるから大丈夫………」


「えぇ……そんな……」


 がっくしと落ち込む朔良。


 ちなみに、今さらりと美波が魔眼を持っていると言ったが、珠希達が戦場へ向かっている間に、ミリーナが調べていた。


 翡翠色の魔眼。効果は自分や対象に絶対に破壊されない壁ーーーつまり、イモータルシールドを作り出すことができた。


 ミリーナは『守護の魔眼』と名付けた。


「……っていうかそもそも、問題として神田が回復魔法を使えるかっていう問題があるんだけど……」


「大丈夫大丈夫!神楽くんも美波と魔眼っていうチートあるんだから、私にもきっとあるはずだよ!」


「……まぁ否定はしないけど」


 と、会話を終わらせ、ミリーナがいる研究室へと辿り着いた。


「ミリーナはここの部屋だーーーミリーナ、いるか?」


 トントントンとノックを3回すると、「少し待ちたまえ」という声が聞こえ、しばらくしてドアが開いた。


「来たか?」


「あぁ」


「……なるほど、その子が来たのか」


 ミリーナは神田へと視線を向けた。そして、朔良は


「……あわあわあわあわ……」


 あまりの美人さにやられていた。


「……ちょ、ちょっと神楽くん!美波!」


「ん?」


「きゃっ」


 グイッと二人を引っ張り、顔を近くは寄せた。


「ちょ!なんなのあの人!あんな美人さんなんて聞いてないんだけど!」


「いい女だろう?」


「なんで神楽くんが自慢げなのよ!」


「だってミリーナさん、珠希くんの女ですよ?」


「はぁ!?いくらなんでも手を出すのが早すぎよ!ハーレム主人公か!」


 ちなみにこの会話。全てミリーナに筒抜けであり、エルフ特有の長耳がぴくぴくと震えていた。


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