第25話
1時間後。珠希の魔法により約5分の1が死体に変わった人間軍。やばい気配を感じた人間軍の指揮官はまだまだ温存させるはずだった秘密兵器を早めに投入した。
『狂化の首輪』により、自由意志を失った五人。元々強い異世界人が、首輪の効果によりサリに強力になった捨て駒専用奴隷である。
そんな五人の前に立ちはだかるの魔王軍の五人は、まず、同じ異世界人の珠希、魔王12幹部のルシフェラ、ベルセルクに次ぐ実力者のアシュタル、魔王から直々にスカウトされる実力者のラピス、そしてアシュタルの弟であるアリオテスである。
ここにいる全員が魔王幹部と同じくらいの実力を持つ、現時点での最強の五人である。
「……珠希殿、体調は大丈夫なのか?」
「すまないな、アシュタル。心配をかけた」
「珠希殿はそこで見ててもいーんだぜ!異世界人だがなんだが知らねーが、俺と兄貴が入れば最強だからな!」
アリオテスが逞しい胸をドンッ!と勢いよく叩く。これまで殆どが実力者達の横にいた珠希。なんとなくだが実力差というものをわかってきたような気がする。
「アリオテス殿。目標は、あくまでも足止めですゆえ」
「分かってる。そこら辺は心配すんな」
ラピスがサラッと注意した瞬間、アリオテスの顔が引き締まる。彼は言動故に楽観的に思われがちであるが、実はしっかりとしている。
「………おいでなすったか」
雄叫びが聞こえる。その声は空気を震わせて、珠希達の耳まで届く。
「………それじゃあ。サクッと行こうか」
珠希の姿が消える。移動場所は狂化状態の稲村の目の前。
「がァ!?」
「へぇ、その状態でも驚くんだな……眠れ」
ガシッと稲村の顔を掴んで魔法を発動させる。そしてそのまま転移で退避。
「1人目だな。ラピス、ミリーナの所まで」
「かしこまりました」
ポイッとラピスへ稲村を投げると、ラピスも稲村の顔を掴んで転移を始めた。
「お見事です、珠希様。幸先いいですね」
「……いやぁ、こんなにも1人目が上手く行くとは……」
珠希が稲村に掛けた魔法は
「……それじゃ、後は一体一だな。足止めよろしく」
「おまかせを」
「任せてください」
「やってやるぜ!」
「珠希殿、戦闘の前にこれを」
アシュタルは自身の腰に差していた剣を珠希へと差し出す。
「いくら珠希殿でも、剣は持っておいた方がいいかと………」
「………いいのか?」
「はい、私には……取っておきがありますので」
「………神田か」
顔はなかなか整っているが、狂化の首輪のせいで、目は虚ろ、顔は煤け服もボロボロ。口は常に開けており、そこからは涎がだらしなく漏れており、せっかくの顔が超台無しである。
ま、珠希には関係ないが。
「……展開」
珠希は魔法陣を発動させ、どんな攻撃でも、魔力障壁を出せるように準備をする。
「あぁ………アアアアアアアア!!!」
愚直に真正面から珠希へと向かい、持っている剣を振り回す神田。芸も技もない出鱈目な振りだが、珠希にとっては十分に脅威に感じる。
だから慢心などしない。念には念を入れ、魔力障壁を5重に展開して身を守る。
「アアアアアアアアア!!」
神田は魔力障壁とぶつかるが、破れない。しかし、それでも破ろうと我武者羅に剣を振り続ける。
「……眠れ」
「アアアアアアアアア……アアア……ぁ」
どさり、と神田の体が地面へと崩れ落ちる。珠希は上から魔法で水を発生させて、神田の体を綺麗に洗った。
なぜなら、近くによると物凄い異臭がして、どう見ても兵士に慰みものにされていたとしか思えないほど付着していたからだ。
(………気に入らねぇ……)
珠希は舌打ちをして、しっかりと洗い流した神田の体を持ち上げた。
「……二人目ですね。こちらへ」
ラピスが横に現れると、神田の体を今度は優しくラピスへ渡す。
「稲村は?」
「無事、首輪を取り外せました。今はゆっくりと休ませております」
「……そうか。すまない、ラピス敵はどこが一番固まっている?」
「……?はいーーーーあちらの砦で高みの見物を決め込んでますね」
「……そうか」
珠希は魔法陣を発動させ、視線を砦へと向ける。
先程はあまりの広範囲で倒れてしまったがーーーあの程度だったら大丈夫だろう。
「……
「……あの?」
「……これであの砦の人間は全滅したろ……神田を頼んだ」
「………はい、お任せ下さい」
ラピスは消え、珠希は後ろを振り返る。次の瞬間、人間軍が避難と高みの見物を決め込んでいた砦は、赤い霧と血に染まった。
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