第24話

『免疫反応』というものを知っているだろうか。


 血液が持っている抗体が同じ抗原に接触することで起きる、細胞の破壊のことである。地球で輸血が同じ血液型でないといけないのは、この免疫反応を起こさないためにしているものであり、もし、違う血液型を輸血してしまえば、免疫反応が体を蝕む。


 今回、珠希が発動した反逆せし血液レジストブラッドは、この、免疫反応というものを過剰に引き起こす魔法である。


 まず、人間軍のところに霧が発生し、突然のことに驚いた人間軍は足を止めた。魔王軍の方には、事前に霧が発生したら止まるようにと伝えてあるため、この魔法の餌食にはならない。


 この霧は血液をよく吸収するように出来ており、人が死んでいく毎に、血を吸い込み、その霧は赤く、凶悪になっていく。


 一人の兵士から血が吹き出した。この霧には最初、珠希の血が取り込まれているため、この世界の人と根本的に構造が違う血液異物に体が反応し、魔法によって過剰に引き起こされる免疫反応が死へと至らせる。


 後は簡単。その兵士が吹き出した血を霧が吸収、そしてまた別の兵士が血液入りの霧を吸って免疫反応を起こす。


 1人の死から広範囲に人が死んでいく、まさに超広域型殲滅魔法。


 霧が晴れると、そこには夥しい数の人の死体。その光景に、人間軍はおののき、魔王軍は声を上げた。


「……くっ!」


「珠希様!?」


 魔法が切れた瞬間、血液を失った代償に、少しばかり目眩がして、膝を地面に付ける。後ろからルシフェラが支えるように珠希の体に抱きついた。


「……大丈夫だ。少し、血を失っただけだ」


 珠希の顔は青くなっており、具合がとても悪そうである。


「………ラピス、今のでどれくらい、人が死んだ……?」


「はい………大体、五分の一でしょうか」


「五分の一……」


 今回、出張ってきている人間軍の数は2万程。つまり、珠希は4000人前後の人を殺したことになる。


「……倒れてる訳には行かないな……」


「……大丈夫ですか?」


「あぁ、こんなところでくたばる訳には……ってあれ?口調どうした……?そういや呼ばれ方も……」


 いつの間にか口調や、呼び方が変わっていた事に気づく珠希。しかし、ルシフェラの心境の変化には気づかなかった。


 ルシフェラは、その端正な顔に笑みを浮かべるだけだった。


 サキュバスの本能が快楽なら、天使の本能は慈愛。


 先程の天幕の一連で、珠希のギャップにガッツリと本能が刺激されてしまったルシフェラ。しかし、忘れてはいけない。この後に珠希とのキスが待っているのだ。堕ちるのも時間の問題では無かろうか。


 フラフラしながらも立ち上がる珠希。失った血液が回復するまでには時間はかかるが、そうも言ってはいられないだろう。


 きっと、あいつらが出てくるではずだからである。


「ラピス様!」


「何事ですか」


 一人の悪魔軍兵士がラピスの元へやってくる。


「伝令です!我が隊の耳がいい奴が聞きました!『勇者を出せ!』と、やけに焦った声が聞こえたそうです!」


(………やっぱか)


 いきなり訳分からん魔法によって兵士の4000人前後が死体へと早変わりしたのだ。


 そうなれば必然にーーーー強い力に頼るのはヒトの性だろう?

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