第22話

 夜はたっぷりとリリアとよろしくやった次の日、珠希は今日もベルセルクの元へ向かった。


「来たか。兵のみんなには既に伝達済みだ。思う存分にやるといい」


「あぁ、助かる」


「礼を言われるほどでは無い」


 フッ、とベルセルクは珠希に笑いかける。


「それでは、行ってくれ珠希。ラピスを待たせている。君は、異世界人にだけ集中すればいい」


「さんきゅ」


 部屋から出ると、既にラピスは待機しており、珠希を見ると、一礼した。


「おはようございます、珠希様………その、武器などはいらないのでしょうか?」


「あぁ、必要ない」


(だって使えないし)


 珠希は今までの何かを習ってはいなかったため、武道の経験は無い。魔眼で知識を集めても使える訳でもない。


 珠希の唯一の武器は魔法のみである。


「……大丈夫、なのでしょうか」


「心配はいらない。ルシフェラもそばに居てくれるからな」


 ちなみにリリアはお留守番である。最初はリリアも着いていくと言って聞かなかったが、キスして黙らせた。文句なんか言わせない。


「呼んだか、我が君」


 そして何故だがルシフェラの珠希の呼び方が我が君に変わっていた。珠希は手の甲に口付けは忠誠を誓う的なイメージを持っているのだが、この世界ではどうなのだろうかと思った。まぁ教えてくれなさそうだったのだが。


「あぁ、そろそろ出陣らしい……少し緊張するな」


 戦争がない平和の国からやってきた珠希は、やはりまだ戦争ということをあまり実感は出来ていない。昨日爪痕は見たが、それだけではまだ実感は湧かない。



「……ラピス、最初は安全な場所でいいから、戦場の近くへ飛んで欲しい」


「………よろしいので?」


「あぁ」


 ラピスの言葉には、大丈夫か?という意味も含めていたが、きちんとそれを与した上で頷く。


「いずれ、俺だって人を殺すかも知れないんだ。ヘタレないためにも、少しでも人の死に慣れておきたい」


「………………………わかりました。それでは、珠希様、ルシフェラ様。転移をするのでお手を」


 両手を差し出すラピスに2人はそれぞれ手を重ねた。


「それでは行きます………転移テレポート





「………うっ!?」


「我が君!?」


 匂いを嗅いだ瞬間、膨大な血の匂いに思わず鼻と口を抑えてよろめいてしまう珠希。ルシフェラが急いで珠希を支えた。


 珠希の眼科に広がるのは、大量の血飛沫、そして魔王軍と人間軍の死体。全てがグロテスクに移り、吐き気を催す。


 しかし、次の瞬間には目の前の光景は変わっており、血の気配も遠ざかった。どうやらラピスが機転を聞かせてすぐさま転移をさせてくれた。


「我が君、大丈夫か?」


「はぁ………はぁ……!」


 肩で深く息をする珠希。視線も安定していなく、汗もすごい。


 なにか出来ないかと思ったルシフェラは、リリアの胸に顔を埋められて苦しいながらも喜んでいる珠希の姿を思い出す。


(……しかし、私は)


 リリアと比べ、随分と貧相な体つき。しかし、リリアと比べるとという意味であり、そこら辺の女性よりかはバランスのいい体つきをしている。


「………ええい!」


 覚悟を決めたルシフェラは、胸鎧を外し、珠希を胸に顔を埋めるようにして抱きしめた。一瞬ビクッ、とした珠希だが、すぐ様ルシフェラを抱きしめた。


(……落ち着く)


 珠希はルシフェラの体温と、女性独特の匂い。そして、安心感で動転していた気持ちや、軽くトラウマになりかけていた気持ちやら大分落ち着いてきた。


「……あり、が、とう……」


「う、うむ………」


 ちなみにルシフェラはいつもと違うギャップにやられていた。言うなれば、天使の本能である母性が刺激されたのであった。


 十分に堪能した珠希は顔を上げ、もう大丈夫だと言う旨を伝えたが………。


「………う、うん……その、もうちょっとだけ甘えてもいいんだぞ?」


 顔を背けながら頬を赤くするルシフェラに珠希は胸を撃ち抜かれてしまった。後でこれはリリアに絞られることが決定した瞬間だった。


「………い、いや、大丈夫だ。なんか嫌な予感がする……」


 ちなみにそれを感じとった珠希だが、時すでに遅し。リリアの無慈悲な搾精は決まってしまった。


「ラピスもありがとう。機転を効かせてくれて」


「礼を言われる程ではありません」


「じゃあ俺からなにか後でベルセルク閣下にラピスの事進言しとくから」


「い、いえ!流石にそれはーーーー」


「いいから、受け取れって」


 珠希はラピスの頭にポンッと手を置いてそのまま撫で始めた。


「下手したら俺は、もう二度と戦場に立てないところだった。それを救ったのは間違いなく、ラピスのおかげだ。だから、黙って受け取ってくれ」


「……………はい」


 力のない返事だった。



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ポケ○ンのオラシオン聞いてたら感動してしまい、うっかり涙が出ちゃう所でした。

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