第19話
「ようこそ、異世界の勇者たちよ」
美波は、視界のフラッシュが収まり、ゆっくりと目を開けるとまずは驚愕の色を浮かべる。
目の前にはやけに尊大な態度でいる腹をでぶでぶに肥やした王らしき人物。そして、美波や他のクラスメート達は手を縛られており、腕を後ろに回されていた。
「急で済まないがーーーーーそなたたちは捨て駒になってもらうとする」
その瞬間、美波は頭を酷く揺さぶられ、自我を保てないくらいの激痛に脳が悲鳴を上げた。
「あっ……うっ…」
どサリと倒れ込む。膝立ちでいたものの、痛みでそれすらも耐えられなかった。
(な……に……これ……)
意識を失う前に、王が何かを兵士たちへ命令してクラスメートをどこかへ連れていく。
(たまき……くん……)
美波が最後に見た光景は、自分に下卑た笑みを浮かべながら手をこちらへ伸ばす兵士の姿だった。
次に目が覚めた時は、痛みだった。
「いたっ………」
頬がジンと痛む。意識が覚醒した瞬間、物凄い異臭で一瞬腹の中にあるものが逆流しそうになったが、何とか飲み込む。ぼやけた視界で前を見ると、1人の兵士が美波に手を挙げていたのだ。
「どう………して……」
反撃しようとしたが、手は何かで繋がれており、何も出来ない。
「……うそっ……!」
そして、兵士の奥を見ると、なんと自ら男の上で淫らに腰を降っているクラスメートの女子の姿。目はどこか虚ろで、顔に光がない。
その光景に涙が出そうになる。そして次の瞬間。この男も美波のことを汚そうとしているのに気づき、心が絶望で支配される。
そして、思い浮かぶのは珠希の姿。
(……嫌だ……)
目に涙が浮かび、歯がカチカチと言う。その姿を見た兵士はさらに悪い笑みを浮かべる。
(嫌だ………こんな知らない人に
美波の体が光り出す。
「絶対にーーーーイヤァァァァ!!」
次の瞬間、美波に手を挙げた兵士は吹き飛ばされ、風が吹く。美波の体の周りには、主人を守るかのように展開された緑色の壁。
吹き飛ばされた兵士が怒り狂ってもその壁はビクともしない。その事に安心した美波は再び、意識を失った。
「そこから先は、目が覚めたら珠希くんが救いに来てくれて終わり。私も気絶ばっかりでーーーー」
「ーーーもういい」
珠希は強引に美波を抱きしめる。空気を読んだミリーナとリリアはいつの間にか珠希から離れていた、
「もういい…………辛かったな。もう喋らないでいいから」
「……………うっ」
不安、絶望、恐怖、そして安堵。様々な感情が綯い交ぜになり、精神が若干不安定の状態だった美波。体は休ませたものの、心はまだ回復しきってなかった。
「うっ、………ううっ……!」
珠希の胸の中で静かに涙を流す美波。珠希はゆっくりと背中を撫で、美波と視線を合わせると、優しくキスをした。
「んっ、ちゅ……」
美波と珠希の2回目のキス。一度目にされた時よりも優しく、体から、心から癒しを与えるように、今まで珠希がしたことが無いキス。
たっぶりと3分間。珠希もあまり攻めることはせずにただ隣にいることを証明したため、美波の瞳からは既に涙は消えていた。
「………大丈夫か?」
「うん……ファーストキスよりも、優しくて……甘いキス……やっぱり好き……」
胸にしなだれかかるように、体を預ける美波。サラッと告白されたが、珠希は年上が好き。大切だとは思っていても、珠希の攻略対象にはーーーーー
「………私、誕生日珠希くんよりも早いよ?」
「……………………何?」
グラりと、珠希の中にある何かがぐらついた。誕生日……そう、誕生日である。
確かに、誕生日が早ければ同い年でも年上である。その事に気づいてしまった珠希は、美波は『大切な人』から『攻略対象』を一気に吹っ飛ばして『愛しい人』へとランクアップした。
元々、珠希は美波のことを『年上だったらなぁ』と長いこと思っていたので、この変化は当たり前と言えば当たり前である、
「……ねぇ、珠希くん。誕生日私の方が早いから、年上ってことじゃダメーーーー」
「全然ダメじゃない」
ソコからの行動は早かったとだけ伝えておく。
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