第二章

第17話

 一之瀬美波は、回復させてくれたミリーナの伝言に従い、今日までは一応大事をとって休んでいた。


 既に、もう起きてから何度も何度も2度寝3度寝と繰り返しているため、既に眠気は何も無い。起きてからはミリーナの姿がどこにも見当たらなかったので、ただボケーッとしていた。


「……っと、起きていたか、美波」


「………………あ、ミリーナさん」


「大丈夫か?魂が抜け欠けていた気がするが………」


「はい、大丈夫ですよ。暇だったので………それにしても、その人は……?」


 ちらり、と美波はミリーナの腕に抱かれているフォルカウスを見つめる。


「…………あぁ、頭の痛いことにな……」


「……もしかして、珠希くんですか……?」


「………もしかしなくてもそうだよ。この子、吸血鬼ヴァンパイア族のフォルカウスと言うんだがな……自分からしかけにいって見事返り討ちにあったのだ」


 興味本位に血を吸った事で、見事綺麗な返り討ちにあってしまったフォルカウス。見事に羞恥心と快楽で気絶してしまった。


「…………ほんと、節操なし……」


「まぁそう言ってあげるな。彼はこっちの世界に来てから……そうだな、何かはっちゃけてると言うか………」


「………まぁ、確かに彼って女たらしの部分とかありますから、向こうだったら確実に刺されてましたね」


「………またまたそれはなんとまぁ……」


 ミリーナは苦笑を浮かべた。


「……まぁ、とりあえず美波くん。立ち上がれるかな?この子を寝かせてやらないといけないのでね」


「あ、はい。分かりました」


 もそもそと動いてゆっくりと立ち上がる美波。足取りはしっかりとしていた。


 美波が退けたので、フォルカウスをゆっくりとベッドへ下ろしていく。


「………ふぅ、とりあえずこれで安心だな」


 やれやれと肩をすくめるミリーナ。


「……あの、珠希くんは……?」


「……あぁ、珠希くんなら今は魔王軍幹部と自己紹介をしているはずだ。そうだな、魔王に挨拶ついでに会いにでも行くか?」


「……いいんですか?」


「あぁ。大丈夫だ。君が人間の国で私達をどのように聞いているかは不明だが、少なくとも、ここにいるみんなは人間を嫌ってはいないからな」


 ミリーナは念の為に回復魔法をフォルカウスにかけておく。羞恥からの気絶には全くもって意味は無いと分かってはいるが、まぁ本当に念の為である。


「さ、着いてくるといい。君の愛しの珠希くんに合わせてあげよう。序に私も会いたい」


「………あの、ミリーナさんも先程あっていたのでは無いのですか……?」


「なに、それはそれ、これはこれと言うやつだよ」


「……あの、使い方間違ってません?」






「……ん?珠希くん?それならリリアに連れていかれたわよ?」


「んなっ!?」


「ふむ?」


 玉座にてぐでーっとだらしなく座っているオスクロル。美波からすれば魔王の威厳なんてものは存在してなかった。


「オスクロル、自己紹介いつ終わったんだ?」


「ついさっき。タイミングが悪かったわね。終わった瞬間にタイミングを図っていたリリアにがっちりと抱きしめられて連れていかれたわよ?」


 あのルシフェラが驚いていたわね~、意外だったわ~といいながら空間に手を突っ込んで何かを探すオスクロル。


「はいこれ」


 すいっ、と出されたのは何かの紙だった。指で飛ばしてミリーナの前へ滑り込ませる。


「珠希くんの部屋ね。行きたいならどうぞ。私はもう少しだらけるわ……久々に魔王モード長く出し続けて疲れちゃったわ……」


「………オスクロル。新参者がいるんだ。もうちょっとその……魔王の威厳というものをだな」


「………正直もう遅いと思うわよ」


「………あはは」


 美波は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「………まぁいい。それじゃあ私たちは珠希くんの元へいこうか。いこう、美波くん」


「あ、はい………ええと、失礼します」


「は~い」


 ふりふりと手を振って見送るオスクロル。ミリーナ達が去ってから、手を振ると、オスクロルの目の前に画面が現れた。


「…………今宜しくやってるけれど大丈夫かしら?」


 投映魔法。離れた場所の状況がテレビのモニターのようなもので見れるというものだが、オスクロルはその光景を見て苦笑いを浮かべてしまった。


「………あらあら、あんなにリリアが乱れてまぁまぁ………そんなにいいのかしら?」


 しばらくして、魔王城に一人の女性の悲鳴が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る