第13話

 そして冒頭に戻る。頭を撫でられていたままの珠希はペシっ、とその手を払い、序に、掴まれている手も払った。


「魔王様、一つよろしいでしょうか」


 スっ、と手を挙げたのはヒューマン族代表のエーテル・カリオン。この50年の戦争で、大陸国家に支配されたとある国のお姫様である。


「なんだ、エーテル」


「いえその……そのお方はこの戦争について参加の意思があるのか確認しておきたくて……ないのであれば、私たちの領地で預かる……なんて方針もあるのですか」


 珠希のことを純粋に心配している故の提案。


「いや、問題ない。珠希は既にこの戦争へ参加する理由を見つけた」


「序に、既に珠希くんはもう敵軍の城に乗り込んで、クラスメイトを一人救ってきた訳だが」


 ミリーナの言葉に、幹部の視線が集まった。


「……ほう?それは詳しく聞いたみたいのう、ミリーナ殿」


 その言葉に反応したのは、眩しい金髪に、赤い瞳に整った顔立ち。黒のロングコートを羽織っている吸血鬼ヴァンパイアのフォルカウスだった。


 女性の割には起伏の乏しい体。ミリーナと比べると、格差社会が著しく分かる。突っ込まない方が身のためである。


「いや、話すと長くなるからやめておこう。後で本人から聞いてくれ」


「なんじゃ……連れないのう……」


 そして赤い瞳でちらりと珠希と視線を合わせるフォルカウス。そして、その赤い瞳が一瞬眩く光った。


「あ、おいバカーーー」


 オスクロルが止めるも間に合わなく、フォルカウスが吸血鬼特有のスキルである魅了チャームを発動させた。


 しかし、珠希は一瞬だけ頭がクラっとする酩酊感を覚えただけで、瞳が熱を持った瞬間、意識は覚醒。そして、使われたのが軽いものではあったが、魅了チャームされたことも分かった。


 一瞬珠希のスイッチがはいりかけたが、自重しておく。何より、まだ定例会議中なのだ。そこら辺はきちんと場の空気を読んでおくことにした。


「………ほう、面白い」


 妖しくチロりと舌を動かすフォルカウスに珠希は何やら危機感を感じたのだった。


「……ふむ、そうだな」


 オスクロルは何やら顎に手を当てて考え始め、次の瞬間には手をパンっ!とならした。


 その音に幹部も珠希も注目する。そして、オスクロルは一言。


「よし、今日はもうめんどい定例会議は終了だ。残りは珠希への質問とする。興味あるやつだけ残れ」


 突然の終了宣言に全員が、目を丸くした後に、理解した巨人ジャイアント族のへカトラス、土人ドワーフ族のガルボ、そして獣人族ライカンスロープのライガスが姿を消した。


「………3人姿消したんだけど」


「…いや、あいつらはただちょっと人見知りと恥ずかしがり屋と酒にしか興味ない変態だから、珠希が気にする必要は無い」


 ちなみに、上からへカトラス、ライガス、ガルボである。ついつい、そんなんで幹部務まんのか……?と思ってしまった珠希。


「とりあえず珠希、お前はあそこに座ってこい」


 オスクロルが指さした先にはいつの間にか置いてあるイスがあった。


 珠希はそれに頷いて、指定された椅子に座る。そこは、幹部の顔全員が見ることが出来た。


 座った瞬間、何故か急に膝が重くなり、次の瞬間には、珠希の膝にフォルカウスが座っていた。


「………………へ?」


 突然の事態に流石の珠希も困惑した。フォルカウスは妖しく微笑むと、珠希の首筋に顔を近づけ、そのままブスリと、尖った歯を押し付けた。


「いっ……!」


 吸血。コキュ、コキュ、と珠希の血を飲んでいくフォルカウス。何やらイスがガタリと動く音が聞こえた。


 引き剥がすつもりのその手は、肩に手を置いてからは動かない。


 そのまま三十秒。血を飲み続けたフォルカウスは、やっと首から口を離した。


「……ふむ、中々美味な血ーーーんぐっ」


 完全にスイッチが入った珠希は、先程のやり返しも込めて、首に回されていたフォルカウスの手を掴むと、一気に引き寄せてからその口を塞いだ。


 それを見たミリーナが「あちゃー」と言った感じで頭に手を置いていた。


「んっ………ん?……んんんんんん!?」


 ようやく事態を飲み込んだフォルカウス。しかし、対面座位であるため、逃げようにも逃げられらず、しかも、手も掴まれており、腰にまで手を回されたいたフォルカウスは珠希に思うがままにされていた。


「んっ、ぷは、な、なにをすーーーーんっ!」


「仕返し」


 遠慮なく舌をフォルカウスの口にぶっこみ、口内を蹂躙する珠希。お互いが気持ちよくなるキスではなく、一方的に攻め続ける攻撃のキス。


「んっ……ちゅる……んんっ」


 広間に艶めかしいキス音が響く。広間には、頬を赤くし、手で視界を閉ざすもの。耳に手を突っ込んで目を閉じるもの。興味なさげに寝ている生き物、羨ましそうに見つめるものなど、様々であった。


 フォルカウスの白い肌は赤に染っており、次第に、珠希の口撃を受け止めるようになってきていた。


(……も、もうダメなのじゃ……)


 珠希が口を離した瞬間、ふらふらっと珠希の胸に顔を押し付けたフォルカウス。どうやらノックアウトのようだ。

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