第8話

「……と、年上の女性………」


 年上。なんという甘美な響きなのだろうと珠希は思う。今まで年上のお姉さん方に魅力を教えこまれているので、同年代、ましてや後輩など言語道断。


「さぁ珠希くん……私も大人の魅力とやらを存分に発揮し、君のーーーーー」


「そこまでにしておけミリーナ」


「あうっ」


 ポコん、とどこからともなく現れたオスクロルがミリーナの頭を優しく叩く。


「くっ……何をする魔王。もう少しで珠希くんと結婚する流れまで行けていたというのに……」


「そんなに間違いではないことに私はどう反応すればいいのか……珠希、リリアの目が覚めたぞ」


「リリア……」


「はい、こちらにいますよ」


 急に珠希の後ろから抱きしめるリリア。珠希の後頭部には素晴らしい感触を誇るリリアの胸が当たっていた。


「ミリーナ様、珠希様は今夜、私とまぐあうのです。余計なことはしないでください」


「リリア。珠希くんの面倒を見てやれと言ったのは私だろう?私にも珠希くんとする権利はあるはずだ」


「ぐぬぬ……そ、それでも!珠希様は私を誘ってくださいましたから!私が最初に珠希様とイチャイチャするのです!」


 と、リリアの姿が消える。ついでに珠希の姿も消えていた。どうやら転移で珠希を連れていったようだ。


「ふむ、魔王。私にも後で珠希くんの場所を教えろ」


「それは別に構わないけれど………珍しいわね。ミリーナがそんなに固執するなんて」


 魔王モードを解除してミリーナに話しかけるオスクロル。


「なぁに、君もあのキスを喰らえば一瞬で堕ちる。即落ちというやつだな」


「………そんなにかしら?」


「現に、リリアがあんなにも懐いてるだろう?サキュバスの本能……オスクロル、君なら充分に分かるだろう?」


「そ、それは分かるけれど……」


 サキュバスの本能は、自分を満足させた相手に対して恋心を抱き、絶対に逃がさないように愛しまくるというやつだ。


「……しかし、あんなにも独占欲をサキュバスが出すなんてな……よほど気持ちよかったのだろう。ま、私もやられたのだがな………それよりオスクロル。珠希くんの魔眼についてだが」


「何か分かった?」


 期待を込めた眼差しでミリーナを見るも、当人は首を横に振った。


「いや、。びっくりなことに」


「そう………偽眼最高傑作である解析の魔眼でも……」


「あぁ…………オスクロル、くれぐれもーーー」


「分かっているわ。彼の望まないことはしない。珠希くんの自由にさせるわよもちろん。勝手に呼び出したのはこっちなのだから………」


「それもあるが、ぜひ珠希くんが私が欲しいと言い出したら喜んでと言っておいてくれ。飛んでいく」


「言わないでも行く気満々でしょ………」


「まぁその通りだがな」


 と、クルッと体を回転させて、机と睨み合うミリーナ。


「とりあえず、珠希くんの部屋の座標は後で教えてあげるわ。今はリリアが勇気出しているだろうし」


「あぁ、あの子はサキュバスにしては引っ込み思案だったからな………なに、今夜くらいは好きにさせてあげるさ………はぁ」


「ため息つくくらいなら乗り込みなさいよ」


 やれやれね、と言った風にミリーナを見つめるオスクロル。


 一方、その頃リリアと珠希はーーーーー


「……り、リリア」


「はい、なんでしょうか?珠希様」


 転移でミリーナから逃げた後に、珠希が目を覚ました例の部屋に。そこに珠希はなすすべもなく押し倒され、リリアに乗っかられていた。


「その………お前は俺よりも年上か?」


「はい、珠希様はまだ17年しか生きていませんよね。魔族は長命な種族なので、老いにくく、死ににくいのですよ」


「おぉ………!」


 ゴクリ……と生唾を飲む。昔の頃から、美人だった年上のお姉さんたちが、歳をとる度に少しずつ老いていくのを知っていた。その姿を見る度に、珠希は悲しくなるのだ。


 年上は、無限の可能性を持っていながら、その美しさは儚く散りゆく。まさに、一時の花。


 しかし、先程あったミリーナも、目の前にいるリリアも、見た目の割にはもう何十、何百と歳上である。


 そう、ここは、珠希にとってのパラダイスなのだったーーーー。


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自分でもこれ書いててなんだろうと思いました。次回から真面目路線へ建て直します。

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