第7話

「ふぅ……ふぅ……た、珠希くん……君のキスはある意味武器だな……」


「……まぁ鍛えられたので」


 親のお客さんに子供の頃から、女の子を喜ばせるキスの仕方ぐらいは知っとかないとね、と、当時珠希が五歳の頃、親に隠れてこっそりとやってきていた当時女子高生の誰かさん。ちなみに、珠希のファーストキスもその女子高生の誰かさんである。5年ぐらいはその人に鍛えられ、2年もすれば追い抜いてしまった。ちなみに、童貞を捧げた相手もその人である。


「……ふぅ……さて、私も朧気な意識の中、珠希くんの魔眼を見ることが出来た……ふぅ、私のファーストキスも中々刺激的だったな……」


 ミリーナが手を振ると、どこかからか本が飛んできてその手に収まる。


「元来、魔眼というものは、所有者の性質、または性格によって効果が決まる。例えば昔、殺すのが快楽に感じるものには『即死の魔眼』、誰よりも優しいものには『癒しの魔眼』、そして、壊すのが好きなものには『破滅の魔眼』と、使用者によって善にもなるし、悪にもなる」


 そして、ミリーナの瞳が赤くなる。


「私のは魔眼の性質をある程度まで複製することに成功した『解析の偽眼』だ。魔眼オリジナルには遠く及ばないが、それでも、私という研究者にとっては充分だ」


「はぁ………あの」


「ん、どうした珠希くん」


「……なんで対面座位状態なんだ?」


「なに、私が君の顔をもっとよく見たいだけだ」


 さてはお前らもう1回キスでもするのか、と言いたいほどに近い珠希とミリーナの顔。


「ふむ………よくよく見れば、そこそこは整っている顔だな。抜群に整っている訳では無いが、それなりに女受けが良さそうだ」


「はぁ……」


「向こうでは付き合っていた人はいるのか?」


「いえ、俺、こんな性格なんで……」


 それなりに告白はされてきた珠希だが、身の上やらなんやらを知ると、「そういう人とは思わなかった」と言われ、向こうから勝手に去っていく。こんな性格でもいいと言ってくれたのはとあるクラスメートの女子だけである。付き合ってはいないが。


「………ふむ、どうだ珠希くん。私と付き合わないかい?」


「………は?」


 一瞬意味がわからず、思わず聞き返してしまった珠希。


「ほら、私はこれでも綺麗なほうじゃないか」


「はぁ……まぁそうですね。オスクロルの次くらいは綺麗だと思いますよ」


「魔王は例外だ。あんなん、男の理想を詰め込んだようなものだからな。彼女の前では全ての男が虜になるんだ」


 少しミリーナから抓られた珠希。別に痛くはなかったが、すこし申し訳ない気持ちになった。


「それは済まないな……しかし、俺は年上の方がどっちかと言えば好きなんだが……」


 昔から綺麗な年上に囲まれてきた珠希。当然、好きなタイプも年上になるのはそう時間がかからなかった。


 だからその女子とも付き合っていない。大事な存在だとは思っているが、まだ好きになるまでは至っていない。


「なら問題ない。私は300歳だからな。年上好きには最高なんじゃないか?歳をとってもこの美貌は後2000年は保つからな」


「ぐっ…………」


 一瞬いいなと思ってしまった。既にキスをして、ミリーナの事は信頼に値する人物だと確定したため、リリアと同じような立場にミリーナが登っているのは明らかだった。


「しかも………魔王軍は力さえあれば嫁を何人も娶っていいことになっている。魅力的じゃないか?」


「むっ………」


 一瞬素晴らしいと思ってしまった。


「多分だが………このキスで既にリリアも堕としたのだろう?私でさえ、既に堕ちているのだ……私とリリア……どうだ?」


「………いや、どうだと言われても……」


(ぶっちゃけすごい迷うんだが……-)


 去年、ファーストキスと童貞を捧げた女性の言葉が蘇る。


『珠希くんは、きっと、沢山の女の子をそのテクで堕とすんだろうねぇ……羨ましいなぁ』


『……羨ましいって……なんですか雫さん』


『別に。ほら、私ってレズだから恋愛対象女の子じゃん?まぁ珠希くんとのえっちは凄かったけど』


『………………』


『君は顔も悪くないから、沢山の女の子が言い寄ってくる。だから、幸せにしてあげないとね』


『…………幸せに?』


『そうそう!なんなら、試しに私と結婚する?私、レズだけど、珠希くんなら全然ありだよ!』


『急すぎます。俺が結婚できる年齢になるまで待ってください』


『えっ………おっけーなの?』


 珠希の人生の先生は、親とその雫と名乗る女性だった。


「珠希くん。今日先程始めてあったが、君の事が好きだと確信できる。どうだ?君にとって、私はダメか?」


「…………ダメ……では無いと思います。ミリーナさんはきっと、とてもいい人です」


 ミリーナの瞳を見ていると、雫と顔を合わせた時のように、心臓が少し鼓動を早くする。それは、リリアの顔を見ても同じだ。


「もし君が、元の世界の法律なり、なんなりに囚われているのなら、それを捨てた方がいい。私が……魔王軍随一の魔法使いであり、魔王の右腕として断言する」


 ミリーナは珠希の瞳を見つめて力強く言った。


「君は、いずれこの世界でたくさんの嫁を持つようになるぞ。だって年上の女性なんて腐るほどいるからなここには」


 珠希は脳を直接揺さぶられるような感じがした。

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