第6話

 珠希は今、なんでも出来そうなーーーいわゆる全能感的なものを感じていた。やれと言われれば、直ぐにでも真似できる、そんな感じだ。


「……魔眼というのは、意志の力だ。意志しだいで、どこまでも強くなれる代物だ。我々でもあまり分からないことは多いが……今は私よりも詳しいものに事情を聞こう」


 そしてとあるドアの前で立ち止まるオスクロル。珠希もそれに習って立ち止まり、扉を見上げた。


「ここは……」


「ミリーナ………珠希をここへ引き寄せた者の部屋だ。ちょっと待て」


 コンコン……と二回ほどノックをする。はーい!と声が聞こえたから、しばらくするとドアが開き、1人の人が出てきた。


 いや、厳密には人ではない。造形などは思いっきりヒトに通ずるものがあるが、耳が特徴的だ。


 あまりアニメ関係にはなかなか強くない珠希ではあるが、友人の1人から聞いたことがある。


 確か、『エルフ』だったか。


「あら、どうしたの?魔王様、このまで来るなんて珍しーーーーーー」


 オスクロルに向けられている視線がゆっくりと珠希へ向き、珠希にお姫様抱っこをされているリリアに目を向けた。ちなみに、リリアはまだ気絶中である。


「ーーーあぁ、目が覚めたのね、納得納得」


「あぁ。頼んだぞ、ミリーナ」


「はぁーい。任されました……おいで、勇者くん」


 手招きをして部屋へと戻っていくミリーナと呼ばれたエルフ。『大丈夫か?』という意味を含めた視線をオスクロルへ投げかけたが、頷きしか返ってこなかった。


「……リリアを」


「任された」


 リリアをオスクロルへと手渡し、部屋へと入っていく。


 部屋の中はなんだか研究者っぽい部屋で色んな試験管やら、怪しい色をした液体が入ったビーカーやら本やらが乱雑に置かれていたが、そこまで汚くはなかった。


「それで、勇者くん」


「珠希です。神楽珠希」


「おっけ。珠希くんね、あ、ここ座って」


 言われた通りに座れと言われた椅子に座ると、ミリーナが飲み物を用意してくれた。


「ごめんね、水しかなくて」


「いえ、お気遣いなく」


 と、用意された水を飲んで、ちらりとミリーナを見る。やはり、人にはない特徴の長い耳、はち切れんばかりの胸が惜しげなく横乳を晒しており、先程のオスクロルほどでは無いが、それなりに露出が高い。


(……なんだ?魔王軍は露出が高い服しか着ないのか?)


 リリア、オスクロル、ミリーナを見た感想がそれだった。


 顔に目を向けると、やはり整った顔。色素の薄い金色の髪が背中まで垂れている。


「どうした、珠希くん。そんなにジロジロとみて」


「いえ、魔王に劣らずの美貌だなと」


「ははっ、君はなかなか世辞が上手いようだな。しかし、悪い気はしないよ」


 別に世辞という訳では……と思いながら水を飲む。とりあえず美しい女性は褒めておけという母親からの教訓。そしたら相手は機嫌が良くなって話が上手くいくからと幼い頃より教えられた。


「珠希くん。ここに呼ばれたのは何故か分かるか?」


「……まぁ、多分魔眼関係だと思います」


「ふむ………魔眼か……見せてもらっても?」


「いいですけど…………」


「……けど?」


「その……見せる方法があまり分からなくて…ただ、感情が昂っている時に瞳が熱くなることは分かるんですけど……」


 今までに3回ほど、瞳が熱くなる傾向があった。一回目はリリアとキスをしている時、二回目もオスクロルの目の前でリリアキスをしている時、三回目は先程、クラスメイト達の扱いを聞いた時だ。


 それらのことを話すと、ミリーナは顎を指でなぞり、何か考えると


「よし。それなら、私にキスをしていいから魔眼を発現させてくれ」


「………え?」


 あまりにも突飛な発言に思わず目を丸くする珠希。


「………なんだ?不満か?」


「いや、そういう訳じゃなくて……」


 そんな簡単にくちびるを許してもいいのか?ということだった。リリアについてはもう既に例外で躊躇いもなくキスはするが。


「なに、私は実験の為ならば体だって差し出せるぞ。珠希くん、ほら私を自由にしたまえ」


「………それでは失礼して」


 珠希は立ち上がり、ミリーナの手を掴んで強引に立たせて引き寄せる。そして腰をしっかりと逃げないように捕まえるとすぐさまキスをした。


「んっ……ふふっ、強引だな…んっ」


 余計なことは喋らなくていい。黙って感じとけと言われんばかりの珠希の激しい口撃。


(むっ………何やら気持ちの方に変化がでてきた……物凄いドキドキする……)


 サキュバス族であるリリアさえもキスの口撃で気絶までさせた珠希のテクニック。そんなに性への関心がないエルフには直ぐに変化が訪れていた。


(………やはり拙い……しかし、それはそれでありだ)


 強引にミリーナの唇を開かせると、舌を伸ばし、ミリーナの口内を蹂躙する。


「んっ………ちゅる……んんっ」


 ミリーナの手は快楽に耐えるように、いつの間にか珠希の服の胸あたりを掴んでおり、瞳は強く閉じている。それに気を良くした珠希は目を細めると更に攻めた。


 ギュッと、手を握っていたミリーナの手が俺の手を握りしめる。俺はそれに応えるように力を入れて握ると、ミリーナの方から体を寄せてくる。


「ぷはっ……はぁ、済まない珠希くん、少し、少しきゅうけーーーうぶっ」


 頬を上気させ、こちらを上目遣いで見つめるミリーナに対して、珠希は更に責めるのであった。

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