第5話
「……ふぅ」
(キスの)蹂躙が終わり、ばたんきゅーと倒れているリリアの肩と膝裏に手を回して持ち上げた。
「………珠希」
「……魔王か」
既に珠希の瞳は蒼の輝きはなくなっていた。
「……この喋り方、やめていい?」
「………はい?」
「いいのね!はぁー!やだやだ、あんな堅苦しい感じだど気が滅入っちゃうわほんとに」
先程まであった魔王の貫禄みたいなものがパッ!と消え去る。
「ごめなさいね珠希くん。あんな喋り方しないと『魔王としての尊厳がー』なんて口うるさく言う人がいるから、許してね」
「…お、おう……」
急な変化についていけない珠希。あと少しで腕に抱えているリリアがすっぽ抜けそうだった。
「さて珠希くん、私は、君に謝らなければならない、この度は、私たちの世界の人間が勝手なことやっちゃってごめんね」
「………え?」
珠希は何故頭を下げられているのかが分からなかった。だって、目の前にいるのは魔王で、呼び出したのは人間だ。
だから、何故、魔王が頭を下げているのかが分からない。分かったことを言えば、彼女にはキスをする必要もないくらい、どうしようもない善人なんだなということだけだった。
「……とりあえず、頭を上げてくれ。俺は、貴方が頭を下げていることよりも、貴方の顔が見たい」
「ふむ………これでいいかな?」
玉座から離れ、珠希の元へ少しずつ近寄る魔王。珠希の方からは姿が全体的に真っ暗でシルエット状態だったので、やっと姿を拝むことが出来た。
まず、目に付いたのが真っ赤な瞳。その次にものすごく長い銀髪、そして見事なプロポーション。リリアも物凄いものだが、この魔王はバランス、美、姿などが全て完璧なバランスで保たれていた。
「……………………」
思わず、珠希は声を失ってしまった。何故か知らないが、親がオーナーをやっているレズビアン専用店では、美人が沢山来るので、見慣れていたはずなのだが、トンカチで脳を思いっきり叩かれたかのような衝撃だった。
「……フフっ」
見蕩れていることが分かった魔王は更にとある一点部分を強調させるかのように腕を前で組む。珠希の視線が魔王の顔からそのまま下にーーーーー
「………!!」
サッ!と凄い勢いで顔を背ける珠希。寝てるリリアを見て気持ちを落ち着けようとしたが、やけに脳に残っているため、ずっと心臓は強く鳴りっぱなしである。
「……フフっ珠希くんはやり手に見えて実は初心?」
「…………違う」
珠希はそんじゃそこらの美人と目が合って顔を赤くさせる一般男子高校生とは違い、それなりに耐性はある方だ。
しかし、珠希が顔を赤くさせている原因は何よりも、格好である。
(クソっ………こんな(格好が)エロい魔王がいてたまるかよ……っ!)
魔王の格好はなんというか………その、露出が物凄い服を着ており、へそなんて丸見え、胸なんて乳首が見えないだけで殆ど露出しているようなもん。綺麗な美脚を惜しげも無く晒し、見事に珠希の劣情を刺激していた。
もし珠希が一人だったら多分押し倒していた。そしてそのままキスをして美味しく頂くのだが、今はリリアがいる。
リリアの存在が防波堤となって、珠希のなけなしの理性を働かせているのだ。
「………話は終わりか……」
「まだ……と言いたいところだけど、珠希くんの疲労も考えて、続きは明日にしましょう」
その言葉に露骨に安堵する珠希。
「ーーーーと、言いたいところなのだけど」
「……まだなんかあんのか……?」
「君の目に関して」
「…………目?」
あぁ、なんかリリアが魔眼とかなんとか言ってたな……と思い出しながら、仕方なく魔王の言葉に耳を傾けた。珠希が見たのは蒼色の瞳だ。
「その目についてだけは調べておきたい。着いてきてくれ」
いつの間にか魔王モードに戻った彼女の後を少し迷ってから、リリアをしっかりともう一度ど抱き抱えて後を追う。
「………アンタ、そう言えば名前は?」
「あら、うっかりしていたわ………オスクロル。サキュバス族最強にして、魔王軍最強の証を持っているわ。よろしくね、珠希くん」
「神楽珠希だ。知っているようだがな………現状は大体リリアから聞いている」
「なら、話は早いわね。知ってのとおり、魔王軍は、50年前に突如として攻めてきた人間と戦争中。今のとこ、こちらが優勢で、危機感を覚えた人間軍が勇者召喚という禁忌に手をつけたわ」
「あぁ」
ここら辺はリリアの証言から聞いている。キスもしているので、嘘ではないことも明らかとなっている。
「そこで勇者召喚の兆候を掴んだミリーナ……私の部下で優秀な魔術師が無理矢理介入して、珠希くんをこちらに引き寄せることが出来たの…」
「……何故、こちらに引き寄せたんだ?」
「映像で見せた方が早いのだけれど……今の人間軍は本当にやばいわ。きっと、珠希くんと一緒にきた人達は良くて戦争の兵士……最悪、奴隷となって無理矢理言うことを聞かされるわ」
「…………なんだと」
奴隷と聞いて、珠希は自分でも分かるほどに声のトーンが幾分か下がったことに気づき、瞳に熱が持ち始めた。
珠希は別にクラスの中心人物という訳ではなかったが、それなりに友人はいる。珠希の身の上を聞いても仲良くしてくれる友達に、そんな珠希にも好意を抱いてくれている女子がいるのも知っている。やっていることはクズ男みたいな事だが、それでもいいから珠希の隣にいたいと言ってくれる女子がいるのだ。
「……おい、戦争に参加してくれるか?なんて野暮なことは聞くなよ。俺は参加する」
「………いいのか?」
「あぁ。俺の友人達に仇なすのなら……国さえも滅ぼしてやる」
瞳がさらに眩しく輝いた。
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