第4話

「そうと決まれば、急いで魔王様のところに行きましょう!」


 リリアが声を上げる。


「その前に、その魔王様というのはどんな人なんだ?」


 純粋に魔王の姿が気になる珠希。脳内には某ゲームのような極悪人顔の魔王が浮かんでいた。


「魔王様は、私と同じサキュバス族のお方で、私なんか目じゃないくらい美しいお方です!」


「……別にリリアも綺麗だと俺は思うんだけど……」


「そ、そんな……珠希様、お世辞でも嬉しいです」


「……………」


 別にお世辞では無いのだが……と言おうとしたが、頬に手を当てていやんいやんと体を横に振っているリリアに今、どんな言葉を投げかけても聞こえないだろうと思い、やめておいた。


「……ささっと終わらせよう。今日はもう俺はゆっくりしたい……」


「はい!……あ、あの……御奉仕の方は…」


 チラチラ……っと期待するように珠希を上目遣いで見つめるリリア。誘った手前、きっちりと楽しむことを決めていた珠希。


「………リリアの好きなようにしていいぞ」


 折角なので、サキュバスの手腕を楽しもうと無抵抗宣言をする珠希。その時のリリアの顔はとても眩しく輝いていた。


「それでは、今から転移をしますので、珠希様、失礼しますね」


 と、珠希の隣に立ってそのまま腕を組むリリア。


「……この必要はあるのか?」


「はい、転移する時に他人を連れていく時は触れていないとダメなので……それに、私がしたかったです」


(………なんだこの可愛い生き物)


 ぽっ、と顔を赤くしたリリア。ぷいっと少し珠希から顔を逸らす仕草が、珠希のストライクゾーンに入った。


「それでは行きます転移テレポート!」


 ぐにゃり、と一瞬だけ視界が歪み、珠希が気づいた時には、目覚めた部屋ではなく、全く別の空間にいた。


 ざっと奥行30メートル。ドアの反対側には物語の中でしか見たことないような豪華絢爛な椅子があり、そこに誰かが座っていた。


 珠希の腕から離れ、少し歩いた後に跪くリリア。


「召喚されし勇者、珠希様をお連れ致しました」


「うむ、御苦労だったなリリア」


 聞こえるのは女性な声。リリアの可愛らしい声とは違い、正しく男を誘惑するためだけに発していると錯覚させるほど、妖艶な美声。


 珠希の方からは魔王の姿は見えない。しかし、威圧感はきっちりと感じ取れており、今までにない恐怖からか動けないでいた。


(……流石魔王……冷や汗がとまらん)


 背中には既に服が濡れるほどの汗。珠希はここで死ぬ未来も充分にあり得ると思い、絶対に不敬だけは働かないようにしようと思った。


「そなたが神楽珠希殿であっているか?」


「……あ、あぁ……俺が神楽珠希……です」


「ふふ……そんな緊張せんでもよかろう。もっと楽に話してもいいぞ?」


(無理無理無理無理……)


 向こうは自然体でいるつもりなのかどうかは知らないが、珠希は少しでも気を抜けば気絶寸前にいるのだ。


「……あの、魔王様……」


「……分かっているリリア。だからそんな怖い顔をするな……」


「……え?」


 次の一瞬、辺りに蔓延していた嫌な空気がすぅ……とその鳴りを潜め、魔王から出ていた威圧感も消え去った。


「……ぷはぁ……」


 無意識のうちに呼吸を止めていた珠希。汗がさらにドバァ!と溢れ出し、その場に尻もちをついた。


「珠希様っ!」


 急いで駆け寄り、珠希に触れるリリア。


(……っ!生命力エネルギーがこんなにも減って……)


「珠希様………」


「リ……リアーーー」


 優しく珠希の顔を手で触れてからキス、そして精力譲渡トランスファーで少しずつ珠希の生命力エネルギーを回復させる。その光景を、魔王は興味深そうに見ていた。


 本来なら、サキュバス族は夢を見せるだけで絶対に自らの体を許すことは無い。


(それほど、珠希の精力が強いのか、或いはサキュバスの本能を刺激させるほどの快楽を与えさせたか……)


 勿論後者である。やはりサキュバスは体を許さないと言っても、快楽を求める種族。故に、如実に本能を刺激するものがいれば、自然と気持ちが、感情が、逃がしたくないと、もっと貪りたいと相手に好意を抱くようになってしまう。


(………これは、私も楽しめそう……)


 ぺろり……と獲物を見つけたような瞳で珠希を見る魔王。しかし、リリアは既に珠希に押し倒されてキスをされており、キス二回目を始めていた。


「……そろそろいいか?」


 2人に向かって声をかける。しかし、珠希は一瞬チラッと魔王を見ただけで、辞めることはなかった。さらに言えば口撃が激しくなった。


「~~~っ!!~~!!」


 声も出ない喘ぎ声を響かせるリリア。その表情は非常になんとも他人には見せられないような顔をしていた。


(…………今のは)


 しかし、魔王は別のことに意識がいっていた。珠希に見つめられた時、その蒼い瞳が魔王のことを見透かすように輝いていた。

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