第2話

 突然、謎の部屋で目覚め、突然、謎のあなたのメイドになります宣言された珠希は、余りにも現実についていけなくて頭を抱えた。


(………まじ、どういうこと?)


「えと………大丈夫でしょうか、珠希様……」


 心配そうに珠希を見つめるリリア。背中の翼がパタパタと揺れている。


「……とりあえず、色々と質問させてくれないか?」


「はい!お任せ下さい!」


 ドン!とリリアが胸を叩く。衝撃でたわわの胸がポヨンと揺れた。


(……目に毒だな)


 幼い頃からキスとかしまくっていたせいで、性への壁が人一倍薄い珠希。うっかりすると、リリアの美貌に見蕩れてキスをしてしまいそうになる。


 とりあえず備え付けてあったテーブルに座り、質問を開始することにした。


「……まず、ここはどこだ?」


「はい、ここは『グリムガル』という世界で、私たち魔王軍と、人間軍が戦争をしています」


「………戦争…?」


 なにやら物騒な単語が聞こえた珠希は思わず聞き返した。


「はい……あ、でもでも!決して私たちから攻めたわけじゃないんですよ!本当なんです!なんなら魔王軍は人間たちと仲良くしようと積極的に動いていたんですよ!」


 リリアが言うには、魔王軍と人間軍達は50年前まで仲良く共生していたのだ。


 しかし、突然魔王軍と仲良くしていた国の1つが、大陸国家『ゲラルド』に滅ぼされ、そこから魔王軍と人間軍の戦争が始まったのだ。


「…………それは、本当のことなのか?」


「本当です!悪いのは向こうなんです!こっちは平和にしていたのに急に戦争なんか始めちゃって!だから魔王様も幹部様もカンカンなんですよ!」


 プンプン!と効果音が出そうな程に、怒ってますアピールをしているリリア。しかし、珠希はそれを安易に信じられないでいた。


「………にわかには信じられないな。大体、魔王というのは悪の象徴。古今東西、魔王というのは悪者の親玉的な存在だろう?」


「違います!魔王というのは、魔を収め、管理、そして平和をもたらす王のことを言います!なんなんですかその悪そうなのは!」


 またもやプンプン!と怒るリリア。このままだと埒があかないので、手っ取り早く済ませることにする。


「おい、リリア」


「はい、なんでしょうか珠希様」


「お前はいま、俺専属のメイドなんだろう?」


「はい、なんなりとお申し付けくださいませ」


「それなら、今からお前は何も抵抗するなよ。俺に身を委ねろ」


「え……珠希様?一体何をーーーーんむっ!?」


 素早く身を詰めた珠希は再び、リリアの口を塞いだ。サキュバスのくせにキス1つで顔を赤らめるリリア。遠慮なくリリアの口内を珠希の舌が蹂躙し、リリアに快感が刻まれる。


「んっ……ちゅる……んー!」


「れろっ………ぢゅる……」


 珠希はキスの動きで大体、相手が何を抱えているのか分かる。勝手な持論なのであるが。


(………なるほど、嘘は言っていないな……)


 最初は驚いていたようだが、懸命に珠希のキスに答えようとしっかりと舌を絡める。珠希が一応逃げないように腰を固定しているが、リリアは信じてもらおうと必死に、珠希の首に腕を回していた。


 その後も、しっかりと数分ーーー嘘かどうかは最初の30秒程度で見抜いたが、ただただ珠希がしたかったーーーキスを交わし、口を離した。リリアが荒い息を繰り返し、先程同様に表情がとろーんとしていた。


「あっ……んんっ……珠希様……だめ……です。サキュバスの本能が……」


 今度は自分から望んで珠希の口へ吸い付くリリア。珠希はそれをただ受け止めた。


 キスだけで珠希は、相手が信頼しうるかどうかを見極められる。持論であるが。数回のキスをリリアとし、充分に信頼できると判断した珠希は、とりあえずリリアに全て任せようと身を楽にしていた。


 股間に伸びようとしていた手は流石に止めたが。


「やん……珠希様……お恵みをください……」


「……まだ早い。それに、サキュバスに吸精されて大丈夫なのか……?」


「はい、大丈夫です……私、経験はありませんがしっかりと御奉仕させて頂きますね……」


「……だから、その行為はまだ早いと言っている。キスだけで我慢しろ」


「そ、そんなぁ………んっ……」


 30分後。無事(?)にキスを終わらせたリリアと珠希。お互いに酸欠状態で、はぁはぁと肩で呼吸をしていた。


「………そういえば、さっき初めてって言ってなかったか……?」


「はい……実際は夢を見せるだけですので…サキュバスにも処女って結構いるんですよ?私みたいに」


「……そうなのか……」


 この世界での事実に、地球での常識は効かないと見た珠希。とりあえず先入観は捨てようと思った。


「…それで、珠希様?あの……私、不完全燃焼でまだ体が疼いてるんですけど……」


 モジモジと足を擦らさ、珠希の袖をキュッと可愛らしく摘むリリア。


「その、行為っていつからさせてくれますか………?」


「………………………………………とりあえずここのことを知ってからだな」


 珠希はこう返すのが精一杯だった。

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