第8話

「この殺生石はね元は玉藻前なのだよ。」

叔父さんが風呂敷に包んだ殺生石というものを取り出し見せる。

殺生石は透明がかった紫色に光っていた。


「ちょっと待って下さい!どうしてそれがここにあるのですか⁈早く安全な場所に戻して下さい!」

後ろに控えていた侑李さんが慌て出す。


「この殺生石が家の近くの神社に置いてあってね。札は貼ってたんだけど、妖の力じゃ外せないから蒼が狙われたって訳だよ。」


「はい?何で神社にあったんですか?もしかして、1つ行方不明の殺生石なのですか?」


「そうだよ。まさか家の近所にあったとはね。それとも蒼を巻き込む為に置かれたのか……。」

叔父さんは殺生石を手に考え込む。


「俺を巻き込むってどう言う事だよ。」


「ずっと言えずにいたけど実は兄さんと義姉さんは私達と同じ陰陽師だったんだよ。しかも兄さんは私の前の陰陽頭なんだ。」

今まで知らなかった事を言われ戸惑う。

全然そんな素振りなんてなかった。まだ子供だった記憶ゆえ見えていなかった部分なのか。

俺の中の記憶の両親はいつもそばに居て、夫婦仲良く喫茶店を経営していた事しか覚えていない。


「話を戻すけど、玉藻前は平安時代末期に鳥羽(とば)天皇の寵姫であったんだけどね、陰陽師に正体がバレてしまい討伐されて巨大な毒石に変化したんだよ。」


「どこからどう見ても光っている小さい石ころにしか見えないよ。」


「毒気が出ていて周囲に影響を及ぼしてしまう事で和尚が大きな殺生石を破壊したんだよ。その破壊したカケラから3つの光り輝く石が出てきてね、それが玉藻前が復活するに必要なカケラなんだ。」


「1つだけで復活は出来ないの?。」


「この一粒じゃ無理だよ。どれかはわからないけど頭頚部、体幹、体肢の3つに分かれていてね、あとこの石が二箇所眠ってる場所があるんだ。」


「どこにあるの?」


「それは秘密だよ。その三つの殺生石が揃って儀式を行うと玉藻前が復活してしまうからね。今日、君を襲った小鬼は玉藻前の復活を望む者の手先だろう。」


「もし復活したらどうなるんだよ。」


「この世に妖が蔓延る事になっちゃうかもね。今の科学技術なら人間も対抗出来るだろうが、闇の力はどの様に今の世に影響を及ぼすのかわからない。」


「まぁ、そんな事にならない為に私達が全力で勤めているんだけどね。本当は君を巻き込みたくはなかった。兄さんから君だけは妖の問題に関わらず普通の生活を送ってほしいとお願いされてたんだ。」


「だから今までそれほど関わることがなかったの?」


「実はね……、君の服全部にお札を仕込んでたんだ……。」


真剣な顔で腕を組みながら言われても。

何やってくれてんだ。


「は⁈札⁈何処に!何て物を付けてんだよ!しかも洗濯に回してるし札ぐちゃぐちゃになってるだろ!」

慌てて服をあちこち触ってみるが全然そんな感触はないし、今まで気づかなかった。


「そこは大丈夫!小さい布製の札に三日三晩私の懐に入れて、寝る前に1時間程術をかけて私の霊力をたっぷり染み込ませ、夜鍋して服のタグの裏に縫い付けたから。どんなに洗濯しても破けないよ。」

ウィンクしながら言われても可愛くないぞ……。


「きもいですね。」

ナイス侑李さんのツッコミ。


「だって仕方ないじゃないか〜。可愛い甥っ子が変な妖共に狙われると考えてしまったら、こうするしかなかったんだよ。」

泣き真似しながら言われても……。


「ソレハドウモアリガトウ。」

こう返すしかないよな。


「兎に角君には自分自身の身を守れる様に、基礎的な事を身につけてもらうよ。」


「基礎的な事?」


「うん、詳しい事はもう明け方近くだから一旦寝てからね。とりあえずお家に帰ろう!起きた後の朝ごはんは野菜たっぷりのお味噌汁と卵焼きがいいなぁ。」


「朝霧様帰れるとお思いで?期日が今日のお昼までの書類があるのですよ?」

叔父さんが立とうとしたら侑李さんが、がっちり両肩を笑顔で掴んだ。

ブラックな笑顔だ。肩を掴んでいる手に圧がかかってるよ。


「ハイ。送り届けるだけにシマス。」

頑張れ叔父さん。徹夜明けの胃に染みるような具材たっぷりのお味噌汁を準備しとくよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あやかし専門うらのつかさ 日向こなつ @konatu25

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ