第29話 夜間演習
井出は
時折りちらほらと直径10mの「
「さあさあ、皆さん起きてね。丁度良いわ。真夜中過ぎて
ラヴィニアに起こされた三人の女子高生が駐在所の外に出て来た。眼前の光景を見て表情が
(う~ん、
井出は
「どうしました? ラビィー・マム、自分に何か?」
「良かった、間に合ったみたい。今日からはこれを使って。」
井出が木箱の中を
盾に剣を収納出来るようになっている。これなら
「気に入って貰えたかしら? ミィスリウムを
「有り難うございます、ラビィー・マム。ところで今回の敵の数はどれくらいなのですか?」
「それは今、マー君に確認して貰ってるわ。恐らく5000体は下らないと思うけど。電話で確認したら『保安官の町』には来襲してないそうよ。完全に初代ヒウムの女の子狙いだわ。」
井出は戦慄した。それはちょっとした軍隊に匹敵する数だ。まさに地獄の軍勢。それにしてはラヴィニアは涼しい顔をしている。彼女の
「こちらのセンサーでの探索結果が出たよ。連中の数は約6000体だね。『
「ふうん、やっぱりね。まあ、浩一クンの『
白銀の騎士に乗るマークの外部音声を聞いてラヴィニアがさらりと言った。井出と三人の女子高生の目が点になる。つまり、この四人だけで6000体の
「大丈夫。あの
ラヴィニアはそう言って三人の女子高生たちに指示を出し始めた。最初はアヤに井出の体に「身体強化」の魔法を掛けるよう指示を出す。アヤは真由美に助けられながら、なんとか詠唱を完了した。井出の体が淡い黄色の光に包まれる。
「次は七海さんは『筋力強化』をお願いね。真由美さんは『俊敏性向上』を。盾や装備品の『防御力強化』は私がやってあげる。」
ラヴィニアが次々に指示を出す。井出の体が赤や黄色、青の淡い光で包まれて行く。彼の体中に力が
「あ、あのラビィー・マム。この間、掛けて貰った時より効果が薄いような気がするのですが?」
「ああ、あの時は『
「え? それじゃあ、
井出は思わず聞いた。あの時はマークが操る「パタゴレア」が介入してくれなかったら自分は命が危なかったからだ。
「あら、魔法が切れたとき
ラヴィニアが軽い調子で答えた。そして続けた。
「だから、普段はブースト無しで強化魔法を掛けるの。より強い効果が欲しい時は自分の『
「
「判りました。やってみます。」
「良い返事ね。そろそろ『
井出は頷くと「防御結界」に群がり始めた
「うん。
彼は自分を取り囲む赤黒い
「ザシュッ!」
体長1.5mの
「パチンッ!」
ソイツはまるで風船のように盾の表面で弾けた。井出は盾を正面に構え直すと左側の群れに突進してみた。突進する先に1体の
「ドムンッ!」
大型トラックが何かに衝突したような音が草原に響いた。井出の体当たりで吹っ飛んだ
「浩一クン、
白銀の「パタゴレア」の外部スピーカーからラヴィニアの声が響く。井出が声の方を振り返ると彼女が機体の脚から取り出したマイクを手に握っていた。井出は一跳びで木塀を跳び越えると素直に駐在所前に戻る。
「中々良い感じだったわね。どう、ブーストなしの
「そうですね。『
井出とラヴィニアが会話している間に三人の女子高生たちの準備が出来たようだ。真由美、アヤ、七海の順で横に並んでいる。アヤが両手を二人と
七海の右の掌から昼間よりも二回りは大きな火球が発生する。その直径は1mを超えていた。その炎の巨塊は狙いを付けた紫色のタコギンチャク「
「キュッドオォーン!」
命中した瞬間、白い
「どう? まだ
ラヴィニアの言葉を聞いて井出は思い出した。黒い巨人と戦う寸前に三人の少女たちの助けが必要だと彼女が言っていたのを。彼が見ている前で七海と真由美の「
「うん、悪くないわね。これで大体2000体くらいは倒したわね。三人とも少し息を整えましょうか。じゃあ浩一クン、『防御結界』に取り付いた生き残りの掃除をお願いね。」
井出が「防御結界」の周辺を見渡すと真由美と七海の猛爆撃を
「加速装置!」
井出は小さく
「あと2分以上あるな。少し遊んでやるかな。」
井出は小さく
「やった! 『巡査部長』に昇進だ~!」
喜びの声を上げる井出の
「浩一クン、油断してたら昇進してすぐに
パタゴレアの外部スピーカーでラビィニアが叫ぶ。彼はバツが悪そうに駐在所前に戻った。井出がエマに向かって手を挙げると彼女はニッコリ微笑んで手を振り返してくる。そして次の弾丸を手に取ると小さく
「
エマはその黄色く輝く弾丸をスペンサー
「うん。初めてにしちゃ上出来ね。今夜はこれぐらいにしましょうか。真由美さんとアヤさん、七海さんはもう休んで良いわよ。明日に疲れが出ない様に良く眠ってね。」
約6000体も居た「
「それじゃあ、浩一クンとエマで後始末をお願いね。終わったら二人は交代で仮眠を取りながら待機ね。」
エマはシャープス
「私が遠いヤツを『
「判った。それが一番効率が良さそうだ。」
草原に散らばった雑魚どもを30分程で全て掃除した二人も交代で仮眠を取った。あれだけの大群を相手取ったのに結果はあっけないものだった。そんな彼らには油断があったのかも知れない。「ある存在」の侵入に気付くことが出来なかったのだから。
やがて夜が明け始めた。「ある存在」は密かに駐在所の裏庭に移動して床下に
すっかり朝になった。三人の女子高生たちとピートも起きて居間に降りて来る。まだ彼女たちは寝間着のままだ。それぞれコーヒーを淹れたり、お湯を沸かしたりと家事を始めた。アヤが外の空気を入れようと
「きゃあああ、いややあぁー!」
彼女の悲鳴が駐在所の居間と事務所に響き渡った。
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