第17話 保安官の町、再び
井出は「保安官の町」に向かうため駐在所の前に
昨夜、あんなにボロボロになって帰還した
「井出さん、積み込む荷物って、これで最後だよね?」
七海が紙袋を手に聞いて来た。彼は頷いて
「それでは留守を
「え? 何が? 昨日の夕方って何かあったかしら?」
エマは彼が何を謝っているのか判らなかった。
「いや、いきなり『呼び捨て』で呼んだりして申し訳ありませんでした。俺、ダメなんですよね。ああいう時って言葉
井出はホルビー族の兄妹を救出した時のことを言っているようだ。
「ああ! あの時? あんなの大丈夫よ。全然、気にしてないわ。」
もしも真由美の母の
「けど、何か
まだ、歯切れ悪く言う井出。エマが眼を真ん丸に見開いて彼を見つめる。
「ジェフが? 旦那? あはは! 違うわよ、彼は単なる
彼女が
「え? それじゃあピート君は?」
「ピートは私の息子よ。血は繋がっていないけど・・・。」
エマは少し考えてから答えた。そして井出に提案する。
「それじゃあ私も
「あ、それじゃその・・・。エ、エマ、留守をよろしく頼みます。」
「そこは『頼みます』じゃなくて『頼む』で良いのよ。
気が付くと二人のすぐ横に真由美が立っていた。両腕で資料の入った茶封筒を抱えて井出とエマを交互に見つめている。顔を少し赤くして何か
「あ、真由美ちゃん。用意出来たかな? それじゃあ出発しようか。ちょっと顔が赤いけど熱あるのかな?」
「いえ、大丈夫です・・・。」
真由美は首をフルフルと振って熱があることを否定した。
駐在所を
「やっぱり、生野菜と魚、
「お魚はこの辺りでは
「やっぱり卵焼き、食べられないのは辛いよね。」と七海も
井出は「
ライフルが欲しいなと彼は思った。大型の獣を狩るには腰の
井出たちが食料の備蓄に関する会話をしているうちに
ふと助手席に目をやるとオッツオが何かソワソワしている。
「なあ、井出
口調は大人だが、声は子供のように可愛らしい。井出はオッツオの言葉の意味を
「ほら、あの赤い光をピカピカさせて『ウー!ウー!』と音を出すアレだよ。
「ああ、アレですか。本日は緊急時ではありませんからやりません。」
なんだ、
「なあ、良いじゃないか。私はアレをあの町に居る同僚たちにも見せてやりたいんだ。」
「なおさらダメです。『保安官の町』の皆さんが緊急時だと勘違いしてしまいます。」
キッパリと断る井出。オッツオは下を向いて黙り込んでしまった。ヤバイ泣くか?
井出は元居た世界で保護した迷子のことを思い出していた。彼はその子をパトカーで家まで送ることになった。その子供は家族に自慢したいからと
結局、その子供を
「む! コレか? いや違う。コレだ! やったぞ、『ウー!ウー!』言い出したぞ! コレは何だ?」
オッツオが手当たり次第にスイッチを入れ始めた。警察無線や
「わ~、アンタ一体何やってんだ! 止めて下さい、オッツオさんって大人なんですよね?」
「まあ、お兄様! ご
後部座席からミィドリが兄のオッツオを
「うるさい! 妹が兄のすることに口を出すものではない! 私は今『
絶対にウソだ! 井出は左手でスイッチを切りながら思った。
「
「保安官の町」に着き、パトカーを降りたオッツオが嬉々とした表情でこちらに手を振る。声が小学校低学年の男の子だから口調と全く合っていない。ミィドリが恭しく挨拶をしてから彼に続いて歩いてゆく。
その
「あら、いらっしゃい、駐在さん♪ 昨日は良く眠れたかしら?」
ラヴィニアがにこやかに出迎える。奥の部屋に通される途中、彼女と一緒に出迎えていた保安官テッドが井出に近付いて来た。彼の肩に手を置いて声を掛ける。
「井出君、見張りから聞いたぞ。
あれだけ大騒ぎしながら近づいたのだ、この町の
井出と真由美、七海は食堂に通された。時刻も
「これが
「そうですな。形はもっと真ん丸な感じですが『リトルホース』が産むヤツと近いでしょうな。」
ボールに割って落とした鶏卵の黄身を見たラヴィニアの返答を保安官テッドが補足した。どうやら卵焼きや卵かけご飯は安定して食べられそうだ。西部の人間たちも鶏卵に代わる物は欲しかったのだろう。「ヒウム」の先輩たちに感謝だ。野菜もスープに入った物を確認した。あとは魚だ。
「これが魚です。海や川に棲んでいて体に鱗があります。エラで呼吸し尾びれや背びれが着いています。」
井出がツナ缶の側面に描かれている
「海には大型の海棲肉食獣や海竜が居るし、南の海からは『
また「
「でも東の海岸に住んでいる『
幾ら何でも同じ知的生命体である
「ラビィー・マム、これはもしかして『鳥』に似ていませんか?」
「あ、言われて見れば・・・。そうね口をもう少し細長く
彼女の答えに井出、真由美、七海は
「そうそう。オッツオに聞いた話ですが、『鳥』の仲間が海に
「あら、その話なら私も聞いたことがあるわ。ホルビーたちは
井出と二人の女子高生には
昼食が終わる直前に、井出はラヴィニアに「
「恐らく『
ラヴィニアが井出の眼を見つめて、ゆっくり言った。やはり女子高生たちには聞かせたくない内容らしい。彼は小さく
「それでは昼食も終わりましたし『実験』に入りましょうか? 何、
そう言って井出は紙袋の中から黒い物体を取り出した。それは駐在所の居間にあった「黒電話」だった。
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