第15話 昇進
朝になった。いきなり七海が
「は~い、井出さん! 起きて、起きて~! お布団、
七海がいきなり掛け布団を引っぺがそうとする。井出は必死に抵抗した。まるで
「わ~!
余りの井出の抵抗に
「10分間だけお待ちします。もし次に二階に上がって来た時に起きてなかったらヒドイですからね?」
七海が腕組みをしながら「湖川アオリ」を
「あちゃ~、やっちゃったよ。コレ・・・。」
彼は掛け布団を少し上げて
中学時代に二歳上の姉がいきなり掛け布団を引っぺがして来た
だが、今回はその経験が生きた。 何とか掛け布団は死守して事の
辺りに人の気配は無い。彼は素早く
「こんな危険物をイキナリ洗濯機にかけるワケにはイカン! 汚物は洗浄だ!」
ここで筆者としては井出を弁護したい。24歳の若い男性である彼が夢精をするのは全く普通である。何ら性的に異常なところは無い。むしろ健康な証である。だが井出は罪悪感と自己嫌悪で大変だった。
「七海君で、こんな事になるなんて・・・。俺は最低だ! どっかおかしいのかな?」
保護したばかりの少女のあられもない姿を夢想してこんな事態に
洗浄が終わった井出は全自動洗濯機に洗剤と共に「
そのまま、体を
「ふう、これで完了! もう安心・・・。む! この
やれやれと彼が息を
「あ~、感心、感心! ちゃんと布団
七海が笑顔でベランダにやって来た。
「ん? この匂い、何?」
井出に近付いて来た途端に眉を潜めて尋ねて来た。
「ん? んん? ああ、この匂い? なんだろ、こっちの世界の珍しい花とか咲いてるのかな ? 俺、花とか良く知らんけど・・・。」
井出はそう言って布団叩きを七海に押し付けて階段を下りていく。額に冷や汗が浮かぶ。
居間のコタツの上に朝食が用意されていた。
「はい。今、急いで対応して貰わないといけないのは、この二件ね。」
彼女が手渡してくれる書類を見る。真由美が日本語に書き直してくれていた。内容を確認していると、横でエマが井出を見つめて
「ん? 何? 俺、どこか変かい?」
彼が
「あなた、その
井出が自分の
「お待たせ! 昨日は良く眠れたかな? ご飯はもう食べた?」
朝食を終えて
妹の方が椅子から降りてスカートを
「
彼がそう言って二人に敬礼すると、男の子は椅子から降りて来て握手を求めて来た。
「君は礼儀を
「私はミィドリ・ハイェターと申します。お仕事は外交舞踏官ですの。昨夜は誠にありがとうございました。ご
なるほど、これがホルビー族か。井出は保安官テッドに感謝していた。あのしつこい注意が無ければ、気付くことが出来ずに怒らせてしまうところだった。しかし彼らを怒らせたら本当に怖いのだろうか? 彼は
井出は目の前で自分を見上げるミィドリの姿にある小動物を連想していた。ハムスターだ。大きめの頭、4頭身くらいか? ドングリ型の大きく
「なるほど、丘の頂上付近で
話を聴いて井出は少し責任を感じていた。自分が「保安官の町」に行って留守にしていなければ彼らを無駄に危険に晒すことは無かったからだ。だが昨日の流れでは行くしか無かったのも事実だ。彼は改めて真由美に感謝した。彼女が一旦帰ることを提案しなければ、今頃この二人の命は失われていただろう。
「判りました。この後、本官も『保安官の町』には用事があります。お二人はパトカーでお送りしますよ。『馬』は当駐在所でお預かり致します。」
「それは助かる。あの白い車なら多少の事があっても安心だ。今日中に連絡を着けなければ同僚たちも心配するのでね。」
ホルビー兄妹と話を付けると井出は駐在所の裏に回った。そこにはエマと真由美が待機していた。「黒い建造物」の本稼働。これが二件目の用件だ。
「本稼働を始めると色々と忙しくなるわ。先に私の管理者登録を済ませちゃうわね。」
エマが「黒い建造物」の操作パネルに手を
エマの説明によると、これで彼女にも駐在所の「黒い建造物」が持つ「防御結界」の入場許可が可能になったと言うことだ。つまり、これからは井出とエマのどちらかが駐在所に居れば来訪者を「防御結界」の中に収容出来るのだ。
次は「黒い建造物」の本稼働だ。先ずは、この建造物の正式名称を決めなければならない。入力作業に入ると真由美が右上の小さなボタンを小指で押した。するとパネルに別の窓が開いて言語の一覧が表示された。彼女は「日本語」を選択した。
操作パネル上に文字が記されたされた光るボタンが並ぶ様を見て、「まるでATMだな。」と井出は思った。しかし真由美は、まるで昔から知っていたようにパネルを操作する。元々、頭の良い
「井出さん、この建物の名前は何にしますか?」
彼女が井出に
そうだ、「神殿」だ。確か、その小説の中では「神殿」と呼ばれていた建造物はバイクや銃を与えてくれたり交換してくれるものだった。井出は「黒い建造物」の使い方を実演された時に、何かを思い出しそうになっていた。今、それが繋がった。
「神殿・・・。いや、その名は既に使われてたんだよね。なら、『
井出が真由美に告げる。横で見ていたエマが一瞬だけ驚いたような顔をした。しかし直ぐに
真由美が井出に告げられた名を「黒い建造物」の操作パネルに入力する。パネルに「この名前で決定しますか? はい/いいえ」と表示が出た。彼女が井出を見つめる。彼が
操作パネルに様々な光る文字が日本語で表示される。真由美がエマに内容を音読して伝えていた。そうすれば「
「本稼働モード、開始します。」
「『防御結界』既に運用中です。」
「『自動補給・整備・補修・保守システム』既に運用中です。」
「『住民登録モード』本運用に移ります。」
「『管理者保護システム』運用開始します。」
「『治安維持ポイント管理システム』運用開始します。」
「『昇格システム』運用開始します。」
「『進化・・・・」
ズラズラと光る文字が流れてゆく。井出には余りにも多くて読み切れなかった。全ての表示が流れて一旦止まった。少し間を置いて操作パネルに表示が現れた。同時に彼の全身が淡い緑色の光に包まれる。
「ん? なんだ、この光?」
身体のあちこちを確認する井出、急に真由美が彼の右胸を指差しながら叫んだ。
「井出さん! 胸章が『巡査長』になってますよ!」
操作パネルには次のように表示されていた。
「井出 浩一 昇進:巡査→巡査長」
彼は何時の間にか「巡査長」に昇進していた。
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