第10話 赤月動乱《スヴィタルヴェシーリ》

ラヴィニアは井出と三人の女子高生に前置きをして話し出した。これから長い話をするが、この話を最初に知って置いた方が今後も色々なことを理解し易いと言うのだ。


「まずは『第一次 赤月動乱スヴィタルヴェシーリ』が起こるまでの流れを話すわね。」


そう言って彼女は語り始めた。以下で出て来る年数は全て地球での年数に換算したものだ。


かつて1万年前には人口は15万人を超え栄華えいがの頂点に達していたエルフ族だったが、その頃から既に斜陽しゃようは始まっていた。当時、生まれながらにして魔法ヴァルマキが使える彼らをおびやかすほどの存在はこの世界アルヴァノールには居なかった。だがエルフ族は次第に人口をげんじていったのだ。


彼らの敵は外ではなく内に有った。それは「少子化しょうしか」だ。エルフ族は大体、150歳で性成熟する。そして女性は400歳前後、男性は450歳前後まで生殖が可能だ。エルフ族の妊娠期間は5年前後、長寿であるが故か胎児たいじの発育も遅い。


この妊娠期間の長さがネックになった。一旦、子をさずかったら5年もの間をエルフの女性は身重みおもな状態で過ごさねばならない。また伴侶はんりょである男性エルフの負担も大きい。妻が妊娠している間は家事のサポートも必要だし、食い扶持ぶちかせがなければならない。


それだけではない。無事に赤ちゃんが生まれても、その後が大変なのだ。エルフ族の子供の成長もまた遅い。赤ん坊が立つようになるだけで10年近くかかる。授乳期間も5年近い。生まれて来た赤ん坊が手のかからないところまで成長するには100年近くかかるのだ。


エルフ女性の生殖可能な期間は250年あるが、実質は一生のうちに2.5人の子供を産んで育てるのが精一杯だった。生理機能的には5年で妊娠出産、離乳に5年で10年に一回程度のサイクルで次の子供を妊娠することは出来るが、それはエルフ族にとって考えられないことだった。


高度な社会を形成しているのも不利な要因になった。女性の社会進出も進んでおり、出産だけに専念することが出来ない。既に職業軍人などにも女性の地位が確立していた。魔法攻撃イルヴァルマキ部隊を編成するのには精霊力マナが高い女性の人数がどうしても必要だった。


当時の軍隊の役目は周辺地域の野獣の討伐が主だった。個人でも魔法攻撃イルヴァルマキを詠唱するだけで地球でのグレネード弾に匹敵する火力を発揮できる。数人で集団リィスマ魔法攻撃イルヴァルマキを行えば辺り一帯を雷撃や竜巻で地獄に変え野獣を一掃出来る。エルフ軍は正に無敵だった。


魔法攻撃イルヴァルマキ部隊は軍の花形だった。危険が伴う前衛は男性が務める。特に危険もな無く待遇も社会的地位も良いのだから、そこにはいきおい優秀な女性が集まる。


150歳になり成人したら軍の魔法部隊の採用試験を受ける。受かれば200歳から250歳くらいまでは仕事に専念する。軍を辞めてから結婚して子供を産む。次第に女性たちの人生設計も変化していった。中には結婚を望まない女性も出るようになった。


そうして5千年前位には1夫婦辺りの出生率は「1.5」程度になってしまっていた。つまり人口の維持を出来ない状態だ。寿命が500年前後と長いため人口の減少率は緩やかだったが、それは確実に進んでいった。人口は当時で10万人を維持出来なくなっていた。


ドワーフ族やホルビー族の存在が確認されたのも、この頃だ。エルフ族の都市国家の東側から、時折り背が低いが体格の良い男性たちや、小柄だが陽気で頭の良い男女が接触してくるようになったのだ。友好的で有益な交流が出来たため、エルフ族も大した脅威きょういとしてとらえなかった。


そのような状況で大きな変化も無く約3千5百年が過ぎた。その頃にはエルフ族は5万強まで人口を減じていた。対して、交易を通じてエルフ族から多くのことを学んだドワーフ族やホルビー族は人口で並び始めていた。戸籍や社会基盤の整備も進み都市国家としてひとり立ちする所まで来ていたのだった。



「そこで『第一次 赤月動乱スヴィタルヴェシーリ』が勃発ぼっぱつしたの。」


ラヴィニアが真剣な眼差まなざしで言葉をつなぐ。


赤月動乱スヴィタルヴェシーリ」 それはこの世界アルヴァノールの現在の状況を説明するのに絶対不可欠ふかけつな要素である。


今から約1500年前、エルフ族の国の西方からオークとゴブリンの連合軍が突然襲来したのだ。当時の記録によると、その軍勢の数は二千人とされている。西方の村を襲いつつ都に向かって東進を続ける獣人の軍勢をエルフ正規軍、五千人余りが迎え撃った。


ろくな装備も持たず魔法ヴァルマキも使えず数でも圧倒的におとる獣人の軍勢と充実した装備を持ち魔法が使える上、数でも二倍以上のエルフ正規軍の対決。大方おおかたの予想はエルフ軍の大勝利で終わると思われていた。獣人どもの中核を集団リィスマ魔法攻撃イルヴァルマキで叩けば、後は散り散りになった末端部隊を各個撃破するだけだ。


しかし、現実はそうはらなかった。オーク・ゴブリン連合軍には魔法攻撃がかなかった。いや、魔法ヴァルマキ自体が発動しなかったからだ。体格と膂力りょりょくまさるオーク千人からなる突撃を支えるにはエルフ軍の前衛部隊も倍以上の兵力でかかる必要があった。


エルフ軍の前衛がわずかな時間を支えてくれれば、あとは魔法攻撃イルヴァルマキ部隊2千人の攻撃でオークの突撃部隊は壊滅するはずだった。だが魔法攻撃イルヴァルマキは発動しなかったのだ。エルフ軍は初めて見る獣人たちを野獣の一種だと考えていた。この思い込みがエルフ軍指揮官の判断をにぶらせたのだ。


知性のある存在、亜人類デミヒューマン霊獣フゥハーペト幻獣ファントペトと呼ばれる生物に対しては魔法攻撃イルヴァルマキが発動しないことは良く知られていた。これは魔法ヴァルマキを発動する心優しき精霊ピフラが知性のあるものを傷付けることをきらうからだと考えられていた。


言語を持たず、意味の判らない雄叫おたけびと共に突撃してくる獣人の群れをの当たりにして知性があると思えなかったのは仕方がないことかも知れない。エルフの指揮官は迷った。取り合えず前衛を支えるために魔法部隊には防御ポロストス付与魔法ミンドルヴァルマキ治療イルマタル魔法ヴァルマキに専念するように指示する。


このおかげで前衛はオークの猛烈な突撃を支えることが出来た。だが押し返すには至らなかった。この頃のエルフ軍の前衛の装備は防御に特化しており攻撃は得意では無かったからだ。取り回しを重視してショートソードや短槍しか装備していない。戦術が全て魔法攻撃イルヴァルマキを中心に出来上がっていた。


前衛が膠着こうちゃくし時間だけが無駄に消費された。だが、その時間が命取りとなった。ゴブリンの奇襲部隊の迂回うかいを許してしまったのだ。エルフ軍の前衛を大きく回り込み、魔法部隊の側面をゴブリンの群れが襲う。エルフ指揮官は魔法部隊の守備隊に防御の指示を出す。


ここで魔法部隊を下げてしまえば前衛部隊が前後からはさみ撃ちにう。ここは食い止めなければならない。エルフ指揮官はそう考えた。戦術の思考としては至極しごく当然の判断だ。しかし、ゴブリン部隊の目的は魔法部隊のほとんどをめる女性兵の捕縛ほばくだった。


ゴブリンの奇襲部隊千人余は粗末そまつな武器を手に魔法部隊に肉薄にくはくした。目的は戦闘では無かった。中には武器を持たず捕縛用のなわぬのしか持たないゴブリンも多く居たと言う。不意を突かれた守備隊はゴブリンたちの奇襲を完全に止められなかった。


弓兵の矢に倒されても倒されてもひるまずに前進してくるゴブリンの群れに守備の陣形もくずれてゆく。防具も付けず、軽い武器しか持たないゴブリン兵の動きは軽快だ。接近を許せば弓の命中率も格段に下がる。遂に魔法部隊にゴブリン兵が雪崩込なだれこむ時が来た。


エルフの女性魔法兵たちも護身用の短剣を抜き応戦するが、ゴブリンたちは複数で一人の女性兵に組み付いていく。ゴブリン1体を短剣で突いても2体が組み付きなわしば猿轡さるぐつわをする。そもそも格闘の得意でない女性魔法兵、ゴブリンに短剣で致命傷を与えられる者も少ない。


部隊の中に入り込まれてしまうと守備の弓兵もることが出来ない。味方にも当たってしまうからだ。捕縛された女性兵が人質の役割を果たしていた。そしてその数は時間と共に増えるばかりだ。


魔法部隊が混乱に陥ってオークの突撃を支える前衛部隊に対する魔法支援が途絶える。次第に魔法が切れていき前衛部隊は押し込まれ始めた。とうとうオーク兵に中央を突破されてしまう。オーク兵の先頭が魔法部隊に到達した。その強大な膂力りょりょくで非力な女性魔法兵が虐殺されていくかと思われた。


だが予想は裏切られた。オーク兵たちは先に突入していたゴブリン兵たちと合流すると捕縛したエルフの女性兵を後送し始めたのである。オーク兵の腕力をもってすれば華奢きゃしゃなエルフの女性兵は片手で軽々と保持出来る。まるで人形を手渡すように女性兵たちは後方に送られていった。


オーク兵の中にはまだ捕縛されていないエルフ女性兵から短剣を取り上げ、そのまま捕まえて後ろに手渡す者まで出始める始末だ。この時点でエルフ軍も獣人たちの意図をさとった。オークやゴブリン共の目的は戦闘ではなく女性兵の捕獲なのだと。


エルフ軍の指揮官があわてて全部隊に後退の指示を出す。突破された前衛部隊も必死に魔法部隊と獣人どもの間に割り込む。しかし、その頃には相当数の女性兵がオークとゴブリンの軍勢の中に取り込まれていた。そして獣人たちもしおが引くように退却を始める。


距離が離れてエルフ守備兵がオーク・ゴブリン連合軍に矢をかけ始める。守備隊長がそれをいさめる。捕縛されたエルフの女性兵に当たる可能性もあるからだ。事実、矢に当たる女性兵も出始めた。と周囲が思った時だった。オークやゴブリンがみずからの体をていして矢から女性兵を守ったのだ。


捕縛した女性兵を盾にして安全に退却しようとするならばかく、自らの命を犠牲にしてでも矢から女性兵を守る獣人たちの姿にエルフ軍も呆然ぼうぜんとしたという。こうして両軍は戦闘を終えた。


エルフ軍側の戦死者は50名にもたなかった。対して獣人軍側の戦死者は400~500名と言われている。詳細な数が不明なのは獣人の遺骸の処理を魔法攻撃イルヴァルマキで雑に済ませてしまったからだ。このときの戦死体処理の記録に珍しいものがある。


獣人たちの遺体を魔法ヴァルマキで焼却するため一か所に集めようと作業をしていた時に数体の遺体が固まっているところが幾つかあった。ゴブリンやオークの遺体をどかしてみると下には気絶したエルフ女性兵が居たというのだ。こうして数人の女性兵は無事に帰還出来たという。


戸籍による記録では、この動乱で捕縛され連れ去られた女性兵は900名に近かったとされている。魔法部隊の半数近くを失ったエルフ軍は奪還部隊の編成もままならず、捕縛された女性兵の全ては戸籍上でも死亡したものとして扱われた。


以上が「第一次 赤月動乱スヴィタルヴェシーリ」についての説明だ。

それは魔法を過信し過ぎたエルフ軍の大惨敗だった。当時は赤い月の出ている期間だったので、エルフ達は地獄の魔王が赤い月から獣人の軍勢を送り込んで来たのだとうわさし合ったと言う。


「当時のエルフ達にとっては初めて見る獣人類ヴェアヒューマンとのいきなりの戦争だったから、上手に対応出来なかったのね。ゴブリン族やオーク族の生態や特徴も良く判っていなかったから・・・。」


この世界アルヴァノールに出現したとき、最初は女性が居なかった獣人類ヴェアヒューマンたちがどうやって子孫を残せる環境を得たのか? その経緯を理解して貰うためには、どうしてもこの話をしておかなければならなかった。


ラビィニアは当時を振り返るようにそう言うと「第一次 赤月動乱スヴィタルヴェシーリ」の話をくくった。


この次からはくわしい話をしていると夜が明けると言うことで簡潔に話して貰うことになった。ここで井出はラヴィニアに前もって確認をした。


「あのラヴィー・マム。これからうかがうお話の中で凄惨せいさんな部分が有るのならば、そこは自分一人がお聞きしますが・・・?」


井出は三人の女子高生たちを気遣きづかったのだ。捕縛されたエルフの女性兵が性的に虐待ぎゃくたいされた話など、少女たちには出来れば聞かせたくない。彼はそう思った。


「あ、その呼び方良いわね♪ ああ、そのことね。でも安心して。あなたが心配するようなことは起こっていなかったってことが後日になって判明したの。」


ラヴィニアはおだやかな表情で答えた。長い耳の動きもゆっくりとしている。


「第一次 赤月動乱スヴィタルヴェシーリ」が終結して約30年後に捕縛されたエルフの女性兵が数人、帰還してきたのだ。彼女たちは帰って来て直ぐに軍に保護された。そして様々な情報をもたらした。その内容にエルフ軍上層部や研究者たちは驚愕きょうがくしたと言う。


まずエルフの女性兵たちは、なぜ帰って来れたのかを聞かれた。その答えは「女児を2名以上産んだから」だった。それは獣人類ヴェアヒューマンとエルフの女性は交配可能であり、エルフの女性兵たちをさらった理由が繁殖はんしょくためなのだということを証明していた。


彼女たちの話によると、捕縛されて獣人類の拠点に連れていかれた女性兵たちは一人ずつ軟禁なんきんされた。凄惨せいさん凌辱りょうじょくを受けることも覚悟していたそうだが、獣人類ヴェアヒューマンたちはそんなことは一切いっさいしなかったと言うのだ。ただ食事を運んで来るのみで、望めば水浴みずあびや散歩などもさせてくれたそうだ。ただし複数の見張りは必ず付いた。


そして数日がち、エルフ女性兵たちが環境に馴染なじんで来た頃から獣人たちが求愛に来るようになったそうだ。果物フルーツを持ってきたり、花束を持ってきたりして、ただ黙って求愛してくる。言葉を持たないので、その求愛行動は伝わりにくく女性たちにみ付かれたり引掻ひっかかれたりする者も居たとのこと。


時折ときおり、我慢がまんが出来ず腕力で強引に女性を服従させようとする者も居たが、その行為は獣人族の間で厳しく処罰された。場合によっては、拠点からの追放や死刑などの重い罰が課せられたそうだ。エルフの女性たちと子孫を残すことが出来る者は求愛を受けれてもらえた獣人だけだった。


ただし女性兵たちも求愛を受けれない限りは軟禁を解かれない。帰還した女性たちの話では、約30年経った時点でも求愛を受け容れず頑張がんばっている者も居たそうだ。だが獣人たちは愚直ぐちょくに求愛行動を行い続けているとのことだ。


産まれて来る子供の男女比率は9:1くらい。圧倒的に男児の方が多かった。男児は約1季節地球で半年という短い妊娠期間で生まれて来る。また成長も早く10年かからずに成人したそうだ。生まれて来た男児の中には片言かたことだが言葉を話せるものも居た。


帰還出来た女性兵たちは比較的早期に求愛を受け容れた者たちばかりだった。何故なぜなら女児の妊娠期間はエルフ族と全く同じで手が離せるようになるのに最低でも20年は必要で、女児を2人産んで手放すには最低でも30年は必要だったからだ。


2人目の女児が産まれ離乳して自分で立てるようになると、彼女たちは突然帰還しても良いと告げられたそうだ。しかし彼女たちは産んだ女児を連れて来ることは許されなかった。なので帰還を望まず子供と一緒に残ることを選択した女性たちに、自身の娘たちを預けて来たのだと言う。


この帰還してきた女性兵の存在はエルフ軍上層部の判断で隠蔽いんぺいされた。彼女たちは名前を変えた上で、この事実を他言しないことを条件にエルフ社会への復帰を許された。残して来た娘たちをおもい獣人たちの元へ戻ることを願い出た女性も居たが却下きゃっかされた。獣人たちに、これ以上繁殖されてはたまらないからだ。


「というわけで捕まったエルフの女性兵は人道的に扱われていたことが判明したの。」


ラビィニアは三人の女子高生たちに微笑みながら言った。


次に「第二次 赤月動乱スヴィタルヴェシーリ」の説明に入った。しかし、この後の話は詳細まで話すと一晩掛かっても終わらないそうで簡潔にしてもらった。


約1000年前にその動乱は起こった。爆発的な人口増加を続ける獣人類ヴェアヒューマンたちはこの頃には80万人を超えようとしていた。この勢いに脅威を感じたエルフ族も戸籍をもとにした強引な「少子化政策」を行って11万人に迫るまで人口を回復していた。エルフ正規軍も前動乱から500年経ち魔法部隊の再編もようやく終わっていた。


獣人類ヴェアヒューマン軍とエルフ軍の間で軍事的な緊張が高まっていた。そんな中でエルフ軍による「ダークエルフ」の迫害事件が起こった。その事件をきっかけにして「第二次 赤月動乱スヴィタルヴェシーリ」は勃発した。ちなみに「ダークエルフ」とは獣人とエルフ族の間に生まれた女性を指す言葉だ。


戦力比で8:1の戦闘は無論、獣人類ヴェアヒューマン軍の圧勝に終わった。エルフ族は、何故この状況で開戦に踏み切ったのか? その理由には獣人類ヴェアヒューマン側の謀略にはまったからだとか、エルフ軍の末端が暴発してしまったから等、諸説あるらしい。


エルフ族の都が獣人類ヴェアヒューマン軍に包囲され占領も時間の問題となったときに、彼らの都に駐在所の裏にあるのと同じ「黒い建造物」が出現した。後に「神殿マルヤクータ」と名付けられる、それの発生する「防御結界」により1万人余のエルフ族が保護された。


ちなみに「神殿マルヤクータ」の出現と共にホルビー族、ドワーフ族、獣人類ヴェアヒューマンの各本拠地にも同じ「黒い建造物」は出現していた。


その時点で待機していたドワーフ・ホルビー連合軍が動乱に介入した。獣人類ヴェアヒューマン軍とエルフ族の間にって入り停戦を要求。調停を行い動乱は終了した。このとき11万人居たエルフ族のうち約3万人が捕虜として獣人類ヴェアヒューマン軍に連れ去られた。約5万人はドワーフ・ホルビー連合軍が保護。残る約2万人は戦死もしくは行方不明だった。


「この頃の事は本当に判らないことが多いの。様々な種族の陰謀が渦巻いていたと言われているわ。けれど、この事件の後から色々な問題が発生し始めたの・・・。ダークエルフ達が自らを『アイノー』と呼び始めたのもこの頃からね。」


ラビィニアは溜息ためいきを付きながら「第二次 赤月動乱スヴィタルヴェシーリ」の話を終えた。


最後に「第三次 赤月動乱スヴィタルヴェシーリ」の解説が始まった。


今から約500年前、それは起こった。今度は獣人類ヴェアヒューマン内部の衝突だった。増え過ぎた人口と女性に対する倫理観の違いから森林タピオ派と平原サーナ派に分かれて分裂、内戦にいたったのだ。この内戦勃発ぼっぱつかげにはエルフ族の暗躍や「産婆ヒルヴェラ教」という宗教の深い関与が有ったと言われている。


動乱はこの世界アルヴァノール西部の草原で森林タピオ派軍と平原サーナ派軍が睨み合う中、六つの「黒い建造物」が出現することで終結に向かった。


それらの「黒い建造物」は全て平原サーナ派軍のために出現したものだった。強力な6個の「防御結界」を陣地に利用出来る平原サーナ派軍の有利が確定したところで、またもドワーフ・ホルビー連合軍の調停が入り森林タピオ派軍は撤退した。


「と言う訳で、『第三次 赤月動乱スヴィタルヴェシーリ』は決定的な人的被害を出さずに終結したの。けれど、この時の緊張はまだ収まっていないわ。」


ラビィニアは静かに話を締め括った。

この三つの動乱は、全て赤い月が夜空に輝いている期間に起こったため「赤月動乱スヴィタルヴェシーリ」と呼ばれているのだった。

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