第7話 異世界との接触
井出は待っていた。ただ、ひたすら夜が明けるのを・・・。ラジオは午前
「夜が明けないな・・・。一体どうゆうことなんだ?」
眠気覚ましのコーヒーをがぶ飲みしながら、ガムを
「あれ? まだ暗いやん。おっかしいねー。」
「本当、変ですね・・・。このまま夜が明けなかったら嫌だな・・・。」
花柄のパジャマの上からカーディガンを羽織った真由美が不安そうに
「まあグダグダしてても仕方ないし、朝ご飯にしようよ?」
上下とも
「はい、井出っち。朝ご飯やで~。」
アヤが彼の前にハムエッグとトーストが
「なあなあ、皆や~。夜明けるまでぼーっと待ってるんもアホみたいやし朝ご飯食べ終わったら食料品とか日用品の
アヤの提案に反対する者は居なかった。朝食が終わると皆、着替えて各物資の在庫を調べるために散って行った。井出も駐在所の備品の確認のため事務所に向かった。
まずはロッカーを調べる。三つあるドアの左端、井出の私物が入っているところだ。中には皮のライダーズコート、「カロリーメイト」が4箱、缶コーヒーが3本、漫画雑誌などが入っていた。
二つ目を開ける。すると中にはジュラルミン製の盾と
最後の三つ目は普段は三宅巡査部長、真由美の父
「うわ、何だこりゃ! なんでこんな装備が入ってるんだ?」
中には機動隊の防護装備やヘルメット、出動服など一式が入っていた。ご
「あ、コレ知ってるで!『バイオ2』で出て来るメッチャ使えるアイテムやん。やったね、井出っち!」
ロッカーの前で井出が腕を組んで考え込んでいると、すぐ横でトイレの
次に事務机の引き出しを順に開けてゆく。もう井出は驚かなかった。ある引き出しの中に拳銃の予備弾が用意されていた。ハーフムーンクリップに3発づつが4個とバラで1発の45ACP弾があったのだ。
終戦後、警察官に拳銃が貸与され始めた頃は
「真由美ちゃん、これ見つかったから追加しといて。」
物資の集計結果をまとめている真由美に「カロリーメイト」と缶コーヒーを手渡す。彼女は即座にそれらの物資もリストに追加していった。皆が好きな飲み物を持って集まって来て休憩を取ることになった。お茶
休憩を取りながら井出は真由美がまとめてくれたリストを確認していた。様々な食料品や日用品が生鮮食品とか保存食などの分類ごとに綺麗に
物資は米が14Kgとインスタントラーメンやカップ麺、パスタなど保存の利くものが豊富にあった。時節柄、お歳暮で届いた「カルピス」やジュース類、缶ビールや缶詰も沢山ある。井出が持ち込んだアイスクリームやコーラ、駄菓子類も含めるとしばらくは持ちそうだ。まず生鮮食品から消費していくしかないが、その補給ルートの確保が大事になって来るようだ。
女子高生たちはクッキーのパッケージに描かれている欧風の女の子の話題で盛り上がっていた。2001年でも2019年でも販売されている商品の様だが、あちらのパッケージにはこの女の子は描かれていないらしい。七海やアヤが「とても上品!」とか「可愛らしい!」と
「うん。これだけ物資があれば直ぐに困ることはないだろう。皆、作業ありがとう。」
彼女たちの休憩が終わるまで待ってから、井出がこう伝えると互いに顔を見合わせてニコニコ微笑んだ。幸い三人の相性は良いようだ。今は不安から
「皆、物資の在庫を確認していたときに気付いたことは無かったかい?」
井出が予め事務所にある機動隊の装備や拳銃の予備弾のことを伝えたあとで女子高生たちに
「昨日、アヤさんが使ったチーズがパッケージごと新品になってました。お母さんが昨日作ったカレーのルーも新品になって戻ってきてます。牛乳やトマトジュースの紙パックも昨日は開いていたのに朝には新品に・・・。」
「あのな、トイレットペーパーやティッシュぺーパーとかゴミ袋とかパッケージが開いて無かったねん。洗剤とかもそう。全部、少しも使ってへん新品やった。あとなウチが持ってたグミも新品になってた。」
「そこのカラーボックス、チョコとかガムとかビスケットとか食べかけのがあったと思ったんだけど、今朝確認したら皆、新品になってたよ。チロルチョコが箱にびしっと入っててちょっと引いた。」
真由美、アヤ、七海の答えだ。
「やはり『何者か』が明確な意思を持って我々四人をこの世界に送り込んだと考えて良いね。」
「それってやっぱり神様ってこと? やっぱり私達、『異世界』に召喚されたってこと?」
井出の言葉に七海が問いかける。しかし他の三人には彼女が何を言っているのか今一ピンと来ない。
「あのな、七海君。君がたまに言ってる『異世界』に召喚って何なの?」
今度は井出が七海に問いかけた。彼女の説明ではこうだ。2019年では「召喚されたら○○で□□でした。」とか死んで「転生したら◎◎だった件」と言うタイトルの漫画や小説、アニメが沢山あるそうだ。短い時間で種類を多く見ようとするなら漫画が良いと言うので七海のスマホで読ませてもらった。井出、真由美、アヤが小一時間ほど漫画を読む。
なるほど、確かに色々なシチュエーションや手違いで死んで転生したり、召喚された主人公がそのお詫びに何か特殊な力を貰って、数々の冒険や苦難を乗り越えると言う話が多いようだ。中には剣や動物、モンスターに転生する作品もある。最近では「悪役令嬢」ってのが
「ドラクエとかRPGの世界に迷い込んだってことなんかな?」とアヤ。
「私も井出さんもトラックに
「そうだよな。確かに四人がこの世界に来たときの状況はこの中の『召喚』に似てるけど・・・。大体、俺たち、一人だって神様に会って『お前にこれこれの力を
そう井出が言った途端、七海が爆発するように叫んだ。
「でしょう? 私なんかこの世界に来た途端、猛獣に食べられかけたんだから!ヒドイよ!」
眼に一杯涙を溜めている。昨夜の恐怖が
こんなことを続けていたら
東?と思われる方向から朝日が上がって来るところだった。その方向には小高い丘がある。徹夜明けのせいか、太陽がやたら
草原には駐在所を中心にして草の生えていない輪のようなものが3本あった。その一番外の輪の手前、100m程先に草が生えていない
「あ、あれ私のスポーツバッグ! 取りに行こう! 井出さん、行こう!」
七海が昨夜、襲われたと言うのはあの辺りらしい。周辺を見廻したが大型の猛獣らしき姿は見えない。あんまり彼女がうるさいので先にカバンを取りに行くことにした。
井出は駐在所の車庫からパトカーを乗り出した。1980年型の
ちなみに井出の愛車
七海を乗せると井出は静かにパトカーを発進させた。そのまま徐行でカバンの元に向かう。路面状況が判らないからだ。草の下がもしも軟弱な地盤だったり、大きな岩が突き出ていたら
七海のバッグを回収して駐在所の前にパトカーを停めた井出は駐在所の裏に回った。先程ベランダから周りを見たときに気になるものを見つけたからだ。裏に回った彼はすぐに気付いた。電話線や電気ケーブル、上水道の止水栓や下水道の点検口の位置がまるで違うのだ。夏にエアコンの修理に立ち会った井出はそれらの取り回しを覚えていた。
配管を
井出はその
中央に直径7~8mくらいの円形の台がある。高さは15cmくらいだ。奥の壁の絵はどうやら、この台に何かを置いている人間を描いているようだ。
「ターン! タターン!」
複数の銃器の射撃音が響いた。瞬間、井出は反射的に動いていた。事務所まで行き、身を
「流れ弾が飛んで来るかも知れない。姿勢を低くして、事務所からは出ないで!」
井出は短く指示を出した。そのまま、入り口から顔を半分だけ出して銃声の方向を伺う。拳銃は銃声の主を刺激しないように銃口を上に向けたままだ。
先程、七海のカバンを回収した辺りのすぐ向こう辺りに馬車のようなものが停まっており、馬はしゃがんでいる。頭が三つ見えるので3頭立てらしい。馬車の上から3人の男女が後ろに向かってライフルや拳銃を撃っていた。撃つ度に派手に白煙が立つ。彼らが射撃する先には10数頭ほどの肉食獣の姿があった。ハイエナに良く似た動物だ。
「人が獣の群れに襲われている。俺は助けに行くが、君たちは戸締りをして二階に避難しろ!」
井出は鋭く言うと、ロッカーから「ガス銃」を取り出そうとした。ガス弾を取り出そうとしていると七海が素早く近づいて来た。
「私も行く!
一瞬止めようとしたが、問答している暇も
「良し! 後ろに乗ってくれ! 指示したらガス弾を渡してくれ!」
パトカーに向かう井出。七海も機敏な動作で彼に続く。真由美はその
七海が後部座席に乗り込んだのを確認すると井出は
「そっちの
井出はガス銃の銃身を折りながら運転席を降りる。P弾を指差して七海に渡してもらう。そのままガス銃に
七海にもう一発、P弾を手渡して
この頃になって馬車の男女も井出と七海の存在に気付いたのか、こちらに手を振って謝意を伝えて来た。その一瞬の
女性が拳銃の
井出はガス銃を放り出した。どうせ今からガス弾を込めても間に合わない。しかもこの間合いでは下手なところに弾着させると馬車の人間を巻き込んでしまう恐れがある。素早く腰のホルスターから
引金を引き絞り
「ギャン!」
肉食獣が
草原には3頭のハイエナもどきの死骸が転がっていた。残りは逃げたようだ。馬車の上から金髪の中年男が叫ぶ。
「ナカニ、イレテクダサーイ!」
どうやら詳しく事情を聴いた方が良いようだなと井出は思った。彼らには敵意も無いようだ。
「どうぞ! あちらの
彼が
「アリガトウゴザイマース!」
金髪中年男がそう言うと馬車を進めようと
「何だ、この動物? こんなヤツ見たことないぞ!」
「なになに? ダチョウの仲間? ビックリしたー!」
二人の前には体高2mを超える巨鳥のような生物が3頭立っていた。
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