第5話 カレーライスに豚汁を
時計を見ると、午後5時半を過ぎていた。まだまだ確認したいことが沢山あったが、一度切り上げて夕食にすることになった。理由は簡単で、皆が空腹を感じ始めたからだ。真由美が料理を温めている間に、他の2人が食器を出してコタツの上に並べていく。
食事の用意が出来るまで、井出は事務所に戻って入り口の外を警戒する。室内から
居間に戻ると食事の用意が出来ていた。メニューは小皿に盛りつけられたサラダ、
この家ではカレーは辛口と甘口の両方を作り、好みに合わせてブレンドして食べるのだ。七海は辛口を選んだ。量も井出ほどではないが中々の盛り方だ。スレンダーな体形だが、基礎代謝が高いのか結構食べるらしい。
アヤは中辛が好きだそうで、
「お待たせ~。ほな、始めましょか~♪」
アヤが中盛にしたカレーライスと何かを盛った小皿を盛って居間に入って来た。小皿の上には3種類ほどのチーズを刻んだトッピングが盛られていた。冷蔵庫には真由美の父が酒のツマミにするため輸入物のチーズが何種類か入っていたのだ。
「これ、お好みでトッピングしてね。とろけてメッチャ
アヤが皆の前で、チーズをスプーンですくってカレーに乗せて見せると
「あ、いいね! 私もやろっと。」と七海が続き、真似をするように真由美もチーズを乗せてみる。
「わあ、面白い!」と手を叩いて喜んでいる。井出も小皿に残ったチーズを一気にカレーにかけてみた。
「なるほど、こりゃ確かに
「いただきます!」
4人で手を合わせて唱和すると一斉に食べ始めた。
(女子高生三人と一緒にカレーなんか食ってると、林間学校に引率で来た先生みたいだな。)
井出はそんなことを考えながら、時々事務所側の入り口を
「それでもやー、なんでカレーに
「井出さんが学生時代に良く通ってたお店ではカレーライス頼むといつも
アヤの疑問に真由美が簡潔に説明してくれた。計らずも同年代の女の子同士で楽しい夕食を
「あっ! そういえばさ、この
「そうそう! そこがミソなんだよ!」
七海の言葉に、思わず井出が答える。すかさずアヤが割って入る。
「お
アヤが元気に自己紹介を始めて井出も気が付いた。そういえば自分や真由美は二人に自分のことを話していない。ちなみに「お
「自分は井出 浩一巡査です。 本来、この駐在所には上司の三宅巡査部長 真由美ちゃんのお父さんが居られるのですが本日は本署にて会議があり不在です。また、お母さんもご家族の看病で不在のため自分が交代勤務で来ております。」
ここまで井出が話した
「カタイ! カタイ! そんなんやなくて
「え? そんなこと言う必要ないだろ? お見合いじゃないんだからさ。」
井出はついつい素に戻って反論してしまう。
「あんねん! あんねん! 必要やねん。 下手したら、お巡りさんにはこれからずっと命
それにしても『つよさ』はなんとなく分かるが『スキル』って何? あと『ドラクエ』とか『FF』って何だ?と井出が聞き返す前にアヤは機関銃のように質問を浴びせてきた。
あっという間に年齢、身長と体重、高校時代にラグビー部、大学時代に山岳部だったこと、食べ物の好き嫌いが無いこと、バイクと車の免許を取得していること、駄菓子が好きなこと、兄と姉がいること等々を聞き出されてしまった。
おまけにアヤは何か人物が写ったシールをペタペタ貼ってある手帳に、聞き出した情報をチマチマ書き込んでいる。ほとんど職務質問だ。隣で真由美が楽しそうにクスクス笑っている。
七海も井出がラグビー部をやっていたと聞いた途端、
「おっしゃー、井出っちの調べは大体ついたしー。 次、真由美ちゃん行こかー」
もはや場は完全にアヤが仕切っていた。真由美が少し恥ずかしそうに話しだす。
「三宅 真由美です。 私も高校三年生の18歳です。 趣味は・・・。」
そのとき、アヤと七海から同時に突っ込みが入った。
「え! 真由美ちゃん、ウチとタメ? ウソやろ、高校生やったん?」
「ウソでしょ? 私、中三の弟と同い年くらいだと思ってた!」
真っ赤になって
「良く言われるんです。私、体小さいから・・・実際の年より幼く見られるんですよ。趣味は読書とパソコン、音楽鑑賞かな。好きな食べ物は『雪見だいふく』と『いちごポッキー』です。運動は苦手です。将来の夢は・・・、とりあえず大学に合格することです。」
いやいや、いやいやいや、いちごポッキーが好きとかそういうとこもでしょ?と他の三人は思ったがスルー。
「え? 大学、どこ受けるの?」とスルーついでに七海が
「一応、第一志望はお茶の水女子大・・・の理学部です。」
恐縮するように真由美が答えた。
「えースゴイ、『リケジョ』なんだね!」と七海が感心したように言う。
他の三人は『リケジョ』って何?と思いながら首を
「若林 七海 同じく高校三年の18歳です! 趣味はショッピングとカラオケ。好きな食べ物はパスタ! 自分で言うのもなんだけど、運動は得意です。陸上部で走り
ここまで話した辺りで皆ほぼ食事が終わり、ひと段落ついた雰囲気になった。ここで井出が突然、アヤに質問した。
「ちょっと良いかな? 大原さん。」
「大原さんとかヤメて~。『アヤやん』とか『アヤヤ』とか『アヤっち』とか下の名前で呼んでよ~。」
アヤが訴えるが井出はお構いなしに言葉を続ける。
「その、君の服装のことなんだが・・・。」
ここまで話が進んでアヤも理解した。あー、またスカートが短いとか髪の色がどうとか色々と説教が始まるのだろう。あと言葉遣いが馴れ馴れしいとか・・・。しかし、井出はアヤの予想とは全く違う質問をしていた。
「その阪神タイガースのスカジャンにバッグ、
アヤはその瞬間、
「そ、そそ、そんなん聞いてどうするん? 確かにウチ阪神ファンやけど・・・」
アヤがそこまで言った
「そーかっ! 実はね、俺も阪神ファンでさーっ! そのスカジャン、かっこいいな。素晴らしい!」
井出は大喜びでアヤの手を取り、歓喜の叫びを上げていた。
「え? そこ? スカート短過ぎるとか、髪染めてるとか、靴下だぶだぶとかじゃなくて?」
拍子抜けしたアヤが周りを見ると真由美と七海が苦笑いしながら井出を見つめていた。その視線に気づいた井出がごまかすように
「ゴホン! あー、食事も終わったし、そろそろ現在の状況の調査に戻ろう。真由美ちゃん、テレビ
井出がそう言うと真由美が20インチの音声多重放送対応テレビのスイッチを入れる。テレビの上にはSONY製のビデオデッキが設置されていて、テレビ台の中には任天堂のファミコンが格納されている。少し時間を置いてテレビに映像が映った。続いて、井出には聞き覚えのあるテーマソングが流れ出した。
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