第4話 時を駆ける女子高生たち
「危ない!」
アヤがそう言いながら、とっさに床に倒れ込む少女を支えた。なかなか機転が
井出は拳銃を両手で水平に構え、入り口の外に向けながら様子を
イノシシや野犬ならともかくツキノワグマが襲ってきた場合、
一呼吸置いて外に獣の気配がないことを確認すると、井出は周囲を
「あれ? コイツ、新品じゃないか!」
あれほど沢山あった拳銃の
「
居間までやって来るとアヤがコタツをどかして少女を横たえる場所を確保しているところだった。井出が少女を床におろしていると真由美が二階から枕と毛布を持って来てくれる。少女の呼吸が安定しているのを確認すると、自然に目を覚ますまで二人で見守るように言って事務所に戻った。
何から確認しようか、そう思って時計を見ると午後4時になるところだ。外は完全に暗闇に閉ざされている。12月とは言え日が暮れるのが少々早過ぎる気がする。まず井出は事務机の上にあるプッシュホンを調べた。グレーのプッシュホンはピカピカで使用感が無い。使い込んでいると
事務机も新品同様、椅子も同じだ。幾らかくたびれて尻に
「やっと味が出て来たところだったのに・・・。」
なんでも新品なら良いというものではない。井出は肩を落としながらロッカーの扉を閉じた。結論を言うと自分たちの周りにある「人工物」は全て新品だということだ。入れ替わったタイミングはさっきの地震のような異変のときだろう。何故そうなったのか理由は判らないが、今はその事実を受け
「井出さん、さっきの女の子が目を覚ましましたよ。」
真由美と共に居間に戻ると少女が体を起こして座っていた。腰から下はまだ毛布の中だ。両手でマグカップを持って何か暖かい飲み物をすすっている。どうやら紅茶のようだ。
「気分はどうですか? 少し話は出来ますか?」
「はい。さっきは取り乱してすいません。おかげさまで少し落ち着きました。」
少女は背筋をぴんと伸ばして答えた。
「なるほど
井出の確認に七海が
「そういえば大原さん、さっきは会話の途中で色々あって聞けなかったんですが・・・。
「えー? ホ・ン・マに知らんの?」
「ちょっと待って!
「失礼やなあ!
七海は無言でスマホを取り出す。それを見た浩一とアヤは驚きの声を上げる。真由美は何故か息を
「なんだ、それ。見たことないぞ? 電話なのか? どうしてそんな形してるんだ?」
「え? それ、ボタン全然付いてへんけど、どーやって電話かけたりメールするん?」
たかがスマホで何を騒いでいるのだろうと七海は
(電波があるし、ここは一応日本なのかな?
七海はアヤにも確認してみた。
「私のスマホは電波4本立ってるけど・・・。アヤさんだっけ? あなたの
「うちのも電波バリバリやでー。アンテナ5本立ってるし。せやけど、おねーちゃんのメール来んなー。」
何か電波状況のことを話しているようだが、井出と真由美には何のことを話しているか、さっぱり判らない。
「二人とも、それ少し見せて
井出がそう話すと、二人は自分の携帯端末を手渡してくれた。まず折り
こんなに小さな画面なのに
「メール」と言うのは文字通信のようなものだろうか? ボタンに
次にスマホを手に取ってみるが、これに関しては使い方が全く分からない。七海に助けを求めると目の前で操作して各機能を簡単に説明してくれた。井出はその機能に
まずは画面の美しさ、もはや写真が貼り付けてあるとしか思えない。良くあるパソコンの広告のハメコミ合成より
「メール」と言うのもできるし、「SNS」とやらで複数の人間と同時並行で通信出来たり、ゲームも出来たり、「インターネット」と言うのも出来るそうだ。その「インターネット」を操作してもらうとスマホの画面には世界中の
七海はまだ他の機能を紹介しようとしてくれたが、一旦そこで止めてもらった。あまりの情報の多さと
「いやー、こんな便利な機能あるんや。スゴイなあ、スマホって。そら
紹介された各機能のことは知っていて、その全てが
「若林さん、君は一体
思わず井出がそう
「そんなの2019年に決まってるじゃん。」
場の空気が
「え? 私、何か変なこと言った?」
その言葉にアヤが答える。
「ウチ、2001年から来たみたい・・・。」
井出と真由美が口々に言う。
「今は1983年だ。」「今年は1983年だよ。」
どうやら二人の少女は別々の時代から転移してきたようだ。真由美がポツリと
「まるで『時をかける少女』みたいだね・・・。」
その横顔を見ながら井出は今更のように思った。
(そういえば、この子って新人女優の原田知世ちゃんにちょっと似てるよな。)
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