047:お誕生日おめでとう

「ほらこれ、パレード」


「綺麗に撮れてんな。何、最前列」


「そー、一時間半前からぼーっと席取りしてた」


「ふ、贅沢」


「それとねぇ…」


つむぎは凛にお土産話をうきうきと聞かせながら、スマホで撮った大量の写真を見せていた。


昨日置いていったゲーム機を取りに行く、という名目で凛の部屋に上がり込んだつむぎ。しかしそんなことはそっちのけで、凛に買ってきたお土産を手渡したり何だかんだ居座っている。


「…つむぎ、眠くないの?」


「もう目ぇ覚めた。あ、今晩はここでお泊まり会しちゃう?」


無邪気に悪戯っぽい笑顔を見せたつむぎの頭を軽く叩く。


「しねーよ。ちゃんと帰す」


「つれないなぁ」


「つられてたまるかよ…全く無防備というか、無頓着というか」


「でも無理やり追い出さないよね。優しいね」


「まぁ明日も休みだし。それにお前があまりにも楽しそうに喋ってるから」


その横顔をずっと見ていたくなる。可愛い。

昔から変わらない、くるんと上を向いているまつ毛とか、小さな鼻とか。耳にかけている柔らかそうな後毛。


凛がそうやって躊躇いもなくつむぎの横顔ばかり眺めている気配を、一方のつむぎもまた感じながら気づかないふりをする。つむぎは画面を弾いて写真をスクロールしていくが、視線は左上の時刻表示ばかりを気にしている。


23:59が、ぱっと0:00に切り替わった瞬間。

つむぎは不意に凛の方を向いた。


「凛。お誕生日おめでとう」


「……え」


日付が変わり、九月二十五日の午前零時。


「ありがとう…」


つむぎは凛にマイクを差し出すような仕草を見せた。


「16歳の抱負は?」


「え、…っと…楽しく過ごす」


「あはは、一緒に楽しく過ごそうね!」


つむぎは凛の太腿の横に膝をつき、ぐいっと身を乗り出した。驚いて思わずたじろぐ凛の肩に遠慮がちに手を置き、そして頬に口づけ。


「…つむぎ、お前が照れてどうすんの」


「り、凛も照れてよ…」


つむぎは両手でパタパタと顔を煽ぎながら、凛の方をちらりと見る。凛は反射的に顔を背けた。

――照れるに決まっている。いくら普段仏頂面の凛でも、つむぎから不意打ちにあんなことをされたら動揺するなという方が難しい。


「ふ〜〜ん。ちゃんと照れてんじゃん…」


「……」


「そうだ、誕生日プレゼントなんだけど…どうすればいいか分からなくて。なのでお願い事を一つ聞きます」


つむぎの両親が凛に、また凛の母親がつむぎに何かを贈るのは毎年の恒例だったものの、凛とつむぎは今まで互いの誕生日にプレゼントを交換することはなかった。


「今ので充分です」


凛が自分の頬を指して満足げにそう言うと、つむぎは困惑したような表情を見せる。


「でも…」


「じゃあ追加」


凛は人差し指を自分の口元に持っていく。


「そ、それは…!」


ドタバタと派手な音を立てて後ずさるつむぎ。

口にキス、はまだ駄目らしい。別に付き合ってるわけでもないし、無理もない。


「じゃあさ、明日デートしよ」


「デート?」


「そう。氷室雫くんの映画。約束したの覚えてない?」


「…あー!」


それはもしかしなくても、以前凛と何となく約束をして、文化祭実行委員長の美雨にその約束を横取りされそうになり、焦った末に柄にもなく牽制なんてしてしまったあれである。

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