003:時計の針はまた動き出す
最寄駅から電車で終点まで30分。そこから乗り換えて20分。長い通学時間だけど、都心から下る方面の電車は東京にしてはかなり空いている。車両にはつむぎたちの他、離れたところに2、3人の乗客がいるのみだった。
「同じ学校だなんて、すごい偶然だな」
「うん」
隣に、凛が座っている。触れる距離に存在する。
嬉しいはずなのに、この夢にも思わなかった状況に頭が追いついてこない。現実とは思えない。
「三年ぶり、か」
凛がぽつりと呟いた。
「元気にしてた?つむぎ」
「してたよ。凛も元気にしてるのかな、って時々考えてた。…手紙、待ってた」
「…ごめん」
凛は携帯電話を持っていなかったし、引越し先の住所さえ知らされなかった。
凛から手紙が来ることだけが、頼みの綱だった。
「こっちからじゃ手紙も出せないし、電話番号も知らないから待つことしかできなかった。この三年、全く音沙汰なくて心配だった…約束、したのに」
「ごめん、つむぎ」
つむぎははっとして言った。
「…ごめん、違うの…そうじゃなくて…」
本当に言いたいことは、こんなことじゃない。
別れ際、言いたいことを言えなくて後悔した。だからもしまた会えたなら、言おうと思っていた言葉。
「…また会えて、すごく嬉しい」
自分の発したその言葉が震えていることに初めて気づく。遅れて、鼻の奥がつんと痛んで視界がぼやけた。
「うん。俺も」
「……」
「あぁほら、泣くなよ。お前、泣き跡残りやすいんだから」
凛はつむぎの頭に手を置き、そして抱き寄せた。つむぎは昔から、凛の前ではよく泣いた。その度に凛はこうして私の頭を抱き寄せる。駅前で別れたあの朝もそうだった。
三年ぶりなのに、当たり前のように自然なその動作。そしてつむぎも当たり前のように凛の身体に体重を預けた。懐かしい凛の匂いがした。涙を掬いとるようにそっと触れた凛の指は細長くて、昔より骨張っていた。
「…凛の馬鹿」
「はいはい、さっさと泣き止めガキ」
優しい仕草とは真逆の、乱暴な言葉。
やっぱり凛だ。弱ると優しくて、けれどいつもは意地悪な、よく知っている幼馴染み。
三年間止まったままの時計の針がやっと動き出したような、そんな気持ちだった。
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