第3夜

 今日もあの最上階のテラスから星空を眺める


 昨日親友に言われてずっと考えていた


 私は“彼女”のことをずっと引きずっていた


 だけど、もう“彼女”は戻ってこない


 ならば、前を見て進まなければならない


 ……だけど……


「そんなの……むりだよ」


「何が無理なの?」


 ハッとして後ろを振り向く


 ギターを担いでいる親友がいた


「……別に……」


「どうせ“彼女”のことでしょ」


「……」


 反論できなくて、また星空を見上げる


「その様子じゃ私の言ったことも考えているのかな」


「……」


 私の親友が的確すぎて、私は何も喋れなかった


「貴女にとって“彼女”の代わりは誰にもなれないんだろうね」




『あの!一緒にお出かけしにいきませんか』


『……私、身体が弱いから……』


『……っだけど、この近くでいいので……』


『……………そこまで、言うのなら』


 “彼女”は呆れたように、でも確かに幸せそうに微笑んでいた


 私はその笑顔が忘れられなかった


 たとえ、“彼女”が私のことを『嫌い』と言おうとも




「うん、そうだね」


「……そう言われるとやっぱりちょっと悔しいな」


「えっ……」


「ううん、なんでもない」


 親友は首を振って星空を見上げた


「相変わらずここの星はきれいね」


「そうね、だって“彼女”が気に入るほどだもん」


(だめだ……また涙が……)


「まだ、辛いの?」


「……っ辛くないときなんてあるわけないじゃんない」


「じゃぁ、その気持ちを歌にしたら?」


 親友がギターを下ろしてチューニングを始めた


「えっ?」


「前を向けないなら、その想いをのせて、歌に」


 親友がコードを引き始めた


 私は呆気にとられた


 親友が眩しく見えた

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