神との契約

「やっぱり俺って、死んでるんですかね」


幾ばくかの期待も込めて、目の前の青年に問いかける。

焦らすこともなく答えはすぐに返ってきた。


「そうだな」

「これからどうなるんでしょう」

「その査定が今し方終わった」


手元のバインダーを手の甲でこつんと叩く。

どうやら俺が落ち着くのを待っていてくれたみたいだ。


査定。

その基準はわからないが、つまり俺の今までの何某かが採点されてそれに見合った褒章なりなんなえぇいいやもう面倒くせぇ!


つまり! コレは! 噂に聞く!


「異世界転生‼」


いやっふぅぅぅ!!!!


人目も憚らず俺はその場で拳を高々と突き上げ飛び上がった。


「いきなりなんだよテメェ気持ちわりぃな」

嫌悪感を微塵も隠さず顔全体を顰める青年。

いや何言ってんのこれを喜ばず落ち着いてなどいられようか。いやない。

だって異世界ですよ?

剣と魔法のファンタジーですよ?

チート無双でハーレムできゃっきゃうふふですよ??


まぁしかし?

きっと俺はこれから才能溢れた超絶イケメンに生まれ変わるのだろうから、中身もそれに見合った紳士然とした振る舞いも心掛けねば。

とりあえずは落ち着いて、余裕を持った態度を意識しよう。


まずは目の前の、恐らく神様(流れ的に)に色々確認しておかねば。


「あのー、それで俺ってばどんなチート能力とか戴けるんでしょうか?(そわそわ)」


「は?」

何言ってんのお前って顔された。


「何言ってんのお前」

ストレートに言われた。

神の心を読むとはさすが俺。


しかし続く言葉はさすがに予想外だった。



「なんでお前をそんな特別扱いせにゃならんのだ」


始め、何を言われたのか理解できなかった。


「なんでって、その・・・・・・お約束、的な?」


「誰との約束だよ」


つっこまれて考える。そういえば誰だろう?

オタクとクリエイター?


「まぁお前のいた世界と年頃を考慮すれば、言わんとすることは理解出来る」


「はぁ」

だからここは異世界転生チーレム無双的な流れでは?


「お前の世界で日々どれくらいの人間が命を落としてるのか、具体的な数字は知らなくてもニュースや学校の教科書なんかからイメージくらい出来るだろう」


「まぁ、よく滅亡しないなーくらいには」

すごいよね。人類。

生前まったく貢献出来なかった事が悔やまれる。


(次の人生ではバンバン活躍させてやるからな、ムスコよ!)


と、心の中でバカな決意を固めている間、なおも神様のありがたいお話は続いていた。


「そいつらが生まれ変わる度にそんなズルしてたら世界の秩序が乱れるだろう」


「うわー、超正論」


まぁ世界の数と総人口にもよるけど、確かにそのペース規格外のチート野郎が生まれてきたらすぐにパワーバランスが崩れてインフレを起こすだろうな。


待てよ?


ということはここでこんな話をされているという事は・・・


「やっぱり俺は選ばれし魂というワケですね!」


何だよー、もう。

思わせぶりなこと言っちゃってー☆


期待を込めての再確認。


「アホか」


が、神様はすげなくそれを一蹴。


「『査定』っつったろ。これは全員だ。ここは時間の概念もないからな」


「ほほぅ。まぁ任せて下さいよ。どんな世界だろーと、魔王でも邪神でもけちょんと言わせてみせますから!」


「・・・・・・。」


神様は俺の頼もしい宣言に感動して言葉もでないらしい。


たっぷり一分ほども待って、なんだか至極面倒そうにくしゃりと髪をかき上げていった。


「色々と勝手に勘違いしているようだから言うが」

「はい(わくわく)」

「お前は異世界には送らない」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぱーどぅん?



「なにゆえッ‼」


もうホンット、魂の叫びで抗議した。


「生前の行い」


カエスコトバモゴザイマセン。

成績:普通。 運動:普通。 容姿:中の、いや上の下(自称)


いやいや、こんなにラノベ主人公に適したステータス他にいるだろうか。

アレか? 料理スキルが足りないのか?


「いっぱいいるから『普通』なんだろうが」


「ですよね」


「まぁ、数字に表れない特技や適正なんかがあれば考えてやらんでもなかったが」


「それだ!」


丁寧にひとつずつ活躍の場を潰されていった俺は、そこに唯一の活路を探す。


しかし。


「漂白剤も要らないくらいに綺麗な履歴書だな」


履歴書なんだ、ソレ・・・


「それにお前さっき、自分の最後を思い出して戻しかけただろ」


「あぁ、はい。そういえば」


まだ口の中には酸っぱさや鉄の匂いが混じっていて酷く気持ちは悪い。


「血とかも得意ではなさそうだし、治安の悪い世界は却下」


「そんなっ!!」


「転生したってすぐ死ぬだけだろ」


「ぐぅ」


「なんだそれ?」


「『ぐう』の音」


「ギャグのセンスも無し、と」


あぁ、つい余計な事を!!


「やっぱ全部リセットしてもとの世界だな」


元の世界と聞いて慌てて待ったをかける。記憶も全てリセットするなら、今の後悔も何も気にする必要はないのかもしれないけど、せっかく降って湧いた機会だ。出来れば物にしたい。

生前あれだけマンガやアニメに触れて来たんだ。何か使えるネタは・・・!


「ちょちょちょちょっと待って下さい!」


「なんだ」


「・・・・・取引しませんか」


「ほぅ」


俺は必死になって反撃の手立てを探した。




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ここから始まる第二の人生! さーて、どんなチートが貰えんのかな? @hkasasagi

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