ここから始まる第二の人生! さーて、どんなチートが貰えんのかな?
鵲
死後の世界
目を覚ますと、知らない世界にいた。
まず目についたのは白。次に目がついたのも白。
見渡す限りの白。白。白。
とにかく何も無い、真っ白に囲まれた空間だった。
次に足元を確認する。
壁は無いけど、少なくとも床はある。
コツコツと靴底で軽く叩いてみた。とりあえず、種類とかはよく分からないけど石材っぽい。
「おい。静かにしてろ」
正面から不機嫌そうな声がかかる。
・・・いや、実は最初から気付いてはいたんだけど。
顔立ちはアジア系、年齢は多分だけど、高校生の俺より少し上くらい。えらく整った顔立ちの青年が豪奢な椅子に足を組んで座っていた。
布をぐるぐる巻いただけのインド人みたいな服に、所々高級そうな装飾品を見につけていて、尊大な態度からもなんとなく偉い人っぽいオーラが漂っている。
手元にはバインダー的なものがあり、視線ずっとそこから動かず、反対の手に持つ羽ペンで何やらカリカリと書き込んでいる。
まぁ、ここがなんとなく普通の場所ではないんだろうなー、という気配は感じ取っていた。
ただ万一事件性があったにせよ、さっきから青年はあの調子だったし、俺自身もとくに拘束もされておらず、緊急性の命の危機はないと判断してひとまず現状把握につとめていた。
ただの現実逃避でもあったが。
そして驚くことに調べるべきところも何も無い。遮蔽物も無い空間で見渡す限り壁も窓もドアも見当たらないのだから異常だ。
むしろこれはバーチャルか?
そう思って目のまわりやこめかみの辺りに触れてみるが、おかしな感触もない。
何一つ進展しないままやれる事をやり尽くした俺は、諦めて目の前の青年に話しかけてみる。
「あのー・・・」
「うるせぇっつってんだろ」
ヤンキーだ。ヤンキーがおる‼
とりあえず怖いので素直に従っておくことにした。
再びの手持ち無沙汰。周りに見るものがないので、今度は内側に目を向けてみる。
そういえば俺はここで目を覚ます前、何をやっていたんだったか。
7月。火曜。平日。朝起きて、学校に行って。小テスト受けて、早弁して。
昼休みはクラスの友達とスマホでゲームして。そして・・・
俺は頭を抱えた。
何故かその続きの記憶が、どうしても思い出せなかったからだ。
動揺を押し殺し、必死になって記憶の糸を手繰り寄せる。
・・・あ。
午後の数学の授業、チャイムと同時に爆睡かましてただけでした。
そりゃ何も覚えてねーわ。あっはっは。
ともあれ。後は放課後だ。
部活はやってない。下校。本屋に寄った。マンガ雑誌を立ち読みして、夕方まで時間を潰した。コンビニでアイスを買った。
スマホに友達からメッセージが届いて、お勧めの動画だってんで、イヤホンつけて歩きながら観てた。新しい芸人さんだったけど、俺の琴線には響かなかったな。
夕陽が眩しくて、街全体真っ赤で、目を眇めながら歩いた。
チラッと信号を確認したら青だったけど点滅して・・・た?
アレ? 青だったか?
イヤホン越しに、何かうるせーなーとか思った。
路地ライブでもやってたのか、って顔を上げたら、すぐ横に、
車?
轢かr、暗転。横転。顔のすぐ脇に、何故か地面。
あ、逆か? 地面に顔、え?
水たまりが出来た。雨?
傘持ってないんdけど。7月なの√すげぇ寒i。異常気象かよ。
眼前に、手。袖、俺と同じ制f服▽?
指。小指。ちょっと深爪℡だ。俺も昨日切×過ぎた@yよn。
て\か手の形めっちゃ似てる。誰#? 俺? の手??
水●りがぃ広がるr。赤kい。臭く□鉄、粘vっこ/い。赤iii。
赤。赤。アカ。赫あかa血赤アカk。
視界が、意識が、匂いが、世界が、全てが。
鮮烈な赤色一色に塗りつぶされた。
「うぷっ」
胃からアツいモノがせり上がってくる。必死で歯を食いしばって抑えた。
飲み込む。気持ち悪い。
目尻には熱い水滴が溜まり、口の中が酸っぱい。
それでも。
鼻と口から侵入した、強烈過ぎる自分の血の匂いと味のイメージは上書きできなかったが。
脈拍が、ようやく普段より少し早い程度まで落ち着いた頃、俺は何時の間にか両膝をついて蹲っていたことに気付いた。
「やっと落ち着いたか」
頭上から降りかかる声に顔を上げる。
膝をついているせいで視線がさっきより低い。
蔑むような視線と目が合う。
意を決して、声を出した。
「やっぱり俺って、死んでるんですかね」
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