第2話 リアルなゲームを始めよう

「えと…サポさん、こんなものかな? 」

 生産系の携帯ゲームを齧ったぐらいで、殆ど他のゲームなどした事が無いランカは、何をどうすれば良いのか、お手上げ状態だった。

 取り扱い説明書もなく、只々ウィンドウの文章を読むので精一杯。気持ち的に汗をかきながら画面をよく見れば、特殊スキルの欄に〈サポート〉の文字がある。

 サポート。お助け機能。

 取り扱い説明書の代わりになるかもしれない。という事で、試しにマックスまで善行ポイントを振った結果、ヘイ○リ並みに対応してくれる便利機能が作動した。仮にサポと呼んで、的確な助言の下にスキルを決めたり、レベルを割り振ったりする。

(いやぁ、よかった)

 ステータス画面の名前表示は、本名のままランカになっていた。漢字では欄華だ。

 引きこもり気質にふさわしい、和室の欄間の華。自分で思って、微妙に落ち込む。

 名前、種族、年齢、職業は変更不可らしく、そのまま放置した。何故だか実年齢が反転して、十三才になっていて驚いた。変更不可ではどうしようも無く、諦めるしか無い。

 基礎スキルの設定で、体力、魔力、俊敏、知力は、それぞれ百ポイントを足し、健康は種族の平均値五百までレベルを上げた。

 神の箱庭がどんな世界か知らないが、基本的に元気で過ごせれば有難い。

 運は良運に変更しただけで二百五十になるとか、我ながら、生前は貧相な運だったのだと納得した。

 色々スキルを増やしている内に、特殊スキルに創造魔法が生えていて驚いた。

 特殊なだけに? 今のところレベル一だが、手を加えるつもりはない。

 加護や善行ポイント、特殊スキルは珍獣扱いになるとサポに注意され、隠蔽〈〉で見えなくしておく。悪目立ちする魔法スキルの偽造・隠蔽も五十に上げて、看破される危険を回避した。


  氏名  ランカ

  種族  ハイエルフ

  性別  女

  年齢  13

  職業  錬金術師 薬師

 基礎スキル

  体力     105

  魔力     150

  俊敏     130

  知力     150

  運      250〈良運〉

  健康     500

 知識スキル

  薬学     レベル1 

 技能スキル 

  弓術     レベル1

 魔法スキル

  錬金術    レベル5

  属性魔法▽  レベル5

    生活魔法▽

       初級=地・水・火・風

  鑑定     レベル5 

  探索     レベル5

  マップ    レベル5

  気配察知   レベル5

  身体強化   レベル5

 〈隠蔽     レベル50〉

 〈偽装     レベル50〉     

 〈特殊スキル▽〉

      〈サポート MAX〉

      〈創造魔法 レベル1〉


〈加護 神の箱庭〉〈加護 女神の気まぐれ〉

〈善行ポイント ∞〉〈〉内は非表示


「ハァァァ… 疲れた」

 サポ主導で、すべての操作を終えて辺りを見回せば、一緒に残っていた三つの魂が移動して行くのに気がついた。

 自分ひとりで神の箱庭世界に行く勇気はない。

 迷惑かもしれないが突進して、同時に鏡の扉を潜り抜ける。 

(うまくいきますように! )

 友達少ない歴イコール、ほぼ年齢だったが、とにかく頑張ってみよう。


*****

 よくある事を、テンプレと言うらしい。

 前を行く三人組のヒソヒソ話しから、漏れ聞こえた内容だ。

(書類の雛形みたいな感覚かしら)

 鏡の扉を抜けた先は、森の中にある緩やかな斜面だった。

 木漏れ日は柔らかい。

 体感から、おそらく夏の終わりか初秋の頃だろう。

 さっきから三人にチラチラ見られて、居心地が悪かった。

 話しかけようとする度、十四、五才の美少女が、キツイ視線を向けてくる。

 彼女の視線には、あきらかな敵意を感じた。

 こっそり鑑定をしてみると、ダークエルフの少年がふたりに、エルフの少女がひとりと分かった。

 レベル五だと、種族と性別が分かる程度だ。

 できるだけ距離をあけて付いて行くが、度々振り返る少女の視線が突き刺さる。

(友だちになるのは、無理か。きびしい)

 ひとりで見知らぬ森を行くのは怖いし、とにかく人のいる所までは、付かず離れず着いて行こう。

 暫く坂を下り、大きな岩が積み重なった場所に出る。

 先行する三人が休憩に入ったので、離れた岩に腰掛けて足を休めた。

 見下ろした自分の足は華奢だが、今のところ疲れはない。丈夫そうで何よりだ。

 目に入る範囲の身体つきは、細くて白くて滑らかだった。残念ながら、期待の胸も滑らかだ。腰までの髪は白金色。銀よりも光沢がある。

 鏡の類が無い為、自分の顔が気になる。この世界の標準であれば、すごく嬉しい。

 今の格好は丸首の長袖貫頭衣を、腰のベルトで留めた上着。身体に沿った細身のスラックスと、フード付きの長いマントに、皮の長靴。これら以外に持ち物はない。

 俯いてぼんやり見ていた地面に、影が落ちる。

「ねぇ、何処まで着いて来る気? 気持ち悪いから、やめてよね? 」

 見上げれば、屈んで覗き込むキツイ表情と目が合う。

「迷惑なの。気安くしないで。ね、あなたは他人だから、着いて来ないでよ」

 いちいちごもっともなお言葉で胸に刺さる。

 同じ世界から来たのだ、せめて森を抜けるまで目を瞑ってほしかった。

(赤の他人に頼るなと…はぁ ほんと、次の便に乗ればよかった)

 キャンセルが出て飛びついたが、団体さんの居る便に乗ったのが間違いだった。

 後ろを気にしながら小声で言い募る少女に、敵愾心が丸見えで嫌になる。

 連れの男の子に近づくなと、副音声が聞こえた。

 こちらとしては、少年たちに取り入る気はない。せめて人のいる所まででも一緒に行きたかったが、邪魔者に思われたなら仕方がない。

 休憩を終えて立ち去る三人を、追いかける勇気はなかった。

「サポさん。ここは安全? 」

『…安全を 確保 防御陣 展開します』

 ランカを中心に複雑な陣が地面を這い、最外層で薄い光の膜が立ち上がる。

『展開 完了 視界の範囲内を カバーしました』

「…至れり尽くせりね、ありがとう。 でも、ひとりぼっちは心細いよ」

 後半の独り言に反応して、ステータス画面が現れる。

『魔力を ∞に変更して サポを実体化 定着 可能です』

 勝手にサポと呼んでいたが、正式に登録されたようだ。

「えっ…この世界でステータスは見られないし変更できないって、箱庭の神様が…? 」

『はい、そうです。サポートは、女神様の気まぐれです』

「うん…わたしじゃなくて、サポがステータスの管理をしてくれるのかな? 」

『…解りました。はい、ステータス 領域 管理します』

「良かった。苦手なのよねぇ、細かい作業って…白い子虎になれる? 」

 虎を検索するのに数秒かかった。

『可能 です 魔力レベル変更 実行。偽造スキル発動 表示魔力百五十 キープ』

 キーボードを打ち込む要領で、魔力欄の偽造もしてくれる。

 文字の変換と同時に、空間が歪んだ。

 瞬きする間に、赤ちゃんサイズの白虎が目の前でお座りしていた。

 身体の縞模様は薄い銀色だ。好み通りの見た目に、眺めるだけでほっこりする。

「ありがと。ちょっと凹んでいたけど、元気出た」

 柔らかな頭を撫でて、気持ちを立て直す。

「周辺の地理は探索でいい? どうせなら街へ行く前に、食べ物を見つけたいの。お腹がすいたし、売ってお金も稼ぎたい」

 撫でている手に鼻面を押し当てて、サポが立ち上がる。

 そのまま左に逸れて、森の奥へと進路をとった。

『探索・マップを、発動します。移動しながら植生の確認と、動物の分布を更新します。一部共有して、おおまかな分布を、ランカの視覚内に、展開します』

 感情は薄いものの、人と会話する感じに近づいていた。

(レベルアップ すごい)

『特殊スキルサポートを、ランカから分離しています。現在ランカの脳を膨大な情報から防御する為、サポートが独立した状態です。基本スキルの知力が五百を超え、並列思考ができるようになれば、部分的に世界の理へアクセス可能です』

 内容のとんでもなさに、目眩がした。

(うん…忘れよ。平凡が大事)

 ふと、職業が錬金術師と薬師だった事を思い出した。どうせなら、材料も集めたほうが効率的だ。

「食べられる植物は緑で、錬金術の材料は青で、薬草は黄色で…あ、入れ物がなかった」

 視線の斜め上。邪魔にならない場所に、半透明で簡易な地図が浮かぶ。

『…ランカの、現在のレベルに、合わせます』

 探索距離のゲージが半径十メートルに狭まり、波紋のように三色の点が広がった。

「鞄は無理そうだけど…袋も 無理かぁ。鞄代わりに使える魔法って、ある? 」

 緑の点の多さから、食材の豊かさに驚かされる。

『付与魔法レベル一を習得すれば、現在のスキルレベルで、五センチ立方の収納魔法を、習得できます』

「五センチって…ポケットのほうが優秀よね」

 マップ上を移動する灰色の点も多く、これは動物だと分かった。

『先ずは魔力の循環に馴れて、身体強化を覚えるのが先です』

 ステータスのスキルは、善行ポイントで嵩上げしている。本来の自分は非力だ。

「鍛えて地力をあげなさいって事ね。急にアスリートにはなれないもの。納得した」

 サポに誘導してもらいながら、魔力循環の練習を始める。が、その前に、ランカは魔力を感じる必要性に思い至った。

(…魔力って 何処にあるの)

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