【完結】神の箱庭 女神の気まぐれ

桜泉

第1話 プロローグ

 辺りは騒めいていた。

 見回せば人魂の集団だ。

 乗っていた飛行機が、空間にできた亀裂を回避できなくて、空中分解したのは何となく覚えている。

(…次の便に すればよかった)

 おそらくは死んだのだろう。

 大手企業の研修団体がほとんどの席を占める飛行機で、北へ向かう便だった。

 早く現地に着きたくて、キャンセルに喜んで乗ったものの、研修生の騒々しさに持病の頭痛が始まって、薬の加減か朦朧となっていた時だ。

 ほとんどは夢の中で、詳しくは覚えていない。

(ここは どこだろう)

 見渡した仄暗い空間の果ては、何も見えない。

 周りに浮かぶ人魂も不安なのか、落ち着かない気配がする。

 同じ飛行機に乗っていた人たちだろうか。

「はい! 待たせたね、招かれざる命たち」

 頭上から声が聞こえる。

 見上げれば、眩い光の球が浮いていた。

「奇跡のような稀な確率に、幸か不幸か出会った諸君。おめでとう で、残念だ」

 若々しい中性的な声だった。

 あちこちから「ふざけるな」だの「馬鹿野郎」だのと、罵声が上がる。

「稀な確率で死亡した諸君に、我が箱庭で生き返るチャンスを与えよう」

 非難と罵声の渦が、一瞬にして静まった。

「君たちの大好きなゲームだ。死亡前の生涯で得た善行を、ポイントに替えて授けてやろう。存分に悩み、決定したまえ。まずは定番のステータスウィンドウを開いて、諸君の善行ポイントを確認しろ。そうしてポイントを振り分ける。簡単だろう? すべてが決定したら、随時あの扉から出て行くが良い。その向こうが、我の創造した箱庭の世界だ。我が期待するのは、無様に足掻く諸君等の生き様だ。存分に生きて、楽しませてくれ。それから、我の箱庭では、ステータスの確認も修正もできない。ゆえに、この場で充分に吟味したまえ。では…健闘を祈る」

 光が消えて真っ暗になった中、ぶつぶつと呟く声が大きくなってゆく。

 中には悲嘆にくれるすすり泣きも聞こえるが、ほとんどは作業に夢中らしい。

 斜め上に等身大の鏡が浮き出して、ぼんやりとした景色が映っていた。

(あれが、扉? )

 あちこちで淡く光る画面が出現し、唸り声やら歓声が上がる。

 わけが分からず硬直しているうちに、幾つかの人魂集団が鏡の中へ移動した。

(わ、取り残される)

 神と名乗る眩い光が言った事を思い出し、有るか無いか分からない呼吸を整える。

 あちこちから、呪文のようにキーワードが聞こえた。それに習って言葉を紡ぐ。

「す…ステータスウィンドウ。 あれ? お オープン? 」

 ブゥンと頭の中で起動音がして、半透明の画面が現れた。

「え と? なんなの これ」

 ウィンドウに浮かび上がった文字は、理解不能。あきらかにバグだ。

「…うそ」


 氏名 ら*か

 種族 *****

 性別 *

 年齢 **

 職業 **** **

 体力 *

 魔力 **

 俊敏 *   

 知力 **

 運  *

 スキル **

 特殊スキル *******

 加護 神の箱庭

 善行ポイント 8


(…ほとんど 読めない)

 何かが書かれていそうで、何も理解できない文面だ。

「あらあら、虫食いね。珍しいわ、あなた。奇跡のような稀な確率ね」

(またしても奇跡…え? )

 気づくと、隣に金色の光が浮いていた。

「稀な中でも、更に稀な事象を受けた魂か。世界の総意かしらね。ほんと、確率って面白いわ。なんだかワクワクしてきちゃう」

 楽しそうな雰囲気が伝染して、自分の事ながら思わず苦笑いを零した。

 こんなところで怒りもしないなんて、心底、日本人だと思う。

「楽しませてくれたご褒美に、適度な変更をしてあげる。ついでに私の加護もあげるわ。あとは、自分でなんとか頑張りなさいな」

 柔らかな感触に包まれて心が軽くなると、金色の光は消えていた。

「? 」

 周りからほとんどの人魂も消えている。 

(たいへん、本格的に置いてきぼりだわ)

 もう一度画面に目線を落とすと、内容が変化していた。

 

 氏名 ランカ 〈欄華〉

 種族 ハイエルフ

 性別 女

 年齢 13

 職業 錬金術師 薬師

 基礎スキル

  体力 5

  魔力 50

  俊敏 30  

  知力 50

  運  5

  健康 70

 知識スキル

  薬学      レベル1

 技能スキル 

  弓術      レベル1

 魔法スキル

  錬金術     レベル1

  属性魔法▽   レベル1 

    生活魔法▽ レベル1

        初級=地・水・火・風

  鑑定      レベル1

  探索      レベル1

  マップ     レベル1

  気配察知    レベル1

  身体強化    レベル1

  隠蔽      レベル1

〈特殊スキル▽〉 

     〈サポート〉 

〈加護 神の箱庭〉〈加護 女神の気まぐれ〉

〈善行ポイント ∞〉〈〉内は非表示

 

「な! 」

 善行ポイントがバグっていて おかしい?

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