第6章 やがて納得
第26話
数分後にサラが戻ってきて、僕たちを部屋から連れ出した。廊下を進み、ロビーがある方へと向かう。長い階段を上って右に曲がり、ロトの部屋の前に来た。建物の正面から見て左手にあるドームに当たる。
サラがドアをノックすると、すぐにロトが姿を現した。彼は僕たちに中に入るように促し、サラは踵を返してその場から去った。
ドアが閉まる。
部屋の中は比較的綺麗だった。中央に巨大なテーブルがあり、その上に今も数多くのスクリーンが投影されている。スクリーンがない部分には、数え切れないくらいの書類が重なっていて、彼が今まで仕事をしていたのが分かった。テーブルの向こう側に巨大な書棚があり、数々のファイルが所狭しと押し込まれている。天井はアーチ状に曲がっており、床には硬質な素材が使われていた。ベッドやシンクの類はここにはない。部屋を見渡してみると、右手にもう一つドアがあった。おそらく、その先が彼が生活するスペースになっているのだろう。ここは仕事部屋というわけだ。
テーブルの周囲には椅子が全部で四つ並んでいる。テーブルを挟んで、ドアから遠い方にロトが腰をかけ、彼は僕たちにその向かい側に座るように促した。
三十秒ほど、誰も口を利かなかった。
「あの……」耐えきれなくなって、僕は口を開いた。
掌をこちらに向けて、ロトはそれを制する。
「申し訳ありませんでした」突然、彼は頭を下げた。「お二人には、多大なご迷惑をおかけしたと思います」
「いえ、僕たちは、何も……」
ロトは顔を上げる。彼の目つきは真剣だった。今は笑っていない。
「あのメッセージを見られたのですね?」
「ええ、そうです」僕は頷く。
「そうですか……」
沈黙。
ロトは投影されていたスクリーンを消し、テーブルの上にある書類を纏めた。
「失礼に失礼を重ねるようで申し訳ないのですが、まず私の話を聞いて頂けますか?」
僕は頷く。リィルは先ほどからじっと彼を見つめている。
「お二人には、先ほどご覧になられた内容を忘れて頂きたいのです」
「忘れる?」僕は訊き返した。
「ええ、そうです」ロトは頷く。「厳密には、今回の仕事が終わってこの施設を去ったあとも、外部の人間に他言しないで頂きたいのです」
僕は黙る。
しかし、そんなことを言われることは、ある程度は想定していた。サラに呼び出され、ロトと面会すると分かった時点で、どのような話をするのか大体予想はつく。
「理由を教えてもらえませんか?」
「それは……」ロトは目を逸らす。
「取り引きをしませんか?」僕の隣でリィルが口を開いた。
僕は彼女を見る。リィルは一瞬こちらに目配せをし、すぐにロトの方に視線を戻した。
「取り引きですか?」ロトが尋ねる。
「ええ、そうです」リィルは説明した。「私たちが、今回の件について黙っている代わりに、そうしなければいけない理由と、この一連の出来事の詳細を教えてほしいんです」
彼女の言葉を受けて、ロトは僕の方に目を向ける。僕は軽く頷いた。
ロトは腕を組み、椅子の背に凭れかかった。目はどこか遠くの方を見ている。彼が要求したことと、僕たちが要求したことの間で、利害関係が上手く成立するか考えているに違いない。
「分かりました」やがてロトは頷いた。「その取り引きを受け入れましょう」
彼は僕たちに断ってから立ち上がり、一度右手にあるドアの中に入っていった。彼はすぐに再び姿を現し、テーブルの上にカップを置いた。中にはコーヒーが入っている。彼自身の分はなく、僕たち二人分だけだった。予めメーカーで淹れてあったようだ。
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