WBCへの招待(仮)

 11月に入るとテレビの仕事のオファーが来るように。俺は学校に行きたいのでほぼ断っていたが、日本シリーズの中継に呼ばれた時は断らなかった。ジャイアンズとライオンズの対決で山鹿さんが出場するからだ。


 今季は代打から始まり、指名打者や若手投手を任されたりと新人ながら活躍していた。正捕手の保素川ほそかわさんが負傷したので代わりにスタメンでマスクをかぶって3勝3敗のタイまで持ち込んでいたのだ。


 東京ドームで行われた最終戦で見事に3対2で勝ち、ライオンズが日本一を決めた。ただジャイアンズと同じ系列のテレビ局の仕事だったのであまり嬉しそうにできなかったのが難点だったが。


 先輩たちはまた正月明けからフロリダで合同自主トレをやるみたい。俺も家庭研修に入る2月だったら付き合えるのに、日本じゃ春季のキャンプが始まっちゃうよな。逆に凪沢は行くそうだ。ちゃんとパスポートは取ったのかな。逆に胆沢は球団の入寮と同時の球団の新人合同自主トレに参加するそうだ。


 11月半ばの神宮大会は青学が優勝。神宮大会三連覇はすごい。


 それと前後する頃、俺の携帯に知らない番号から電話がかかってきた。東京からか。へんなセールスだと嫌だな。俺が出ると日本野球機構の事務局だった。俺、アメリカで野球やるんだけど。


 なんと来年3月に催される一次候補選手48名にリストアップされたというのだ。

あまり嬉しそうじゃない俺の応対にいぶかしそうに職員さんは

「球団様との契約もございましょうから前向きにご検討ください」

と案外下手したて


 いや、どうせマイナー契約なんで喜んで出ますけど。なにせ来年に関して言えば凪沢や胆沢の方が年俸が高いんです。

 

 もっとも、あちらが下手に出た理由はすぐに明らかになる。辞退者が続出していたのである。ケントの魔法込みの陰謀でなんとか干野さんは監督を辞退し、ジャイアンズを指揮する現役監督の波羅はらさんが日本代表の監督に就任したにも関わらずだ。


 オリンピックで優勝はしたものの、国際試合の難しさに適応できないと感じた選手の辞退が続いた。また、怪我をした時の保障もなく、機構側の準備不足や、参加を促す上から目線の態度に疑問や難色を示し、辞退した選手も多い。特に今シーズンで移籍する選手にとってはハードルが高かったのだ。


 シーズン直前にガチの大会をやるという日程にこそ問題があるのだ。いつもは緩やかに調子を3月末の開幕に合わせてあげていくのにそれを1か月以上繰り上げるのだ。調整に不安しかない。


 「健は誘われたら出るの?」

亜美との魔法通話で聞かれた。

「うん。ケントが球団の許可が取れたって。」

「え?ほんとに誘われてたんだ。」

あ、そっちに驚いたのか?誰が候補か非公開で球団と本人だけに通知が行ったからな。断った人の名前しか出ないもんな。いや、俺の評価は兎にも角にも「国際試合にはめっぽう強い」なんだけど。


 11月末には亜美は大学の推薦入試に挑んだ。なんだか不安そうだったけど、女子選手世界No.1だから大丈夫だろ。とは言え、受験先すら教えてくれないし、励ましようがない。


 2週間後、合格通知が来た。国立のつくば大学の教育学群だそうだ。ヒエー、国立大か、スゲーな。


「体育教師になるにはここかなぁ、って思って。親の手前、中高私立だったから大学くらいはね。」


 それよりも野球はどこでやるんだよ?女子野球部なんてないだろう。


「うん。一応野球部に入るつもり。代表でさ、亜美単体なら男子部でも通用するんじゃない?って煽られてさ。」

 まあ確かに。でも結構強い大学リーグだよな。


「もしダメならウチにおいでよって片丘さんが。」


なるほど。片丘選手が所属するのは大学と同じ茨城のチームだったっけ。いよいよ女子野球の広告塔にさせられそうで怖いんだが。


「とりあえず合格祝いだね。」

 俺がしようと思ったらすでに家族ですることになっていたらしい。そうだよね。俺とのお祝いはまた改めて。

「一応、付き合ってること家族に報告しておく?」

確かに。まだ家族の誰にも言ってないわ。

 

 そして、WBCだが、12月の半ばに、メジャーでプレーする選手を含めた34人の代表候補が発表されたのだ。

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