[最終話]万年補欠だった俺が目指す「無限」の未来へ。

3月9日。


 WBCの真っ最中であるに関わらず、俺は卒業式に出席していた。今日は第一ラウンド最終戦の韓国戦だが、ナイトゲームのため試合直前に球場入りすることになる。当然、スタメンも今日は外れる。


 卒業式は学校の第一体育館で行われ、卒業生と保護者でいっぱいになるため在校生は教室にてテレビ中継での参列になる。


 「長くて短いような六年だったな。」

走馬灯のように脳裏を過ぎる思い出。

「お前、1/4はアメリカだったから短かったんじゃね。」

後ろの凪沢に冷静に突っ込まれる。


凪沢けっけ、キャンプは良いのか?」

「お前もな。どうせ俺は二軍だしな。」

その後ろの胆沢とツッコミの入れ合い。二人ともキャンプ中に関わらず律儀に卒業式へ来ていた。


 久しぶり腕を通した制服。ほとんど着たことなかったけどこれで最後かと思うと感慨深い。


 証書の授与は、卒業生が多いため、一人一人名前を呼ばれ起立した後、代表が卒業証書を受け取る形式だ。


 理事長、生徒会長の送辞と続き、卒業生代表の答辞へ。


 ちなみに卒業生代表は俺ではなく、ケント・バーナード・Jr.。最近ほぼ物語への出番はないが、彼も秋からアメリカの大学へ入学が決まっている。大学に通いながらプロ・テニス選手プレーヤーとしてのキャリアを出発させるのだ。しかも医学部だそうだ。


 医学部なんか片手間でできるもんなのだろうか。もっとも、治療は父親から受け継いだ治癒魔法を使うのだから資格だけとるつもりだそうだから、ヤブ医者にはなるまい。


 代表に俺を推す声もあったが、俺は「二重校籍」なこともあったし、理事長のケントに「親として」の花を持たせてやりたかった。そう思うのも俺の通算人生が長いせいだろう。


 ジュニアの無難な答辞に拍手。校歌を歌い、卒業生退場で終了。前世では夏休み直前で異世界転移したのでめでたさはひとしおだ。


 最後に部室に寄って卒業した同級生たちや後輩たちと一緒に写真を撮った。凪沢を挟んで胆沢と三人でも撮る。考えてみれば胆沢と写真を撮るなんて初めてかもしれん。俺は別の輪へ向かおうとする胆沢を呼び止めてしまった。


胆沢イサ、お前とは一番長い付き合いだったな。なんか色々あったけど、それもいつかはきっと良い思い出になるかもな。」


胆沢は鼻で笑ったがいつものようにトゲトゲしさはなかった。

「『かも』かよ。ま、やっとこれでお前との腐れ縁ともオサラバだな。それだけは確かだ。」


 少なくとも俺は前世の時のわだかまりは消えたと思う。それは万年補欠を脱して彼と対等な目線で語れるようになったからだろう。


 これまでは一度目の人生を反省し、その反省の上に新たな人生を構築してきた。しかしこれからは新たに自分で切り拓いていかなければならない。


 まず、メジャーに昇格する。

これが当面の俺の目標であり、野望だ。それを叶えるためには今日も一歩一歩前へ進んでいく。振り返っている暇はない。


 色々とあいさつやらセレモニーに引っ張り回され、家族と遅い昼ご飯を済ませるとすでに午後3時を回っていた。

「ごめん、試合ギリギリだ。もう行くわ。」

「頑張ってね。」

「行ってきます。」


 隣町の駅までタクシー。そこから新幹線で東京まで。

球場に入ったのは6時。6時半プレーボールだったからギリギリ。


ユニフォームに着替え、監督、コーチにあいさつしてからウオームアップ。先日の試合では7回コールド勝ちしてたので出番がないかと思いきや、今日は0対1とビハインド。


「健ちゃん。出番や。」

呼ばれたのは8回裏、二死一塁。代打。いまだ0対1のビハインド。ここで呼んだか。絶対打たな負ける場面やん。


「バッター代わりまして代打、沢村。背番号『無限大』。」

アナウンスされると東京ドームを埋めた観客から大歓声がまきおこる。


これが今の俺の背番号。そしてこれから俺の番号として育てていくつもりだ。もちろん、「♾」(無限大)は「数字」ではなく「記号」なのでで登録することはできない。


 なので実際に登録された背番号は「00」。それをくっつけたのだ。もちろんビジターではそう読んではもらえないし、マイナーだったらバカにされる。そして、メジャーなら「小生意気な小僧」にはボールでもぶつけてきそう。


 だがいつかビジター側のDJにも「無限大ジ・インフィナイト」とコールさせてやろう。畏敬と畏怖の念のこめられた声で。


 それが俺の目指す高み、下克上の行き着く先なのだ。



 (了)


ご愛読ありがとうございました。次回作はWBC編から、アメリカのマイナーリーグからメジャーを目指す「万年補欠の下克上2」の予定です。できましたら評価の方もよろしくお願いいたします。


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