プロとして、学生として。

 レジスターズは二年目、三年目の高卒選手も多いし、中南米から上がって来る選手もいる。だから若い選手ばかり。若い男が集まれば人間の三大欲の性欲か食欲の話しかない。


 「ケン!チアのあの子どうよ?」

俺より2歳上のダニーが俺の肩に手を回して一生懸命ダンスを披露する女の子を顎で指す。


「ダニー、俺は彼女いるぞ。」

「なんだと?誰だ?アニーか?エミリーか?」

ちょっと待て、なぜチアの子から選んだことになっているんだ。


「うん。地元の子なら家があるだろ?俺なら転がりこむ。」

お前⋯⋯酷いヤツだな。寄生先としてしか女性を見ていないだろ?俺は「潤沢な」契約金でホテル暮らしだ。


「俺の彼女は日本にいるぞ。」

うふふ。「彼女」かぁ。いい響きだ。

「くそっ。今度写真見せろよ。事後のやつでいいから。」

「着衣のしかねーわ。ダニー、そろそろダンス終わるぞ。打順お前からだろ?」

「おっと、いけねっ!」


 俺が入ってから最下位ドベだったチームの調子が上向きだ。今日も俺が打って俺が抑える。9月に入って8連勝で2位に浮上。ちなみにこのリーグのプレーオフは3地区なのだが4、6、4という球団数のため各地区優勝チームと6球団あるピングニー地区の2位の球団の4球団で行われる。なのでマクマナラ地区の俺たちは優勝のみ。


 「ケン、お疲れ。」

球団CMOのジェーンが声をかけてくる。かっこよく「最高マーケティング責任者(CMO)」と名乗ってはいるがただのイベント責任者である。そして球団社長の娘さん、と言っても30代半ばのパワフルなママさんである。


「チームの調子が上向きですね。」

「そりゃケンがいればねぇ。このリーグじゃアンタはオーバースペックも甚だしいからね。おかげで観客数も上向きだし、来年もここにいなさいよ。」

なんてこと言うんだ。でも間違いなく半分は本気。


「いやですよ。来年の9月にはトロピカン・フィールドでプレーする予定ですから。」

トロピカン・フィールドとはレイザースの本拠地である。

「どうかしら?今年みたいに首位にいれば行けるかも知れないけど。」


 ジェーンの言うこともわかる。フリーエージェントはメジャーに満6シーズン在籍すれば取れる。なので、有力な若手はなるべく5月くらいにメジャーに上げて足掛け7年使おうというのが経営陣のやり口だ。なので優勝でもかからない限り俺が最終召集セプテンバー・コールアップされる確率は低い。

 

 最初のメジャー在籍3シーズンは球団の言い値でプレーすることになる。だから契約金が破格なのである。足掛け4シーズン言い値で働かせたいのだ。破格な契約金を払う以上なるべく安く、なるべく長く使いたいに違いない。


 「それからケン、金メダル貸してよ。」

唐突な申し出だが今回は具合が悪い。

「ごめんジェーン。メダルは母校に貸しているんだ。それに日本のメダルだからアメリカ人が見ても面白くないと思うけど。」

「残念だわ。また別の企画を考えるわ。」


 9月の半ばを過ぎるとどのチームもコールアップのダメージが抜けて調子を上げてきたため最初のように勝てなくなる。


 結局、レジスターズはブルックリン・サイボーグスに0.5ゲーム差で2位止まり。9月の末で俺の最初のプロとしてのシーズンは終わりを迎えた。ちな俺の個人成績。


プリンストン・レイザース(R +)

出場20試合

81打数33安打。.407 15本塁打。 36打点。四球19。

登板7試合

6回2/3。2勝5S。防御率0.00 奪三振12。


ハドソンリバー・レジスターズ(A−)

出場23試合

92打数35安打。.380 12本塁打。 33打点。四球15。

登板11試合。

9回1/3。3勝8S。防御率0.00 奪三振15。


 うん。ここで苦労したらまずいだろ。来季は最低AかA+スタートか。魔法込みで一気にメジャーまで行くべきか、魔法を乗せる土台をじっくりと築くべきか悩みどころではある。あ、中の人は「悩みどころ」と言うのだが最近は「悩ましい」と言うらしい。


 最後は球団のみんなでBBQで打ち上げ。残る人、引退する人、上へ行く人。下へ落ちる人。球団職員以外、大幅に顔触れが変わる。


ダニーがビール片手に俺のところに。あんたまだ20歳やんけ。アメリカじゃ飲酒は21歳からだぞ。

「カタイこと言うなよ。真面目か。そう言えばケンの彼女の写真見せろよ。」

チッ、まだ覚えていたのか?ほらよ。


俺が亜美の写真を見せる。

「オゥ、亜美エイミー松崎やんけ。鬼カワソーキュート。⋯⋯女にしておくにはもったいない選手だよな。⋯⋯じゃねーよ。お前の彼女ガールフレンドの写真を見せろって。」


おー、アメリカで亜美のこと知っているやつはお前が初めてだ。

「だって俺の姉ちゃんも野球やってるし。」

なるほど。しょうがない、二枚目を見せてやるか。


二枚目は俺と亜美がお互いの金メダルを持って顔を寄せた2ショット。ここでようやく気づいたようだ。

「マジかぁ!羨ましい。俺の嫁をとりやがって。」

と言いつつ去っていく。ショックだったのだろうか。いや、酔っ払っておかしくなってるだけだな。あれは。





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