ハンバーガー・リーグへ再び。


 さて、俺が次に所属する球団ハドソンリバー・レジスターズはニューヨーク郊外のフィッシュキルという小さな街にある。マンハッタンの脇を流れるハドソン川を60kmほどさかのぼったあたり。


「ニューヨーク・ペン・リーグ」という3地区14球団からなるリーグに属している。ニューヨーク州とペンシルベニア州を本拠地とするチームが多い。


 格付けはショートシーズンA(A−)。ショートシーズンというのは通常は3月から9月のフルシーズンに比べて期間が6月末から9月と短いという意味でショートなのである。


 6月に大学を卒業したばかりのルーキーはだいたいここからスタートする。もちろん、高卒や短大卒の選手もいる。


 レジスターズはマクマナラ地区に所属している。この地区はニューヨーク市周辺にある4球団で構成されている。マイナーリーグとはいえ、9月末に地区優勝すればプレーオフもある。


 そして最終的にはもう一つのA−リーグであるノースウエスト・リーグの覇者と決戦するのだ。こんな「六軍」がプレーオフやってどうする?と思うかもしれない。しかし、球団の経営は独立採算性でメジャー球団とは「提携」の関係にある。


  選手とコーチの給料はメジャー球団持ちで、コーチと選手を球団に派遣しているのだ。なので「傘下」という表現をするわけだ。


 ちなみに球団が選手に対して負担するのはミールマネーという1日あたり日本円で2500円程度の食費が支給されるだけだ。一食あたり800円。これが「ハンバーガーリーグ」と呼ばれる所以でもある。日本なら800円もあればそこそこのものが食べられるが、アメリカではハンバーガー屋の一ドルメニューで腹を満たすしかない。もっとも日本のハンバーガー屋なら800円でお腹いっぱいの方が難しいか。


 これすら恵まれた方で、最下層のルーキーリーグなら食事としてりんご1個という球団もあるらしい。キティちゃんじゃあるまいし。


 さらに言うと独身寮もない。金が無い選手の中にはガレージの下を借りて

寝泊まりとか、彼女の家に転がり込むとかということも多いらしい。


 俺はホテル暮らしを選んだ。まぁ契約金があるので資金かねに不自由しているわけではないからだ。アパートを借りるほど長く住むわけではないし、遠征することも多いからだ。


  球場の周囲には森が多く、ニューヨークに通勤するビジネスマンが住むアパートメントハウスも多い。球場に面した通りがメインストリートでスーパーや百均まである。


「よく来たね。コールアップでこちらもバタバタしていてね。知っての通りレイザースが地区優勝できるかも、ってことでこっちも盛り上がっているんだよ。


実はダーラム(レイザース傘下AAAのブルズ)がキミを要求したらしいけど、上からはまだ早い、キミをしっかりと育てるように言われている。まぁ、オリンピックの活躍通りなら全く問題ないけどね。地元のみんなはとても期待しているよ。」


監督ヘッドコーチが温厚そうな人で良かった。うーん、飛び級し損ねたんか、もったいねー。


 新しくルーキーアドバンスド(R+)のプリンストンとルーキー(R)のポートシャーロットから呼ばれた選手は10人。


 チームで俺は最年少。まあ8月生まれというのは9月から新学期が始まるアメリカからすれば「早生まれ」になるわけだ。これが9月以降の生まれなら、当然俺は日本でドラフト指名を受けていたことになるのだから運命というのはわからないものだ。


 「オリンピック見たぜ!」

って言う感じの選手多し。実力さえあればフィールド内で差別するやつはいないのかもしれない。一応英語とスペイン語を使いわけているのだが。

「健のスペイン語はちょっと変。」

と言われる。俺が使っているのはどうもヨーロッパのスペイン本国のスペイン語らしい。


「訛ってんのはお前だぞ。」

俺が抗議すると

「いや、多数決をここで取ればお前が変だ」

と返された。うん、言語魔法も万能までとはいかないか。でも通じているからいいじゃん。


  俺も翌日のホームゲームから即スタメン出場。


 スタンドが満員。俺目当てらしい。三番指名打者。親球団は指名打者無しのナ・リーグだけどこのクラスはDH制度を導入している。


 相手投手の若さにかまけた力強い直球4シーム。「かわす」よりも力で真っ向勝負を好むのがアメリカ流。ことマイナーリーグではまさに粗削りだ。もちろん、緩急とコースで攻めてくるけどね。


 一死一塁。内野ゴロが欲しい外角低め。俺は渾身のストレートを鋭く打ち返すとスタンドに放り込んだ。


 まずは1本。


 



 


 




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