新たなる地平へ
金メダルの味の感想を求められる。
「大して美味いもんじゃないですね。」
俺の反応に即亜美のツッコミが。
「そこは努力・友情・勝利の味って言いなよ?」
「そいつは某少年漫画雑誌やないか。」
2時間くらい収録にかかったけど使われるのは15分くらいらしい。
もっとも俺も上の空だったし。
それこそ俺の「誓い、約束」三年越しに果たす日が。
由香さんが予約を取ってくれたレストラン(個室)で敢行すべし。由香さんも含めてお食事から。東京で上客向けの駐車場がある店だ。まあ高層ビルの一角だからね。
「いやぁ、考えてみれば健は日本一金持ってる高校生だったよねぇ。」
嫌な言い方だな。まあ、緊張のあまりなんでしょうがないか。俺たちは三人でコース料理をいただくと手筈通り由香さんが席を離れる。さあ、ここからが本番だ。俺は深呼吸をしてから切り出す。
「亜美。」
「ん?」
改まった俺の顔を見て亜美の顔も真面目になる。
「その⋯⋯。」
ん、血圧が一気に上昇する。「勇敢なる者」の
「⋯⋯お、俺は亜美のことが好きです。前世の時も、異世界にいた時も、そして今もずっと。⋯⋯前世の俺はお世辞にもカッコいいとは言えなくて。反省した俺は一からやり直しました。ここまで来れたのも亜美の励ましのおかげもあります。俺と
おー。言い切ったわ。さあ、笑ってくれていいぞ。
ただ俺の予想と亜美の目は涙でいっぱいになっていた。
「⋯⋯はい。私もずっと健のこと、好きだったよ。前世と異世界の亜美もあんたのことカッコ悪いなんて少しも思ってなかったし。むしろ、今の健がカッコ良すぎて三年前のこと、忘れられてしまってもしょうがないって思ってた。本当に私なんかでいいの?」
え?⋯⋯ここはマジで行くとこか。俺は亜美の顔を両手で挟んだ。頬が涙で濡れている。
「俺は亜美がいいです。これからしばらくは遠距離になっちゃうけど。時差も結構あるけど。俺、頑張って埋めていくから。俺は亜美と一緒だったらもっと高く行けると思うから。だからお願い。」
亜美は精一杯笑って見せた。
「うん。⋯⋯わかった。」
二人とも席を立って抱きしめあった。異世界の亜美よりずっと引き締まっているけど⋯⋯やっぱり女の子は柔らかいや。彼女の顔を見ると目をつむっていた。とりあえず、高校生だけどチューまではセーフだよね。
お互い現世ではファーストキスだったけど。異世界の記憶のせいで割と手慣れたキスだった。
「由香さんもグルなの?」
いかん、忘れてた。俺は手筈通り「○」とだけメールを由香さんに送った。これは勝利の「白星」であり、もう終わりましたの「丸」でもある。
由香さんは俺と亜美の顔を見比べてから言った。
「じゃ、健君、成田まで送るね。亜美ちゃんも一緒に来るでしょ?」
レンタカーだがレンタル代は局持ちだそうだ。もちろん運転していただくので由香さんには心付けはしましたけど。
ここに来るまでは運転席由香さん、助手席亜美で後部座席俺だったが、俺と亜美が後部座席に。
俺の肩にもたれかかる亜美を感じる。運転する由香さんの肩は「話が聞きたい!」と叫んでいた。すまん!⋯⋯帰りの時に亜美から聞いてちょうだい。
3時間後、俺は機上の人になっていた。次の球団はニューヨーク郊外の街にある
格付けA-(シングルAショートシーズン)のリーグに属する球団。メジャーまであと4つ昇格しなければならない。
来季のスタートをA+(シングルAフルシーズン)から始めるには残り1ヶ月で実績を積み上げていかなければならないのだ。
俺の下克上が再び始まる。⋯⋯って終わりそうやないかーい。
今回から自腹だけど「ビジネスクラス」の席を取ったわ。50万円くらいするけど快適やな。メジャーに上がったらファーストクラス契約付けてもらえるくらいには頑張らないとな。
一回ロスで乗り換え、ニューヨークの中心部に近いJFK空港ではなく、ニューヨーク北郊にあるニューヨーク、スチュワート空港への便に乗り換える。そちらの空港から新しい球団が近いのだ。
「健、新しいチームでも頑張ってね。私も受験頑張る。⋯⋯受かったら教えてあげる。というか、超絶自信がない。」
分かれ際の亜美の言葉を反芻する。とりあえず受けるところは決まったんだな。
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