俺の虚像と実像と。

 面白かったのはだんだんと扱い方が大きくなって行ったこと。

初戦の負けは「干野ジャパン、冴えない黒星発進」


俺の扱いは「沢村、五輪1号も空砲」というサブタイトル。


 第二戦の台湾戦での初勝利は「干野ジャパン初勝利」。

俺の扱いは「沢村、実った先制アーチ2号」


 続くオランダ戦は「干野ジャパン連勝、オランダ降す」。

俺の扱いはサブタイトル「沢村、自ら祝砲、バースデー弾」。

「え、これまで17歳だったのかよ?」という驚きが。


 そして韓国戦での3本塁打の時点で、俺の写真がメインに変わった。

「沢村3発、韓国粉砕」


 さらにカナダ戦の勝利では

「健ちゃん、同級生対決制す!」

と呼び方が「健ちゃん」になってる。


 アメリカ戦ではタイブレークでの好投で俺自身に初勝利がついたのだが、

「健ちゃん、大車輪の活躍!絶対絶命のタイブレークを制す」

多分、五輪と大車輪をかけたようだ。


 最後の決勝戦は「値千金、千両役者、沢村18歳の金」と俺を歌舞伎の名門「澤村家」に引っ掛けていた。いやいや、そんな凄い家系とは全然縁もゆかりもないですけど。


 圧倒的本塁打王の12本塁打もさることながら、アメリカ、韓国、キューバの最強クリーンアップを撫で斬りにした投球はまさにMVP⋯⋯ですか。


 短期決戦の時は良いけど、シーズン中は適度に手を抜かないと本格的に勝負してもらえなくなるな、これは。


 この時、由香さんから電話があった。俺のこれまでをまとめた本が出版が決まったそうだ。3年前は俺の本を出すなどただの冗談に過ぎなかったが、これで彼女もスポーツライターとして一人立ちできそうだという。


「健くんのおかげね。おかげで今週はテレビにもいくつか呼ばれているんだ。『健ちゃん』関係でね。⋯⋯あと、干野さんのことで色々聞かれるかもしれないけど、変に庇ったりしないで正直な気持ちを言って良いからね。あと、本の最後に亜美ちゃんとの対談を収録したいんだけど、受けてくれない?」


「俺、明後日にはアメリカに発つ予定なんですよね。次のチームに合流しなくちゃいけないので。難しいかもです。」

 

 今回の五輪は来年のWBCの監督を干野さんに託せるかどうかという試金石だったようだ。俺たち選手からすれば、「不適格」と言わざるを得ないが、俺もいびつな形で穴埋めサポートをしてしまったというわけだ。


 だから新聞記事に違和感があったのだろうか。やめさせたい勢力は俺の活躍を持ち上げて監督の「無茶振り」の被害者として描き、支持する勢力は監督の無茶振りを「奇計」と捉え起用法を称賛していたということか。


 なので総じて新聞社側は監督を賛美し、選手を送り出した球団側や選手に近い関係者はこぞって監督を批判していた。


 翌日、俺は学校に赴く。ケントへの報告のためである。


 俺は、玄関ホール正面中央に置かれた新しいガラスケースを見せられる。この中に金メダルと俺のユニフォーム、代表チームの寄せ書き、俺のサイン入りの写真と五輪公式ボールが収められる予定だ。しばらくはケースの周りにロープが張られるとか。


 「こんなん見に来る人いる?」

照れ隠しに聞いてしまった。ケントはわざとらしくウインクする。

「これからオープン・キャンパスや学園祭があるからね。健、キミは小中学生からの人気がすごく高いんだよ。」


 確かに、プロ野球選手のサインの寄せ書きはなんだか鑑定団にでも持っていけば高値が付きそうではあるが。


「金メダルは後日、両親に届けさせる予定なんで。」

俺はこれまでもらっていた課題とレポートを提出し、また新しい課題をもらって帰るつもりだった。しかしケントに肩をたたかれる。


 「じゃ、行こうか。」

「どこに?」

「決まっているだろ。優勝報告会だよ。」

いきなりそう来る?

「聞いてないよ。」

「そりゃそうだろ。サプライズなんだから。」

「別にいいよ。」


「良くないよ。キミのためにみんな頑張って準備してくれたんだから。それに、甲子園の優勝報告のはずだったんだが、誰かがフライングでプロ入りしたせいでね⋯⋯。」

ケントはそう言って目を閉じると鼻根をつまんで泣くフリ。

「わかったよ。」

それを指摘されると弱い。それに、「流用」だったらまだ気が軽い。


 俺は肚を決めて付き合うことにした。ここで出ないと部員たちと二度と顔を合わせられない気がしたからだ。


 司会進行する普通科の生徒たち、というか同級生なんだけど簡単に打ち合わせして舞台の袖に立つ。金メダルを首から下げて。

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