亜美さん、無双する。
第3回IBFA女子野球ワールドカップは愛媛県の松山市で開催された。うーん。そう言えば松山は前世の高校の修学旅行で行ったなぁ。
一応、衛星放送で試合の中継はあった。いつもは野球を見ない妹も親父と一緒にリビングで見ている。
身長177cmの亜美は他の日本代表選手より頭一つ分背が高い。前世(異世界)の時と比べたら身長は20cmも高い。これは遺伝に依らずしっかりとした睡眠と食事と運動で伸ばした身長なので、手足だけ伸びた分、顔がより小さく見える。モデルでも行けんじゃね。
代表の中でも小柄な
亜美はチームでも不動の四番打者。もはや「風格」を感じるレベル。それ言うと怒るけどね。
第一ラウンドは8チームを2グループに分けて総当たり戦。
日本はグループB。前チャンピオンのアメリカとは別。
開幕戦は韓国戦。亜美にも本塁打が出て11対0で7回コールド勝ち。ホームチームで地の利があるとはいえ、圧勝。男子は兵役免除がかかってたから鬼気迫る本気モードだったけど、女子はなんか和やか。
翌日の第二戦は香港代表。実力差があり過ぎてなかなか日本の攻撃が終わらない。打たれるのを恐れすぎてか四球が多いんだよなぁ。24対1の5回コールド勝ち。亜美3本塁打。
3日目は同じグループでライバルとなるカナダ。男子もそうだけど案外日本とよく似た野球をやる。だが7回コールドで12対1、亜美は1本塁打。
その夜、亜美から通信が入る。
「健、ちょっと聞いてよ。3連勝なんだけど、なんか全然、盛り上がってないんだけど。ソフトボールはあんなに盛り上がったのに。明日アメリカに発つんだっけ?」
「いや、少し延期になった。⋯⋯亜美の気持ちもわかるけど競技人口違うからしゃーないでしょうよ。全国にソフトボール部員やOGが何十万人いると思ってんよ。それに金メダルだったし。」
男子の野球が金メダルでなかったら、もっと大騒ぎが続いていただろう。
確かに、テレビの地上波放送に乗りさえしない女子野球の試合。
「亜美がさ、女子野球の世界を引っ張っていくしかないじゃん。」
「わかってるけどさ⋯⋯。」
「そうだろうな。」
「健、いつまで日本に居られんの?」
「え⋯⋯と、30日の遅くかな。」
「じゃあ、女子野球の宣伝してよ。今の健だったら結構影響力があるんじゃない?」
翌日、俺は学校でテレビ局の取材を受ける。「金メダリストを産んだ奇跡のトレーニング施設」的なやつ。奇跡じゃなくて魔法でゴメンな。
亜美の方は第2ラウンド。
第一ラウンドのA、B上位2チームずつの上位グループと下位2チーム分かれる。すでにカナダとは試合済みなので残りのアメリカとオーストリアが相手だ。
オーストリア戦。10対1で勝利。ただコールド勝ちに至らず。女子野球の投手のスピードはだいたい120km/h台。男子と同じ規格でやるのだから筋力量を考えると妥当だ。
いつも男子相手に練習している亜美にとってはイージーモードなのかもしれない。今日も2本塁打。しかも飛ぶ角度がえげつない。
翌日は前2回のワールドカップで優勝しているアメリカとの試合。壮絶な打ち合い。前日カナダに7対6で惜敗したアメリカはここで勝たないと優勝の目が消える。そのため必死にくらいついてくる。しかし、ここで立ちはだかったのが亜美。2ラン二発で9対5で勝利。第2ラウンド1位通過決定である。
「今日は『亜美の差』で勝ったんじゃね。9対5の4点差は亜美の2ラン2本4打点の差だからな。」
「えっへん。10号到達。」
「明日カナダに勝てば世界一じゃん。」
「だよね。健に先越されたけど。明日2本打てば健に追いつくし。」
「ナニィ!?」
翌日が最終戦。決勝ラウンドである。
第二ラウンドの1、2位と3位、4位がそれぞれ試合して順位を決定するのだ。
「これが終われば対談か。」
3年前、不発に終わった俺の告白。そのリベンジの日がやってくるのだ。
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