日の丸を仰ぎ見て
俺を意識し過ぎたのかな?意気消沈したゴンザレス氏から俺がもう一発をもぎ取って5対1とする。キューバは投手交代。右の抑えのソラ氏にスイッチ。
ただチャンスの裏にもピンチ有り。3回裏。輪田さんも一死一塁からキューバの4番セペダ氏に2ラン本塁打を浴びて5対3。二死まで取るも安打を浴びて河上さんにスイッチ。
簡単にアウトを取るも少し疲れている感じ。干野監督は自身の出身球団である名古屋の投手をやたらと引っ張って使う癖があるから怖い。今日で最後なんだから小刻みで良いじゃん。「怯え」魔法かけとこ。かけた瞬間、
「健ちゃん、肩作っといて。」
えー、またですか?こっちに振ってきたか。俺はマイナーリーガーだから使っても日本の球団には文句言われないしな。
4回はともに得点無し。
5回日本は無得点。
そして5回、やっぱり河上さんを引っ張る。結構運が味方して失点になってないけど、野球の女神はいつでも日本びいきって訳じゃない。二死一塁三塁。ここでやっと諦めがついたか。「怯え」が効いてきた。
投手交代のアナウンス。俺?
太野さんに手招きされる。マジすか。打者は捕手のペタスノ氏。
因幡さんが俺の代わりに守備につく。
ショートゴロに仕留めてチェンジ。俺はワンポイントリリーフで左藤さんに代わって指名打者に。これってもしかしてピンチのたびにマウンドに呼ばれるパターンですか?
6回、二死無走者から俺。四球。得点無し。
その裏から鳴瀬さん。6回と7回を走者を出しながらも無失点で切り抜ける。
こちらも7回得点無し。
8回表、一死から仁志岡さんが安打で出るも絶好調のはずの新木さんが
その8回裏が危なかった。投手をダルさんにスイッチしたものの一死一塁から暴投2つで三塁まで進まれさらに四球。点差は2しかない。ところが、キューバの作戦は
9回、青来さんは俺にチャンスを回そうとしっかり粘ってくれて四球で出るも。俺が完全なる敬遠で歩かされる。まあこれ以上は点はやれんわな。こうして広がった無死二塁一塁にチャンスだったが後がつづかず。
その9回裏、最後の最後に俺に回って来たわ。俺の名前がアナウンスされると絶叫にも似た歓声。日本からのお客さんが多いんだろうな。
恐らく8回で追加点があれば俺じゃなかったはず。だが、正直言ってここまで来たら俺の年齢とかマイナー所属選手とか関係なくなっていた。
「健ちゃん、金メダル、絶対に持って帰ろうぜ!」
ただこれだけだった。この瞬間から日本では物凄くテレビの視聴率が上がったそうだ。打順は三番ベール氏から。ここからは十分にメジャーでも通じるアマの大砲三連だ。
ベール氏は昨シーズンでキューバリーグの三冠王を獲った選手。昨日も本塁打を打っている。今日も配球は安倍さんにお任せ。うお、スイング速い。どこ投げても打たれそうだが、もう一切何も考えないで投げる。
やはりジャイロとバックスピンの違いが有効なようでインを引っ張るつもりが引っかけてショートゴロ。1アウト。
そして四番セペダ。キューバの主砲。どれくらいすごいかと言うとキューバリーグで80試合ほどで20以上敬遠の四球が与えられたほどだ。選球眼が良い。だからコーナーを攻めてカットでカウントを稼ぎ、ジャイロのSFFで三振。
最後の打者は五番ディスパイネ。
手拍子と共に「あと一人」コール。「あと」って言うほど簡単な打者じゃないんだけど。
ディスパイネは俺より4つ上、ルーキーイヤーから4年連続3割、そして二桁以上の本塁打。試合数が80−90試合でこの数字であるから凄さがわかるだろう。こちらの精神を削りとるような鋭いスイング。
2Sからの2シームジャイロを打って来た。物凄く高いフライ。「もってかれた」か?⋯⋯しかし、落下したのはフェンスギリギリ手前、ジャンプした因幡さんのグラブに打球が収まる。因幡さんがボールをグラブから出してアピール。
ここで球審が両腕を振って「ゲームセット」をコールした。ホッとした俺はそこにへたり込みたいのをなんとかこらえた。5対3。メジャーに行ったら毎日がこういうプレッシャーとの戦いなのか。だが、今日は俺が勝利者だ!
俺は最後の力を振り絞り、両腕を突き上げた。
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