俺のいちばん長い日。


 リュ氏は俺より3歳上。ダルさんと同級生に当たる。韓国ではデビューイヤーに投手タイトルを総なめして新人王とMVPをとった「怪物」だ。左腕で最速マックス155km/h。凄いのは緩急の差をつけた投球術だ。


 ただ俺も予選で投げた映像を見せてもらっていた。俺も「鑑定スキル」はかなり向上しており、最近は実際に見なくても映像さえあればフォームと球種を判別できるようになってきた。


 今回はビジターなので先攻。一番仁志岡さんが安打と走塁妨害でいきなりスコアリングポジション。二番青来さんが四球を選びチャンス拡大。俺は右打席を選択。


 リュ氏は慌てるでもなくセットポジションからの投球。2B2Sからの5球目。あぁ、ストレートとほぼ同じフォームの「チェンジアップ」。きっと俺が無様に空振りしてくずおれるイメージが彼の脳内にあるんだろうな。だけどゴメンね。見えてるんだぁ。


 俺はしっかりとボールを引きつけ130km/h台後半のチェンジアップを真っ芯スイートスポットで完全に捉える。打球はレフトスタンドを超える場外アーチ。さぁ、どう煽ったろ。


 今回は「バク転」せず、ホームインして左手で3、右手で5のサインを高々と掲げる。だって8号本塁打だからね。いきなり3対0はデカイ。


 俺がベンチに引き上げると

「煽るねー。」

河上ケンシンさんに。は?

「いや、例の『35年』宣言だろ?あちらさん顔真っ赤やん。」

あれれー。これ、意図せず煽り過ぎた?やばっ、次はバク転にしとこ。


 こちらの先発は椙内すぎうちさん。初回から好投。初回はきっちり3人で。あーあ、煽り効き過ぎて力んどるの。


 2回は両チーム無得点。3回。絶好調仁志岡さん、青来さんの連打で一点追加で再び俺。今度はわざわざ左打席へ。まーこれも煽りなんですけどね。


 今度はスライダーで外を意識させてからのインのストレート。今度はライトスタンドを超える場外アーチ。まああんだけ球がキレて速いからフルスイングのバットと遭遇エンカウントしたら飛ぶよね。


 今回はバク転やりました。みんな喜んでくれるのはいいんだけど、この試合で最後だからね。この2ランで6対0とする。


 リュ氏続投。まー俺にしか打たれてないからそうだよね。実際に魔法無しでは簡単に打てる球じゃないですし。


 そして4回裏、先頭のイ・ヨン氏に初安打。連打で無死二塁一塁。日本のジャイアンズにいるイ・スン氏の併殺で三進。しかし5番キム・ドン氏に適時打タイムリーで一点返される。四球も出たがなんとか1点止まり。


 5回には仁志岡さんが二死から出るも青来さんに安打出ず。

その裏、河上さんにスイッチ。3人で抑える。

 

 韓国はここでリュ氏を引っ込める。6回先頭打者俺。半分敬遠気味で四球。後続がなく無得点。

 その裏は鳴瀬さんにスイッチ。安打を打たれるも無失点。


 7回、二死から代打宮元さんが安打で出るも仁志岡さん二ゴロに倒れる。

その裏は富士川さん。四球と安打でチャンスをつくられ適時打タイムリーが出て1点返され6対2。


 8回。俺四球、新居さんに安打が出たものの後続続かず。


 8回裏。ここで石瀬さん。マジか?いきなり四球。お、干野さん出てきた。引っ込める⋯⋯あ、激励して帰って行った。なんとか1死とる。見ていて辛い。そして、再びジャイアンズのイ・スン氏。ここで無情にも本塁打。彼もまた不調に苦しんでいたのに。6対4。


 ここで和久井さんに交代。一塁にランナーを出したものの最後はレフトフライ。俺がしっかりとキャッチしてガッツポーズ。


 俺は指名打者に戻されブルペン入りを命じられる。休めない指名打者である。

9回表は無得点。そして、その裏投手俺。⋯⋯俺かい。


 表に里咲さんの代打で出た安倍さんがそのままマスクを被った。

煽るねえ。まあ8番からなので代打攻勢だろうけどね。

 

 最初は超ベテランのキム・ミン氏。俺が生まれた翌年からプロで飯を食っている。ねっとりとした粘り方をされそうなのでコーナーいっぱいを使ってジャイロとバックスピンの直球4シームだけで三振。


 銀メダルまであと2つ。


 

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