予選突破!

 1点でも入れば負け。この状況にアメリカチームはとりあえず併殺狙い。


 外角外れたのか外したのかボール。相手はマイナーとはいえ、現在ルーキーリーグの俺から見れば、はるか上の存在。これもまた下克上!


 11回裏。俺の打席。タイブレークのため仁志岡さんと青来あおきさんが走者として出ている。相手は右投げのスティーブソン氏 。AAAの選手だ。


 1球目はひっかけ狙いの外角へのカーブ。2球目はインコースに来た2シームをカット。。3球目は外だが外しすぎ。捕手が身を呈して止める。ランナーはスタートをきれず。これで1B2S。


 4球目だった。暴投を恐れたのが影響したのか、外へ投げたはずの球が、まさかの逆球来た!インの甘いところだ。俺は身体が武者震いするのを感じながらバットを振り抜いた。センターが打球を追って一直線にフェンスに向かって走るも、フェンスを超える。サヨナラ3ラン。


 これで6勝1敗で、だが得失点差で予選の3位通過が決まった。


 干野監督には「ぶっつけ」での俺の投手としての起用について聞かれていた。決勝トーナメントの「秘密兵器」のつもりだった、と言っていた。いや、監督は俺を投手で使うつもりはなかったのだ。


 だからこれは俺の「怒り(狂戦士バーサーカー)」魔法の成果と言っていい。悪いが「混乱」魔法をかけるつもりが俺の予想以上に混乱し切った采配っぷり。ド不調の石瀬さんを登板させた時点でかけておいたのだ。


 人間は体面をこの上なく気にする生き物だ。だから事前に失敗の言い訳を幾重にも張り巡らせる。しかし、「狂戦士バーサーカー」状態になれば一切の体面を捨て去り、ただ一つ残るのは勝利への渇望。それを満たすためには勝利への「最短距離」を突き進むようになる。


 石瀬さんは勝利の喜びの輪に加わることなく早々にベンチを引き上げてしまった。これは完全に不調に「はまって」いる。壮行試合からそんな感じを見せ始めたが、これで二度目のセーブ失敗だ。投手は繊細な人が多いからなる時はなる。今のところチームの負けにつながっていないのが不幸中の幸いである。


 今回はダルさんと俺がインタビューに呼ばれた。


 俺は最後のホームランを打った球と準決勝の韓国戦に対する意気込みについて聞かれたが、もうこれ以上の「魔改造」はごめんなので

「明日は休みなんでゆっくり寝てから考えます。」

と言う改造の余地のないものにしておいた。


 帰ったホテルではレストランを借りての予選突破記念の簡単なパーティだった。もちろん首脳陣のおごりだ。さすがに今回は記者も入るので「未成年」枠の俺と田仲さんは「ソフトドリンク」だけだったが。まあアルコールなら部屋の冷蔵庫にも入っているのだから飲みたければ部屋で飲め、ということなのだろう。


 俺が部屋でちびちびとやっていると今日は亜美の方から「通話」してきた。今日からワールドカップの合宿だとか。


「あ、不良発見。お酒飲んでる。写メ撮って週刊誌に送ったろうかな。」

「中国は18歳からいいんだよーん。というか明日は休みだし。それにそんなの送ったら亜美がお嫁に行けなくなるで。ホテルで一緒じゃないと理論上撮れない写真を送ったらアカンがな。」


「冗談に決まっとるでしょ。それに明日練習はあるでしょ?」

「午後からだし。」


「とりあえず予選突破おめでとう。どう、金メダル獲れそう?」

「ケントがさ、夏の優勝旗が帰ってこないから代わりに玄関ホールに金メダルを飾りたいらしいから絶対に持って帰って来て、って頼まれてるからな。」


「え?私には見せてくれないの?かじりたかったのに。」

「なんで亜美がかじるんだよ。⋯⋯ってか、なんで金メダルってかじるんだろな?あれ。ケントに亜美にかじらせても良いよって言っとくよ。と言うかまだ獲ってもいないし。でも欲しいな、ここまで来たら絶対に。」


「だよね!私もさ、今回はワールドカップを獲りたいんだ。前回はひたすら夢中でやってたけど、今回はもっと落ち着いてやれると思う。それに、優勝できたら行けそうな大学とかももっと増えそうな気がするんだ。」


 俺は翌日の午後の球場での練習で監督に呼ばれた。

「明日の韓国戦だけど、健ちゃんレフトでスタメンで頼む。」

え?また「ぶっつけ」かい。明日の韓国戦は先発が左腕のキム氏でくる可能性が高いので右打者の左藤さんをスタメンで使いたいのだそう。


 そして予想に反して先発して来たのはキム氏ではない「左腕」だった。左のエース、リュ氏が出てきたのだ。決勝まで温存すると見られていたが、前回のキム氏が俺に二発打たれているせいだろう。例のマスコミのねじ曲げた「35年」宣言が俺との全面対決に代表チームを送り出したのだ

 

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