彼女の進路と予選最終戦。

「『よりどりみどり』かぁ。さすが我らが『アミティ』。」

「アミティ言うな。大学の女子チームだと県内の大学から二つかな。ただどっちもウチの先輩たちOGが多いんだよね。」

「でも亜美は指導者を目指してんじゃなかったっけ?」

「うん。だから教員免許は欲しいんだよね。」

「代表メンバーにも相談してみたら?なんか良いアイデアとかありそうじゃん。」

「そうしてみる。」


 俺はしっかりとトレーニングと実績を積んでメジャーを目指すわけだが、来年は少し金をかけて環境を整えた方が良さそうではある。ケントに相談してみよう。そしていつかはアメリカで亜美と一緒に⋯⋯なんてなんて!


 開催国中国との試合は現地時間午後6時からのナイトゲーム。開催国なのにサブ球場の上、お客さんは前日の半分くらい。こりゃ中国代表が強くなるのは難しいかもな。下手すると日本人のお客さんの方が多いくらいだ。


 日本の先発は和久井さん。こんなに和みきったベンチは初めてかも。

試合運びも日本が序盤で4点、6回裏にビッグイニングで6点を奪って10対0で7回コールドゲームで勝利。和久井さんは完封だった。俺の代わりに3番に入った仁志岡さんにも1号2ランが出た。


 これで4位以上は確定である。あとは準決勝にどこと当たりたいかだ。キューバは嫌だな、という雰囲気が首脳陣にはある。日本代表は明日は最終戦のアメリカ。準決勝は予選1位対4位。2位対3位で行われる。キューバと韓国はそれぞれデイゲーム。結果次第で戦法が変わるだろう。


 予選最終日。


 デイゲームの2試合。キューバが中国に17対1、韓国がオランダに10対0と圧勝し、6勝1敗で並んだが、得失点差でキューバが暫定1位となった。つまりキューバと先に当たりたくなければアメリカ戦で勝つしかないのである。


 日本が勝って6勝1敗で抜ければ得失点差で3位。日本が負ければアメリカと5勝2敗で並ぶが得失点差で4位。


 ただ、アメリカはAAAのマイナー選手を中心に組織されており日本としても負けたくはなかった。


 8月20日午後7時(日本時間8時)。予選の最終戦が始まった。こちらの先発はダービッシュさん。俺も3番指名打者でスタメン復帰。


 アメリカの先発はケーニッシュ氏。オークランド・アスリーツ傘下のAAA所属の右腕投手。20歳だ。150km/hを超える速球と2シーム(シュート)とチェンジアップが持ち球のマイナーではエースクラス。来年にはメジャー昇格もと言われているらしい。


 初回は二死無走者。初球は2シームを空振り。左打席なので外側にクイっと逃げる。下手に引っ掛けると完全にゴロ。2球めは外角にストレート。ボール。3球目は内角低めにチェンジアップ。ストレートとの違いはわかったが、わかってないふりして引っ掛ける。ショートゴロ。どうせランナーいないし、餌でも撒いておくか。


 ダルさんも素晴らしい立ち上がり。初戦のキューバ戦の時の緊張感など微塵も感じさせない。よく腕が振れてる。これならイケそうか。


 0対0で迎えた第二打席。回は4回、先頭の青来あおきさんがヒット。ケーニッシュ氏とすれば併殺ゲッツーに仕留めたいでしょうな。初球は外角低めへ直球、ボール。これは2シームへの布石ですかね。では次は一回中に来るかな。チェンジアップが。


 ごめん。良くできたフォームだけど、選球眼魔法の前では丸裸マッパです。あの2シームよりは打ちやすいのでいただきます。コンパクトなスイングで振り抜く。バットに快音を残し、ふわっときたボールは鋭い軌道で打ち返され、そのままライトスタンドへ。先制2ラン。


 ダルさんは6回無失点で田仲マーさんへ。


 そこで太野さんに俺がブルペンに呼ばれる。

「健ちゃん、ちょっと肩を温めていかんか?」

え、俺ですか?もちろん、これは「誘っている」のではなく「命じている」のである。

河上さん、石瀬さんが準備する横でキャッチボール。

「左右で混乱することないの?」

「幼稚園児の頃からやってますんでね。慣れたもんですよ。」


 もちろん、打順がくれば打席に立つ。俺は第3、第4打席共に四球。若手中心のチームのため18歳の選手を敬遠することに抵抗は無いのかも。いや、アメリカ人はあまり年齢を気にしないから実力を見てということもあるか。


 田仲さんもアメリカ打線を2回0点と完璧なセットアップ。そして、石瀬さん。大丈夫かなぁと思いつつ、安倍さんに座ってもらって投げる。安倍さんが聞く。


「なぁ、健ちゃんってどんなボール投げんの?」


 


 




 

 

 


 

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