同級生対決?カナダ戦。

 休み明けの18日。サブ球場でのデイゲーム。月曜日だからなのかお客さんは3000人もいない。日本だってお盆休みが明け、学生以外は日常という名の現実へ呼び戻されているはずだ。


 というか、いちばん緊張してんの俺だろ。3番指名打者ではなく右翼手としての出場。多分、中学生以来の外野守備のはずだ。もちろん、守備練習はずっとしているので問題はないはず。こういうとってつけたような采配もな。⋯⋯魔法を使えばなんとかなるだろう。リリーフ投手分に取り分けた魔力を守備に回せばいいだけなのだが。


 実は、俺の「おかげ」というか「せい」で日本から注目された選手がカナダ代表にいる。フレッド・ブローリーという内野手。俺と同じ18歳。そして俺と同じ今年のメジャーリーグのドラフトでミルウォーキー・ブルーウインズに1位指名(全体16位)されたのだ。


 これも俺と同じくカナダ人野手としては史上最高位の指名だったのだ。アリゾナ州立大学内定を蹴ってメジャー挑戦だそうだ。彼は2番二塁手の出場だ。カナダでは話題になっているようで、カナダのテレビ局が俺にコメントを求めてきた。


 もちろん、俺も対戦する投手でもない選手に興味があるわけなく、気まずい感じだったが、「カナダ人だったとは知らなかった」ていでごまかした。って、知るわけないし。


 さて、こちらの先発は左腕の鳴瀬さん、相手は右腕のペッグ氏。ペッグ氏は技巧派でしかもメジャーリーガーではなくカナダの独立リーグの人。いつでも打てんじゃね。と思いきやなかなかのクセ物。


 持ち玉のシンカーが嫌なところに決まる。精密機械のような制球力と捕手のフレーミングが上手いこともあるが、自信を持って見逃したらストライク取られて三振。えぇ?それはないだろう。審判もクセありすぎ。そういやあのシンカーどこかで見たことあるぞ?あ、中里さんの大智ダイチボールだ。壮行試合でやられた記憶が甦る。


 4回に第二打席が回ってくる。1死無走者。くっそー、壮行試合の恨みを晴らしてくれるわ。投げたのアンタじゃないけど。ただアンダースローから来るのとは違ってまだ打ちやすい。


 少しスライス気味に飛んだ打球はポールを巻いてスタンドに入る。観客がまばらなせいかボールを拾いに人が群がっていた。先制アーチ。5回には因幡さんの1号も出て2対0。


 そのあとは7回0封の鳴瀬さんを継いで富士川さんが8回を3人で抑えた。9回、植原さん。ところが先頭バッターの例のブローリーが二塁打で出る。3番の進塁打で一死三塁。少し嫌な展開。ここで4番打者を迎える。


 植原さんのアウトサイドのボール気味の球を強引に飛ばす。おー、俺んとこ来たな。ただイージーなライトフライ。俺は的中率アップと腕に加速魔法をかける。俺の捕球と共に走者ブローリーがタッチアップ。


 俊足のくせに舐めた走塁だなっ!俺の魔法仕かけの返球は捕手・谷野やのさんのミットにストライク。タッチはアウト!


 どうよ、これが「レーザービーム魔法」だぜ!植原さんがグラブを叩いて大喜び。俺はとりあえずイチさん気取りで2アウトのハンドサインを出した。あ、影絵のキツネのやつな。ま、もう少しフライが深くてブローリーが真面目に走っていれば結果は変わったかもだけど。とりあえず、これでチームの「信頼」を得るまではいかなくても「心配」のタネにはならんはずだ。


 最後の打者を三振で打ち取り2対0で勝利。鳴瀬さんに勝ちが、植原さんにセーブがつく。チームも4勝1敗。あと一つ勝てば準決勝進出はいけるはず。


 ホテルに戻ってシャワーを浴びても午後2時。きっとみんな陽が高いうちにビールとか飲んでいそう。まあ、これはこれでよくね。昼食のためホテル内のレストランへ。


 おお、マジで普通に飲んでるやんけ。

「健ちゃんも飲む?」

「さすがに昼からはちょっと。」

「夜ならいいの?」

「いくないです。一応記者さんいるところではまずいですし。」

俺はご飯とスープと炒めものを何品か頼む。


「健ちゃん明日休みだって?」

そう、俺は他の選手のチャンスを与えるためのスタメン落ちを宣告されていたのだ。

「はい。まー、休みって言ってもベンチには居ますから厳密には休みといえないですけどね。」


 明日の対戦相手は開催国である中国代表。一応大会に合わせて強化は続けてきたが「参加することに意義がある」程度のレベルに過ぎない。外野で俺を使い続けるつもりなら、こういうイージーな場面でこそ使って場馴れさせるべきなんだけど、とボヤいてもいた仕方ないのだ。

「まあ、さすがに健ちゃんのおんぶに抱っこじゃやばいわな。」


 俺が酒を飲まなかったのは体面上の問題だけでなく、夜に亜美と話をする時間も欲しかったからだ。

 今回、亜美は背番号が6に決まっていた。

「そう言えば亜美は進路はどうするの?」

「うーん。今絶賛迷い中です。」


(中国では18歳以上に対する酒類の販売が許可されており、飲酒に関しては法律による年齢制限は特にありません。)

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