温情と非情と宴会と。

 俺は指名打者なので守備につかない。なのでベンチにいるのだが、ピンチに一向に動こうとしない監督にイラッと来てしまった。


「怯え。」


 思わず状態異常魔法デバフを監督にかけてしまった。「怯え」状態の監督はすぐに植原さんを呼び、マウンドへ送りだす。まったく、「非情」なのは顔だけかよ。この甘ったれ温情監督め。


 俺はもう一つ気になることがあった。G.J.左藤さんだ。左利きのレフト守備も危なっかしいのは危なっかしいのだが、明らかに送球フォームに違和感がある。悪いが、石瀬さんの3失点のうち1点はレフトからの送球が遅かったことが原因だ。下手すると肩を故障ってんじゃないの?


「怯え」ている状態の監督なら「聞く耳」を持つかも。俺は守備走塁コーチの山元さんを通じて進言した。非情かもしれないが故障は正直に言ってもらわないとチームの損失にしかならない。打撃が好調なら指名打者を彼に譲って俺が守備につけばいいのだ。


 個人的には「お通夜」みたいな「懇親会パーティー」は御免被りたい。せっかく「合法的」に飲酒できる機会は逃したくない。ちなみにアメリカの飲酒年齢は21歳からなのでこの機会を逃すとさらに遅くなります。


 植原さんはキッチリと後続を断ち、6対5、ギリギリで勝利を得る。


心底ホッとする。田仲さんがコチラをニヤニヤしながら見ている。せやで、レッツ!パーリィや!⋯⋯とその前にインタビュー?え!?なぜ俺なんでやねん


植原さんはニヤリとした。

 「健ちゃん時々『アホな子』になるんでホッとするわ。自分、今日何本本塁打ホームラン打ったか覚えとー?」


 先発の輪田さんと最後を締めた植原さんと共にインタビューに呼ばれる。実は4試合で6本塁打。現時点でぶっちぎりの本塁打王なのだ。なんだか「ボク目立ちたくないんです」と言いつつ目立ちまくるラノベの主人公みたいで、少し気まずかった。


 正直、個人成績のことなど全く考えていなかったのだ。本塁打を打つ「コツ」とか聞かれてしまった。

「いやぁ企業秘密なんで。」

まさか全自動魔法制御ですとも言えないですし。


「『宿命のライバル』韓国代表チームとは決勝トーナメントでも激突が予想されますがいかがでしょうか?」

うーん。ここは次の布石を打っておくか。


「記者さんたちが言うように『金メダルがあたり前』なら勝てるでしょうし、宿命のライバルかどうかは次の試合でボクと打席で勝負できるかどうかにかかってると思います。まさか高校生から逃げたら『向こう30年』はライバルを名乗る資格がないとは思いますが。まあプロとしてのプライドがあるなら逃げるはずはないですよね。」

 韓国メディアの記者さんたちもいたみたいだし。マスコミの皆さんがどう煽り文句に魔改造するか見ものです。


 はい、改めまして休日前のパーリーナイト!高級ラウンジのパーティールームを貸し切りで。ダルさんと左藤さんの誕生日という建前だ。交渉して門限も+2時間を確保である。


 女の子も日本語を勉強している子を集めてもらった。もちろんかじった程度でかなり怪しい子もいるけど無問題メイウェンティ!言っとくがこれが中国標準語。ちな無問題モウマンタイは広東語な。えぇと、お触りはあきまへんで、とは言いませんが週刊誌ネタにならぬよう自制をお願いします。


 18年ぶりの飲酒。はぁ、やっぱり異世界より酒うんめー。製法が洗練されているんだろうな。いや、俺の適量ってどれくらいか思い出せないんで控えめにしておこう。


 代表の重圧から一時の解放を得たサムライたちの表情。WBCとは全く違う重圧感なのだろうか。なまじっか優勝してしまったばかりに国民からの期待のハードルが高くなっているのだ。誰とはいえないが緊張のあまり初戦のキューバ戦では吐いている選手さえいた。


「健ちゃんいてくれてよかったよ。」

隣の席で主将の因幡いなばさんがボソッと言った。

「俺も来れてよかったですよ。」


「いや、そうじゃなくてさ、初戦ガッチガチだったのにさ、健ちゃんが初打席からあっさりホームランとか打っちゃうじゃん。くっそー、高校生なんかに負けてたまるかとか思ったらすっかり落ち着いたっていうか。いや、高校生にできんだから俺らもやれんじゃね、って思ったわけよ。」


「なるほど、俺、『外国人慣れ』だけは負けてないんで。何しろ何人なにじんだろうがみんな手も足も2本ずつしかついていませんし、むやみにかみついたりしてきませんから怖くないですよ。」

「どんな差別発言よ。『むやみに』ってどういうこと?可能性は0じゃないんかい。」

そうか、実は俺がムードメイカーだったというパターンのやつね。


宴会は門限ぎりぎりまで盛り上がった。



 




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