ドラフト全体1位!
「グレート!」「アメージング!」「コングラッチュレーション!」
俺が待機していた学校の会議室に生徒たちやコーチたちがなだれこんで来た。
「健くん、おめでとう!『全体1位』よ。」
由香さんの目に涙が浮かんでいた。それは紛れもなく歴史的な瞬間だったのだ。
日本人がアメリカのメジャーリーグのドラフト1位に指名されること自体が史上初なのに、その1位指名される30名の中でもNo.1を意味する「全体1位」に指名されたのだ。
日本の場合は重複指名でくじ引き、というやり方が長いので完全ウエーバー方式の「全体1位」というよりも何球団に「重複指名」されたかというのがハクになるかもしれない。
言わばアマチュアの世界No.1という称号を得たのだ。すぐに父親から電話がかかってくる。
「おめでとう。⋯⋯すまん。これ以上の言葉がない。」
「ありがとう。これで借金全部返せるわ。そして、これまで
「バカタレ。お前に迷惑なんかかけられた覚えはないよ。ありがとう。俺の息子に生まれてくれて。この一瞬だけでこれまでのはぜーんぶ元が取れた。最高な気分だよ。」
父親の声は鼻声になっている。
気を取り直したかのように由香さんが俺の写真を撮る。そして、用意した記事を日本に送信した。これが日本への第一報。まさに「トクダネ」である。この数分後にはテレビでニュース速報で流れるだろう。
最初のインタビュー。もちろん、英語でのやり取りだ。「全体1位」の感想を聞かれる。
「僕のファーストネームのケンは21年前のドラフトで全体1位になったケン・グリフィー・Jr氏にちなんで父がつけてくれた名前です。家族や偉大な先人に恥ずかしくない選手になりたいです。そして、いつか自分が、野球を志す少年少女たちに憧れを持たれる存在になれるよう努力したいと思います。」
そして目標。
「まずはオリンピック代表をなんとしてでも勝ち取ります。来年にはメジャーデビューできるようになりたいですね。」
さらに、由香さんが日本に向けた放送で俺に日本語でインタビューをする。これが由香さんのジャーナリストとしての「メジャーデビュー」になるはずだ。
そして、俺はチームメイトたちに庭に連れ出されて「胴上げ」。もちろんこれはアメリカの文化ではない。去年、俺が日本式のセレブレーションを教えてくれ、とチームメイトに聞かれ教えてしまった
俺がホテルに戻ると家族、そして亜美とお祝い。俺は卒業したため、退寮して家族と同じホテルに滞在しているのだ。入団契約の交渉はケントが渡米して行うため、俺は家族と共に日本に帰国することにしたのだ。
「お兄、契約金てどれくらいもらえんの?」
妹よ、目が「¥」になっとるぞ。だがそこは「$」だ。
「そうだな。
ま、お前の大学の学費くらいはポンと出してやれる程度はいけると思うぞ。1億円は余裕で超えるやろ。
ただどれだけ活躍しても最初の年の年俸はマイナー契約だから200万円くらいだし、メジャーに上がっても最初の3年間はメジャーの最低年俸で定額だったんじゃないかな。さらに言えば契約金も何年かに分けて支払われると思う。
「あのさ健。私、日本に帰る前に連れて行って欲しいところがあるんだけど。」
亜美のリクエストはセドナだった。「転生の女神」に聞きたいことがあるらしい。
日本のマスコミに追われる前に行かないとだめかも。俺は由香さんに頼んでついてきてもらうことに。家族はマイアミから日本へ。俺と亜美と由香さんはアリゾナ経由でロスから日本へということになる。
「そういえば二人は正式に恋人になったの?」
由香さんは興味津々。
「うーん。まだ『友達付き合い』なんですよね。」
「へぇ、『まだ』ねぇ。」
由香さんの反応に
「でもなかなか会えないからこれからもこのままかもね。」
亜美はそっけなく答えた。
「かもな。」
俺は苦笑する。
「あら、なかなか会えてない割には息はぴったりみたいだけど。」
由香さんは愉快そうに笑った。
空港からはレンタカーで。すいません由香さん、運転させて。結局自動車免許を取る暇がなかった。オフシーズンにでも取るかな。
去年、熊野さんに連れてこられたセドナ。
そこでたっぷりと「霊的なエネルギー」を補給し、取っていたホテルへ。
「2部屋取ったけどお二人さんでどうぞ。」
由香さんにからかわれる。
もちろん、亜美と由香さんが同じ部屋。さて、「白い部屋」には行けるのだろうか。
たっぷりハイキングした後だからスムーズに眠りにつく。気がつくと俺は「白い部屋」にいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます