サプライズのプロムとドラフト。

「健、妹ちゃんにプロムについてきてもらえばよかったじゃん。」

彼女連れのチームメイトが俺をからかう。


「さすがにはな。それに、彼女はダンスも踊れないしな。」

さ、ピアニストのトップバッターは俺。野球では四番ですが。一曲終わって祝辞やら余興。そしてまたダンス。


 そして、最初のスペシャルゲストらしい。

「このアカデミーに相応しいお客様です。どうぞ。」

ステージに登場というか俺のわきを通り抜けていく淡い桜色のドレスをまとった長身の女性。うほっ。頭ちっちぇぇ。スタイルいいな。後ろ姿を見てそう思ったが、次の曲の譜面のセットに忙しい俺。


「女子野球日本代表選手のアミ・マツザキです。ようこそアミ。」

へえ、アジア人か。いや日本人だな。ずいぶんとたどたどしい英語だこと。え?アミ?


 俺が顔をあげるとそこにいたのは亜美だった。突然俺にもスポットライトが当たる。ちょ、光が熱いわ。司会者が俺を見ながらマイクで言う。

「健が一人さびしくピアニストを気取っているそうなのではるばる太平洋と大陸を超えて彼女を呼んでみました。健、ぼくらのチームに力を与えてくれて感謝してます。おかげで2年連続あのAMG(ライバル校)を倒してチャンピオンになれました。ありがとう、そして卒業おめでとう。」


 沸き起こる盛大な拍手。え?挙動が不審になっている俺のところに亜美が近づいてきた。あれ、亜美ってこんなに色白かったか?

「どうした?顔色が少し蒼いようだが。」


「第一声がそれか?この日のために一生懸命日焼け止めを塗ってたのっ。まあちょっとお化粧もしてるけどね。どう?びっくりした?」

うん、うん。俺は首肯しゅこうする。


俺の完全に「虚を突かれた」様子が悦に入ったのか亜美は俺に手を差し出した。

「ちなみにダンスも覚えて来たから安心して。さ、踊るわよ。」


「俺、ピアノが⋯⋯。」

「さぁ健、どいたどいた。彼女と踊ってらっしゃい。あなたも卒業生でしょ。」

逡巡する俺を次のピアニストが椅子から追い払った。


「あなたのサプライズのために、今回は一人ピアニストが多いのよ。気づかなかった?」

 いや、気づかれたらサプライズにならないからよかったでしょうに。いや、ほんとに驚いた。


 メイクした亜美を見たのが初めてだった⋯⋯いや、違うな。異世界の亜美以来だがプロがメイクした分、今回の方がずっと綺麗だ。


「まさか来てくれるとは思ってもみなかったから。こんな大事な時期に。」

二人で踊るのも俺にとっては初めてじゃない。異世界の冒険への壮行舞踏会で踊って以来だ。だから20年振りか。


「ねえ、もう高卒になったから青学はやめちゃうの?」

亜美はダンスをしながら聞いてくる。すまん、思い出に浸ってたわ。

「やめないよ。青学も大切な母校だし。親に金出してもらった学校だからちゃんと卒業したいから。」

「そうかぁ。よかった。」

 なんのことはない。亜美も俺の家族と一緒に来ていたのだ。家族ぐるみのサプライズかよ。


 そして6月4日は卒業式。みんなでマントを羽織って、学帽を上に投げ上げる。あ、これ一度やってみたかったやつ。


 さらにその翌日にはドラフトだ。アメリカはドラフトにかかる人数が多く30球団で毎年合計1500人程度も指名されるため会議も2、3日かかるのだ。


 これで運命決まるわー。緊張しかしないけど。アカデミー内で待機。一応上位指名は確実ということでフロリダの地方紙、地方テレビ局、アメリカの野球雑誌の記者などが何人か来ている。日本人の報道関係者は由香さんだけ。彼女にとってはまさに3年越しの「トクダネ」ゲットの念願が叶う⋯⋯はずだ。


 ドラフトの様子は去年からスポーツ専門チャンネルでテレビ放送を始めたらしくそれを見ながらの待機。家族と亜美もホテルで観る予定だそう。


 同じ卒業生も何人かは必ずドラフトにかかるそうなのだが、契約金が100万円に届かない順位らしく拒否して大学進学を選択するそうだ。そりゃ毎年何百万円もかけてるんだから最低でも学費程度は元が取れる契約でないとな。


 ヤンキ一スは後ろから二番目の29番目。さあ、呼ばれるのを待つぞ。


ところが、俺の名前はいきなり出てきた。


「ケン・サワムラ。ピッチャー&インフィールダー。バーナード・スポーツ・アカデミー・ハイスクール。」


 指名権第一位をもっていたフロリダの球団、タンパベイ・レイザースの指名だった。

「マヂか!?」


室内は「OMG」とか「ジーザス」と言った神を呼ぶ声から「ファッキ●」など冒涜の声で満ち溢れた。

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