運命の日がやってきた。そして世界への挑戦。

アメリカ留学の終わりに。

 亜美とのデートは春休み最終日だった。いつものようにケントの自宅を借りて。今回はしっかりケントもジュニアもいたけどね。


 「ねぇ、もっとイチャイチャしてもええで。」

二人で携帯で撮った写真を見せ合ってるとジュニアにからかわれる。

「やかましい。俺たちには俺たちの距離感があるの!」


 ジュニアは夏休み前には卒業資格を取り、早期卒業し、9月からのアメリカの大学への進学が決まっている。そしてプロ活動に入るのだ。もうすでに日本のテニス界ではシングルランカーなのだ。

 「へー、ジュニアくんはアメリカに帰ってプロの世界に入るんだねぇ。」

亜美が携帯から顔をあげた。

「せやで。とりあえず大学生の間はそこまで大活躍とはいかんけどね。」


「まぁいきなり四大大会とかは無理だよなぁ。」

「まずはアメリカ国内でランクあげんとな。」


 俺はドラフトにかかったらケントと代理人契約を結んで入団交渉を任せることになっている。

「健はフロリダで決勝トーナメント?」

「そうだね。スカウトが学校にも来るからその対応もだな。一応あっちの高校の卒業の資格は出来たしね。」


 俺もついにアメリカの高校の卒業資格が手に入ったのだ。ちなみに卒業式はドラフトの前日である。式には両親も呼ぶことにした。アメリカは入学式が無い代わりに卒業式は盛大に行うのだ。


 「卒業パーティプロムはどうすんの?」

 ジュニアが心配そうに聞く。特に卒業式に先んじて行われるプロムは学生生活の最後を飾る行事として最も重要だ。ただし、必ずペアでの参加が求められるのだ。


「出ないよ、というか多分ピアノ要員だわ。パートナーもいないしね。」

もちろん、プロムのパートナーは恋人である必要はなく、同年齢である必要もなければ学校外の人でも構わないのだ。


 「キミが誘えば喜んで受ける女の子も多いだろうに。」

ケント、それを亜美の前で言いますか?プロムは日本で言うところの「田舎の成人式」レベル以上の気合いが入っているのだ。パートナーを誘うのに派手なサプライズを演出する猛者もさも少数ではない。


「そうだよ。別に誘いたければ誘えばいいじゃん。あんたの自由でしょ。」

亜美の言葉尻には少し不機嫌な波動が含まれている。うぅ。真に受けてほんとに誘ったら絶対アカンやつや。


 亜美も4月には夏に行われる女子野球のワールドカップの日本代表のセレクションが始まるらしく忙しそうだ。そして夏の選手権の三連覇にも挑む。そのあとがワールドカップ。


 一体、次はいつ彼女と会えるのだろうか?


 俺は再び渡米。トーナメントにすぐに参戦した。それと共にスカウトたちとの対応。アメリカの大学への進学を勧める人もいた。それもそれで悪くはないが、借金生活を考えると流石にメジャーリーグの次は日本のドラフトということに」なる。


 だいたいどの球団も2位以上で指名する、という球団が多かった。まあただの口約束なのでこればかりは当日蓋を開けて見ないことにはわからない。逆に3位以下ならお断りということになる。メジャーの球団は30あり、完全ウエーバー方式であるため上位100人に入ればいいのだ。


 ヤンキ一スは2位には必ず指名するとジョーダンさんが保証していたが、本命の高校生No.1投手アラン・コールスが大学進学にほぼ確定らしく、ジョーダンさんは俺を1位で指名してくれと要求しているらしい。


 ドラフトだのプロムだの、一旦置いて集中、集中。 アカデミーは2年連続で南フロリダチャンピオンになり、5月のシーズンを終えた。


 学内でも俺のプロムでのパートナーが誰か、ということで賭けの対象にもなっているらしい。

「だから俺はピアノを弾くんだって。」

俺は5ドル札を「相手無し」にベットした。



 5月末、家族が渡米してきた。もちろん、俺の借金でだ。もう1500万円近いかも。あまり考えるのをやめておこう。とりあえずフロリダのディズニーワールドで1日遊んでから来るらしい。そろそろフロリダも雨季なんだけどね。


 あれ、美咲も付いて来たのか。学校はどうしたよ。ビデオ視聴で良いのか?

卒業式前に学校を見に来た両親に妹もついて来ていたのだ。

「だって、私もディズニーワールド行きたかったし。」

「生まれて初めての海外旅行がアメリカとはなんと贅沢な。」

「お兄だって一緒じゃん。」

それもそうだな。


「おお、健、娘さんか?」

チームメイトが美咲の存在に食いついてくる。

「妹だ、バカタレ。」


「健にこんなに小さい子どもがいたとは。小学生か?」

14歳以上と知れば口説いてきそうなのでとりあえず肯定しておいた。


ちなみに母親にくいつくやつもいる。

「あれはお前の姉か?」

「いや、母親おかんだ。」

「まじか、お前のママ、若いな。」

「もう40歳越えとるで。」

「見えねー、日本人若いなぁ。」

さすがに翻訳できんな。


 そして、プロム当日。俺は借り物のタキシードを着こんで会場のピアノの調子を確認チェックする。身長190cmの人間に合う貸衣装があるとはさすがはアメリカ。他の2人のピアニストと調整。今回は生バンドも入るようで気合い入っとるなぁ。まぁみんな、楽しんでくれよ。俺も夏が終わるまでにはついにリア充になれるはずだから。


 










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