魔法仕掛けの甲子園。

 攻守交代。結界の気配はない。つまり、結界魔法の術式を行使できる術者がいないことになる。


 また、彼らは個人個人違う支援魔法バフをかけていたので集団パーティにかけられる全体魔法では無いということだ。


 あとは術式の発動が「術者」によるものか「魔法具」によるものかの見極めも重要だろう。


 前回は金堂さんという結界術士がいたことで気がつかなかったが、投手も「支援魔法」を使っていたのだ。恐らく3イニングス交代で投手が代わるのも魔法制御がそれくらいしか持たないのでは?


 俺は魔力の使い切りを幼い頃から実施して、使役可能な魔力量の増加を図ってきた。異世界転移した20年ほど前に比べると倍以上の容量がある。これは魔法をフルにかけて1日に6打席分と投球50球分である。投手だけでいくなら120球分。恐らく十分に完投できる。


 壬生の投球ボールは走っていた。いわゆるキレの良い球。キレが良いというのはボールの回転軸が地面に対して限りなく平行で回転数が高い状態。「命中率アップ」の魔法をかけると魔法がフォームや指の使い方を微調整してくれるのだ。ちなみに俺はピアノで指先の感覚も鍛えてきた結果、さらに繊細に調整できる。


さすがに初見で壬生のストレートは打ちづらいだろう。いわゆる「ホップ」に近い動きをするからだ。

 こういう球を自力で投げられるのは俺たち世代では理想舎の藤村、そして福岡水鏡の中西くらいか。


 初回はこちらは三者凡退。2回表。下位打線は魔法が使えないようである。恐らくは守備特化しているのかも。

平安も三者凡退。


 いや、そうじゃなかった。俺が四番として打席に入るとそれだけで歓声が上がる。否が応でも、山鹿世代が抜けた後の俺は高校野球界を代表する打者である。


 その時だった。平安ベンチから魔法の波動を感じたのだ。それは俺に向けられていた。「魔法解除ディスペル」だと?魔法対策できっちり乗せた俺の魔法はキャンセルされてしまう。


 ようはベンチのメンバーは俺の魔法を封じるための要員だったわけだ。今すぐにかけ直す訳にもいかず、俺の打った打球はライトフライに終わる。そう、魔法無しでは一伸び足りないのだ。このほんの僅かの差が一流とそれ以外を隔てる壁なのだ。


 平安の選手たちの一人当たりの魔力量は恐らく俺の半分から1/3程度。ベンチメンバー18人のうち、1番から5番までの上位打線が「攻撃」魔法。6番から9番までの投手も兼ねる選手と捕手が「守備」魔法。残りは代打1回分の魔力以外を俺に対する「防御」魔法班ということになろうか。あるいはレギュラーに魔法を供給するまさに補欠スペアということか。


 残り2回の上位陣の猛攻を凌ぎながら点を取るという難しい展開じゃないか。

3回が終わって両者無得点。平安は2番芹沢から。イレギュラーバウンドからの内野安打。まさに魔法仕掛けの「ラッキーボーイ」だ。


 そこからクリーンアップに3連打されての3失点。俺は内野手を集める。

「すまん。お前の言った通り敬遠すべきだった。」

捕手の祐天寺が凪沢を庇う。

「俺は二人を責める気はない。まだ3点なら十分取り返せる。ここはしっかりと気持ちを切り替えていこう。」


 まあ6番からは普通の選手。凪沢の方が上回る。きっちり抑えてそれ以上傷口を広げず。ここはさすが百戦錬磨である。

「ウチが打ち負けてるとか珍しいですよね?」

「おう、打ち負けようが試合で勝てばいいだけよ。振り逃げでもいいから塁に出ろよ。」

安武を送り出す。


 3回からは「本格派」の壬生と打って変わって「技巧派」の山波敬助やまなみけいすけ。ただ、安武はお構いなし。スライダーをうまく合わせてライト前ヒット。さすがは天才児。


 2番三原は自分も生きようとしたバントだったがフォースアウト。しかし送る仕事はきっちりと果たす。小囃子は粘って四球をゲット。物凄くいい笑顔で一塁にダッシュ。


 後輩たちの俺へのリスペクトは嬉しいけど、ちと重い。すでに「信仰」レベルやんけ。さあ、行ったるで。俺は打席に入る。



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