魔法の時間。

 翌日、3/29。プロ野球12球団のペナントレースが開幕。先輩たちはパリーグのチームが多いためテレビ(地上波)での実況中継はなかった。結局出場はなかったようだ。


 3/31。ケントから宿舎に電話が。俺がオリンピックの一次代表候補者77名の中に選ばれたという連絡。ちなみに去年までアマチュアだった長谷川さんもドラフトで指名されて入団したため、アマチュア選手は俺一人ということになった。


 もっとも「一次候補」なので別に取材があるわけでなく、俺も由香さんからコメントを求められただけ。

「しっかりコンディションを上げて行って代表入りを目指します。」

としか言いようがない。


 最後の休養日だったため、練習場所を提供してくれている学校での最後の練習。たくさんの人たちが応援や見学に来てくれていた。先日近畿地区(大阪)代表を倒したのに⋯⋯と思ったら伊丹市は兵庫県だった。最後は恒例のお茶会。いつもご支援ありがとうございます。


 準々決勝の相手は昨年、夏の決勝にあった京都の顕真大平安高校。壬生恭介がエースとなっている。うちよりも徹底した球数管理するチームである。そして、魔法を使っていた高校。そもそも仏教系の高校なので「魔法」ではなく「法力」と言うのかもしれないけど。


 先回の対戦で魔法の使用があったことをケントに報告し、調査を依頼していた。さほど難しい調査ではなかったらしい。もともと平安高校の母体となる仏教の宗派は戦国時代には民衆を扇動して一揆を起こさせたり、大阪城の元となった場所に城塞のような寺を構えて戦国大名と対峙するようなゴリゴリの武闘派集団だったのだ。考えてみれば僧侶の結婚が禁じられていた仏教界で突然ハーレム作っちゃうような教祖が現れたら『転生者』を疑っても不思議ではない。


 ちなみにこのお寺は幕末に新撰組の駐屯所を提供していたこともある、なのでますます怪しい。戦後はGHQの査察が入って研究結果の一部は収奪を受けたそうだ。これはケント情報。


 だから当然、戦闘に使うための「法力(魔法)」の研究は行われていたわけだ。じゃあ、この学校のOBでかつて広島の「鉄人」と呼ばれた選手も魔法で強化されていたのだろうか?


「かもしれないね。証拠もなにもない『都市伝説フォークロア』レベルだ けどね。いや、それよりも密かに研究は続いているのだろう。」


 第一試合だけど、今日は二試合だけなので試合開始時間は割とゆっくりだ。


 まずは魔法の有無のチェック。今回はこちらが後攻めなので結界を張るなら攻守交代後だろう。試合の無い日が続いていたので何度か胆沢からの「魔力漏れ」が無いように封印を強化している。


 先発は壬生。こちらは凪沢。球数によっては俺がリリーフに入る予定だ。


プレイボール。あれ、魔法の気配。いきなり?俺が魔法の気配を追うと打者に。結界魔法ではないのだろうか?いや、これはまさかの「幸運度up」?


 一番レフト山前蒸やまさきじょうの打球はふらふらっと上がって小囃子の後ろに落ちるポテンヒット。


 あれ、また魔法の気配?今度の魔法は間違いなく「加速」。二番ショート芹沢嘉茂せりざわよししげのセーフティバント。俺は迷わず二塁を指示。なんとか二塁封殺。一塁だったら絶対に間に合わない。


 三番も魔法かよ。三番ファースト長倉新八ながくらしんやの魔法は「カウンター」。俺はタイムを取って敬遠を提案。しかし当然勝負。内角へのストレートをきれいに弾きかえされ一死一塁三塁。


 ここで4番サード西塔一さいとうはじめ。この魔法は「体力倍加エンハンス」。ああ、俺の魔法を一つ一つバラ売りされている気分。ただ今回は発動せずに併殺打。


 チェンジしてわかったことだが去年の彼らは「守備」に魔法を使っていたが今回は「攻撃」に使っていることだ。


 問題は彼らが自己強化のみに魔法を使っていれば俺にはなにも言う資格はない。ただ、こちらに状態異常デバフをかけて来なければ、だ。

 

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