男子三日会わざれば。

 例年、高校野球の対外試合の解禁日は3月7日前後である。なのでそのあたりを目指しての帰国。今回は2か月ちょいの渡米だった。やはり日本⋯⋯、いや関東はまだ肌寒い。


 家に帰って久しぶりに母が作ってくれた料理を食べる。なんとなくアメリカの食事は「補給」という意識しかないので、母の料理が俺の中の味の基準値なんだろう。食後、妹に珍しく話しかけられる。


「お兄、これ亜美ちゃんから。また『おまじない』よろしく、だって。終わったら私が届けておくから。」

 そう言って小箱を渡される。いや俺が、と言いかけてやめる。亜美も魔力を持っているので「護符」というか術式を記した魔法陣さえあれば自分で充填できるんだった。だから別の支援魔法をかけておく。


 登校すると皆、甲子園への準備で忙しそうだ。俺も試合を意識した連携プレーの確認などに励む。俺は投手も兼ねているので確認事項も多いのだ。


 凪沢が主将キャプテンとして野球部長と共に前乗り。組み合わせ抽選会に臨む。今回は第80回の記念大会。通常の32校に対して36校が参加する。結果は大会2日目の第3試合、2回戦からの登場。なかなか良いクジ運だ。まあ早朝4時起きが求められる第一試合でさえなければどこでもいいのだが。


 甲子園練習の予定もあるため4日前にはホテルに。そして、練習用のグラウンドをお借りする高校へご挨拶に。とにかく夏と違って暑くないのが助かる。


 翌日は甲子園練習。マウンドの高さと傾斜と硬さを確認する。ちなみに学校のグラウンドのマウンドも第一グラウンドは甲子園仕様、第二グラウンドは神宮仕様になっている。


 両親には「最後」の甲子園かも、と伝えてある。どのみちオリンピック代表を射止めれば自動的に夏は出られない。そしてメジャーのドラフトにかかれば予選すら出られない。だからこそ最高のパフォーマンスをしようと思う。


 開会式。凪沢が優勝旗を持って行進する。テレビが入っているのでキョロキョロしたいのを我慢せざるを得なかったが、みんなしっかり身体がデカくなっている。「男子三日会わざれば刮目かつもくして見よ」ってやつだ。ただ目をかなくたってそれくらいはわかる。


 開会式の後は宿舎に戻り、翌日の試合に備えて軽く練習する予定だ。春休み中の土曜日なのにその学校の生徒たちがたくさん見学につめかけていた。



 2回戦(初戦)の相手は高知県の土佐致道義塾。一年秋の神宮大会決勝で当たった相手。それから約一年半。すっかり代替わり。主将は犬養太知いぬかいたいち。恐らく俺たちの世代の捕手では1、2を争うだろう。投手は大神亮輔おおがみりょうすけ猛獣度ワイルドさが増している。常時150km/h超のスピードボールを投げる「ノーコン投手」だ。


 「ノーコンに見えるが、完全に犬養はボールの行き先を把握しているから怖がらずに行けよ。」

 先頭の安武トラにアドバイス。一応報道によれば太知の代になってからはラフプレーはなりを潜めたらしい。


 ただ内角攻めが怖いらしく、あの向こうっ気の強い安武が内野フライ。「わかってはいても踏み込めない怖さ」というものがある。(これは10年後に定着するCフラップ、つまりフェイスガードの定着までは大問題だろう)


 ただそれが今回、俺がアメリカで研究してきたものでもある。「選球眼魔法」の精度を上げること、そしてそれに加えて状態異常「怯え」の解除魔法の連動だ。


 結果を知ることと、その状況に対処できることはまた別の話だ。よく、事故に遭った時に起こった出来事がまるで「スローモーション」のように見えた、なんて話は良く聞くがそれに対処できわけじゃない。


 迫り来る恐怖に対して「手も足も出ない」では困るのだ。そこは一歩前へ進むことが大事。もしオリンピックに行けば、恐るべき身体能力や恐るべき悪意など様々な対戦を想定しなければならないが、ほぼ初見の相手に対して成果を出すにはいつでも身体が動き出せるようにしなければならないのだ。


 二番の三原は上手に合わせて出塁。長打力は無いがミート力だけなら一年生ではNo.1だな。能登間さんみたいな天才タイプ。三番小囃子ミッツの当たりはアウトになるも進塁打。


 二死二塁。俺は当然のごとく敬遠される。続く五番帯刀イッシーは討ち取られてチェンジ。みんなそれぞれ成長を果たしている。なかなか楽勝というわけにはいかないらしい。




 

 

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