新年の誓いと決意?
平成20年のお正月。俺は三が日は急に増えた親戚に応対するのが大変だった。正確に言うとこれまで全く行き来がなかったのに「付き合い」を望む親戚が増えたのだ。
父は4人兄弟の末っ子、母は三人兄弟の真ん中で、いとこの数もけっこう多い。しかも祖父母の兄弟の関係者も来訪するものだから収拾がつかない。特に色紙を抱えてくる者も多く、俺の「昭和な」サインを書き散らかすというげんなりするイベントだったのだ。
渡米の準備もしながらの4日、俺と亜美はケントの家に招かれた、というかケント自身もクリスマスからアメリカに帰っているので場所だけ借りるというわけだ。もちろん、バーナード家の家政婦さんが4日から仕事ということもあって無人のお家に二人きりということはない。
ただ、久しぶりに会ったと言うのに亜美は浮かない顔だ。
「あのさ、前世の話なんだけどさ。結局バスの事故で異世界に行ったわけでしょ?それが高校三年の夏じゃん。また同じこととかならないよね?」
「なるほど、それは考えたことがなかったな。」
亜美が出場を目指すワールドカップ。今年は日本の愛媛県松山市での開催が決まっていて、8月24日から29日だ。
「でも、心配は無いと思うよ。」
俺には確信がある。
「だって、前世の俺は万年補欠だったけど、今は甲子園出場校のレギュラーだよ。亜美だって前世はただの女子マネだったけど今や日本代表じゃん。未来は良い方に変えられるってことだよ。⋯⋯それは、俺と亜美の関係だって⋯⋯。」
勢いで言い始めたものの最後は少し恥ずかしくなってゴニョゴニョ。察した亜美が笑って言う。
「うん。そうだよね。き、気合いだよね。⋯⋯うん、気合い。」
「昭和かよ?」
「あはは、昭和の女子の記憶が混じってるからね、けっこう影響あるかも。」
そう、悲劇的な宿命があるのなら変えていかなければならない。
「やっぱり
わからない。だから彼とはなるべく離れたところで、もしくはなるべく利害が一致したところで野球をしてきた。
ただ、胆沢には魔力があってもそれを使役したり制御したりする術式は使えない。それは彼が魔王となることを望み、その後勇者に敗れたために課せられた罰だ。彼の力は無数に分割された上、無数の並行世界にちりばめられているのだ。
しかし、平安高校の選手が胆沢の魔力を使っていたことがある。これはつまり、胆沢の魔力を引き出せる存在、たとえば彼の魔王時代の
それもアメリカに行きたい理由だ。
あとは野球の話やら世間話やら。コロコロ変わる彼女の表情を見ながら話を聞くのが嬉しかった。つくづく思うのは、俺はこの子が心底好きなんだなぁという、ただそれだけ。
ふと彼女が思いついたように言う。
「いつも思うけど、久しぶりに話したのに久しぶりな気がしないね。」
でも容赦なく幸せな時間にも終わりは来る。
「次に帰ってくるのはセンバツ?」
「うん。その時はまた、ここで会おうよ。ケントも楽しみにしてると思うし。」
でも正直言って彼女にとって俺はどんな存在なのだろう。俺は彼女に告白する「約束の日」までどうしていけば良いのだろう。前世の面影だけに惹かれているだけだと誤解されていないだろうか。
俺は冬休み明けと共にアメリカに渡った。また魔法と野球のトレーニングに集中するためだ。アジア選手権で日本を代表する選手たちのパフォーマンスを取り込んでいきたいし、身体ももう一回り大きくしてパワーとスピードをつけたい。
アカデミーでの俺の部屋は短期留学生用の部屋。だから近くには日本・韓国・台湾からの留学生も多いがあまり彼らとつるむことはない。俺が語学研修の授業を必要としないせいもある。
「健が帰ってきたぞ。」
受付のロビーにはこの間のアジア選手権の俺のユニフォームが展示されていた。在学中にナショナルチームというのは流石に珍しいのだ。
もっとも、毎年のことながらやつらの目的は俺が持ってくる日本の菓子。上級生が抜けて下級生が入ったため人数は変わらない。
「きのこ」派と「タケノコ」派で殴り合う手前くらいまでは餌付けされているのだ。
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