次のステージへの招待。

 いやしかし、先輩たちと来たらあっさりと優勝してきました。10チームによるトーナメントである国体。先輩たちは史上初の快挙となるグランドスラムを達成、プロ入りに花を添えた。


 高校野球史に残るレジェンドを先輩と仰ぎ見る後輩である俺たちも意気軒高いきけんこう、月末の関東大会に向けて練習や練習試合に励んでいた。


 そして連絡が来た。ケントに理事長室に呼ばれたのだ。

「健。アジア選手権出場選手の最終候補34人の一人に君が内定したよ。干野ほしの監督が是非キミを手許てもとで実際に見たいんだそうだ。


 プロ野球選手はね、リーグ戦に慣れ切ってしまっているところがあるからね。キミの柔軟性を見たいんだそうだよ。」


 ただ問題もあって、関東大会の決勝が11/1。神戸で行われる代表合宿は11/2スタート。ギリギリの日程なのだ。


「関東大会は準々決勝までにするかい?」

意地悪そうにケントが聞く。

「私としてというか学校の運営の本音としては甲子園の出場権さえ確保してもらえれば十分なんだけどね。」


「まさか。なんのための『自動回復』ですか。決勝の終わったその足で神戸に行きますよ。」

「大きく出たね。良い傾向だよ。」


 いや、先輩たちの快挙のせいで俺も欲が深くなって来た。やっぱり一流を目指すには「強欲」でなければならないんだ。だいたい関東大会の決勝まで行けるなんてなんの保証もない。でも絶対に行ってやる。


 この秋の関東大会は10/28から栃木県で開催される。バスで片道2時間くらいのため、学校からの通いである。山鹿世代と違い、そこまでの強敵はいないとも言える。


 というのが間違いで、正確にはこの年代が「成長期」であることを考慮に入れなければならない。一年の差というのが非常に顕著な年頃なのだ。とりわけ、試合が禁止になる12月から3月上旬までの間、選手たちは身体の強化に血道を上げ、文字通り「一回り大きく」なる。一般に言う「球児は冬に化ける」というものだ。


 だからまだパワーアップ前の状態同士。相手は同程度なのだ。

「それだと、先輩たちはこれまでなぜ正選手レギュラーが務まっていたんですか?」

バスの前に座っていたマネージャーの知世がこっちを向いて聞く。ちなみにバスが高速道路で走行する際にシートベルトが義務化されるのはこの翌年のことだ。


「センスだよ。」

俺がそう答えるとふーんとだけ言う。センスというか成長の早い遅いなんだよ。

「うちの場合は成長に見合った身体を作りながらトレーニングするからな。これからもセンスと身体を磨いて行くというわけだ。」


「でも健先輩はあんまり筋肉つけてないですよね?まあ私は細マッチョ好きですけど。今度身体を触らせてくださいよぉ。」


「なんだその手の動きは?オッサンかよ。だが良い質問だな。俺たちは腕の力だけでボールを投げたり、バットを振ったりするわけじゃない。大きな筋肉よりも、野球に必要な小さな筋肉を鍛えているというわけだ。」


へーとだけ言う。この子は野球に興味があるのかないのか良くわからんな。


 1回戦は地元の栃木第三代表の求道学院。絶対的エースである諸星さんが抜けた穴はあまりにも大きい。夏の甲子園のチームから主力は総入れ替えと言ってよく、投手も俺たちと同世代だが明らかに線が細い。もちろん、有意義な冬季を過ごせば化けるはずなのだが。


 一番打者の安武がいきなり2塁打。三原がセーフティバントで一塁三塁。三番小囃子があっさり外野フライで先制点。おい、1年生だけで簡単に点を取やがって。


 一死三塁なので俺も外野フライでいいや。あちらは引っ掛け狙いの外角かな。左打者としてはスッと逃げて行くスライダー。十分に踏み込んで俺も「スッと」降った。よしよし外野フライ確定。⋯⋯と思ったら入っちゃった。


 上の世代に挑むという点では挑戦者というプレッシャーだった昨年と違い、精神的に余裕がもてるのがいい。おかげで落ち着いてプレーできるし、周りもよく見える。身体の成長に伴いスピードもパワーも上がっているので魔法の効きもかなり向上している。


 試合はエース凪沢の好投もあり6回で11対1でコールド勝ちを収めた。甲子園まであと一つだ。


 

 

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